二十
そこにいた女は誇張した潤色の化粧に髪型で整えていた。先日に逝った女性に劣らぬ純白な肌色に、か細い四肢。背後から射す光を跳ね返すように光る唇は、赤子のような幼さを醸していた。私は数秒の間、見惚れてしまっていた。
「どうも、すゞと申します」
今にも倒れてしまいそうな軸のその声は、男の欲情を擽る作用があった。私は防遏しなくてはならぬことを知ってながらも、脆弱な自分に負けそうになっていた。一応私も形だけの自己紹介をして、出し抜けに年齢を伺った。すると私の推量通りの年齢を明かしてきた。
「十五です」
的中した。しかしそのことに嬉々となることは出来なかった。若ければ若い程、罪悪感の度合いも比例し、増していく。泥水が心に染み込んでいくような感覚に襲われた。私は想わず顰蹙し、渋い面持ちを露骨に彼女へ見せた。しかし彼女は素知らぬ顔で行燈袴を脱ぎだした。私は突然の彼女の行為に淫靡な感情よりも先に吃驚を覚えた。
「お湯に浸かってきますね」
彼女は至って冷静な儘で裸体を晒したまま、湯船の方へと向かった。刹那の驚愕は確かであるが、何より今は彼女の端正な躰に賤しい欲情が増して行った。私は袴を握りそれを必死で抑制しようと試みる。だが、私も人間であり一人の男である。それは難しい話であった。ふと手を見詰める。何度か触れた女の触感で未だに濡れている私の指先。今、目の前にある女から敢えて距離を置こうとする、自分の普遍的な人間性が欠乏しているような行為に呆れを感じた。今直ぐにでも此の躰を奈落の底へと沈めたい、そのような気分であった。
湯槽の方からお湯が流れる音が聴こえる。そのお湯は彼女の白い肌を静謐に伝っていくのか。私には妻がいると謂うのに何を考えているのだか。だが、それは本心ではなかった。今の私に妻の存在など味噌滓と同じような存在である。いても無益、いたら有害。今の私の妻の存在はまさにそれであった。私の意見を受け入れようとしない、傲慢な性分の彼女。それならば、些か冷淡でも麗しきすゞを見ている方が、有益で無害である。
嗚呼、あの女の汗の匂い。そして幻想的なおぼこ娘を壊す快楽。
ろくでなしだとか、愚かな人間であるとか、そういうことはどうでもよかった。そうやって自己欺瞞して上辺の正義を語るよりも、己に嘘をつかず愚直に生きる方が、価値のある生き方だと私は想う。
彼女が脱ぎしてた行燈袴を瞥見した。彼女はいつも之を着ているのか。
刹那、お湯の音が止まり、彼女は雫を垂らし乍ら歩み寄ってきた。




