二十二
彼女は一切慌てふためく素振りを見せなかった。否、慌てふためく振る舞いを掻き消して、本心をひたすら隠蔽しているように窺えた。私は彼女の瞳の奥までもを凝視した。
「死を急ぐ理由なんて簡単です……もう耐えられなくなったんです。それに御覧になられましたか、蝋燭の比喩。まさにあれです。生き終えても何も残らない女なのです、私は」
毅然としていた姿勢が語尾に近づくにつれ脆弱なものへと化して行った。その突如の変貌に私は些かの焦りを覚えた。私は膝を追って彼女の話を聴き込もうと試みた。若くして自ら死すことにはそれ相応の理由があるのではないだろうか、と想ったものだから。
「私の父と母は死にました。否、殺されました。妹も弟も。全員。それはもう彼是数年も前の話になります。そのときの記憶は一切ありません。男が私だけを殺さずに去って行ったのです。それから私は田舎の母方の祖父母の家に送られました。しかし、三ヶ月も経たない間に祖父が自ら溺死し、祖母は急性の病気で他界しました。それで今、父方の祖母の家にいます」
私の躰は知らずの間に震えていた。程なくしてその震えもとれてきたが、彼女の冷淡な立ち振る舞いの起源は全てこれであったのか、私は確信した。
「それはそれは……だが死ぬ必要はあるのか。寧ろ祖母という肉親を前に死ぬのは、祖母が可哀想だと想わないかい」
「逆ですよ。私が生きているから可哀想なんです。私は母方の祖父母の葬儀で遠い親族がこう言っていたのを偶然、耳にしたんです。――あのすゞって子は死神だよ――って」
「それは違うんじゃないかな」
「いいえ、正しいですよ。現に私と同居した肉親は相次いで命を失くしているんです。私は死神なんです。私と共に生活した人は必ず死ぬのです。だから私は私に掛かる全ての物を還元しました。食べ物も裏口にいる小動物に与えました。この痩身もそのせいです。祖母の前で多少食べて残りは全て」
「それは祖母に失礼ではないか」
「確かに愛情を裏切っているようにも解釈できますが、私は祖母の倹しい食事を食べるほど罪の重いことは無いと想っています。こんな私に少ない食料を分け与えるなんて……」
畢竟するに彼女は自分の存在価値の皆無を主張している。気付けば彼女は最初の理知的な風とは一風変わって感情的になっていた。これくらいの情緒性がなければ彼女の人間性の欠乏を疑うが。だが、彼女の自己嫌悪は人間性の欠乏である。初めてであった。ここまで自分を嫌う人間を前にしたのは。私が持っている医学書の心理学の処にこれに類似する内容が書かれてあったかもしれないが、実際が予想の範疇の数倍も残酷なものだとは全く予想してなかった。
私は少し手を伸ばして背後の障子を開けた。




