二十一
私が写真の彼女の笑顔を頗る嫌ったのは、やはり普段は笑顔を見せない女が装いで行った行為であると悟ったからであった。実際に対面してみれば、彼女は非抒情的で、一切の隙も感じさせない、完全無欠と謂っていい程に冷淡である。だが、私はその彼女のそれに心奪われてしまったようだ。
彼女が私の近くまで来た。彼女の躰は一切の無駄が無かった。だから見ていて逆の違和感を感じてしまうことが在った。女と謂うものは之ほどに美しいものか、と今更ながらに実感することとなる。彼女は私の眼前まで肌を近づけて行燈袴を手に取りそれを羽織った。紅に帯びた眦や乳はまだ手入らずの証明であった。私は一度目を瞑って彼女から視線を外す。
「気持ちの悪い鴉が啼いていますね。何処かで」
彼女は一切の熱を感じさせない口調でそう言った。これは恐らく都会の女を真似ているのだろう。確かに彼女の躰を見ても性格を見ても田舎から遥々やって来たような匂いを漂わせている。
「別にそう意識することではないさ。君の村にもいたはずだろうに」
「今いる自分の状況によって感性は変わるものですよ。鳥の囀り一つさえも」
理知的な無表情の彼女は爽涼の中へと私を誘うようであった。私は彼女の髢に手を添えてみた。彼女は一瞬だけ驚く素振りを見せたが、別段拒絶する風は無かった。
「何ですか、いきなり」
理詰めたように凛とした表情の彼女の顔も、少し火照り始めて頬も微弱に緩んだりもとに戻ったりを繰り返し始めた。
「特に意味はないんだ」
そう言った途端、私の手を振り払った。何処にも嫌がる風がなかった。おそらく照れ隠しであろう。私の欲情が益々卑陋なものへとなっていく。今にも彼女の口元へと伸びていきそうな右手を抑えつけて、話題を提示しようとしたときであった。
「いつ私を死なせてくれるのですか」
妄りがましい連想を繋げていた私の思考回路を寸断させるようなその言葉は、私の欲情を俄かに興醒めさせた。
「……私はいつも安定した状態で死を迎えさせようとする為に、このような時間を設けているのですが」
肩身が狭くなった私は小さな声でそう言った。すると彼女は即座に私の心に突き刺さるような言葉を発して来た。
「例え他の女にそれが必要だったとしても私には必要ありません。便箋を開封なされましたか。手紙を読まれましたか。なら解るでしょう。私が死を急いでいることくらい。私はこんな世界に長居するつもりなんて微塵もないのですから」
と彼女は私の鼻筋をしっかりと見据えて言った。この言葉に私は一切言い返すことができなかったが、一つ気がかりなことがあった。愚問であることくらいは百も承知である。その上で彼女に尋ねてみた。
「何故それ程に死を急いでいるんだい」
私は俯いてそう尋ねた。




