十五
「朝食が出来上がりましたよ」
布団に入ってから間もない内に呼び起こされたから、そう寝ぼけてなかった。少し重たくなった目蓋を触って、妻の背中を眼前に、階段を下った。
卓袱台には白米と味噌汁に卵焼きがある。倹しい食卓であるが、私はこれが嫌いではなかった。箸を手に取り、膳椀のそれらを口に含んでゆく。
「そういえば昨晩は手紙を読まれたのですか」
何処か妻の言葉の節々に粗忽さがあるように感じる。これは果たして気のせいなのだろうか、と自問自答しながらも形だけの答えは発した。
「読んだせいで昨晩眠れなかったんだよ」
頬一杯の米が口の中にあるせいで、少し言葉に濁りが生じてしまった。
「今回も若いんですか」
「若いの度が過ぎている。写真が同封されていたが、一見すれば十五、六に見えて仕方がない」
私が暗鬱な面持ちを浮かべながら落胆する一方で、妻は酷く愕然としている風を見せた。当然だろう。私も初めてである。之ほどに若い女が死を望んでいるということ何て。初耳で驚かないともなれば、とても訝しい。
「この間の女の子は幾つでしたっけ」
「二十四だったはずだ」
二十四も躊躇するくらいに若い。だが、それよりも若い女性が今、私に死を求めている。不条理な噺だ。私は捗っていた箸を持つ手を止めた。
「世も大分変ったんですね」
妻は箸を持つ手を止めることなく、吐きだすように俯きながら言った。妻は美しい目で刺すように此方を一瞥し、止まった私の手に少しの憤懣でも抱いているような目つきを見せた。私は卵焼きに箸を入れ、口にする。何だかそれは無味のように、私の舌は感じた。嗚呼、もう味さえ解らないほどに苦しい。
「彼女を呼ぶとするよ。今日中には連絡をつけて、な。残酷な噺だ。私はこうして又一つの若い命を奪わざるを得ないのか」
「何故、この職務を続けられているのですか」
と、私の言葉に被せるように彼女は言った。そういえば、私はこれを彼女の前で口にしたことがなかった。
「人を治すことが嫌いだからだよ。死を招きかねない」
自嘲的な口調で私は言った。急に笑いが躰の底から込み上げてくるのだが、それを必死に抑制して、持ち堪えた。
妻の顔は引き攣っていた。




