十三
私は揺り椅子に深く座り、写真を凝然と見詰めた。写真の女の子は通俗の幼さと可愛さを持った笑顔を向けているのだが、私は頗る彼女の顔を毛嫌いした。無理に皺をつけたようで、それは彼女の本心を掻き消した偽装にしか見えなかった故。私は胸がつっかえるような感覚に襲われた。同時に罪悪感に似た罪意識が高まっていくものだから、呼吸さえ難儀な話になってきてしまった。写真を机に置く。もういい、私としては充分過ぎるくらいの刺激を受けた気がする。
手紙を手に取った。何故に空けたのか解らぬ行間を目で追い、時候の挨拶から読み始めた。
――霖雨の候、そちらの天気はどのような感じでしょうか
所謂無教養な、拙い時候の挨拶は、やはり送り主が写真の女の子であると謂うことの裏付けになり、自然と確信を近くさせた。
――私はもう人生に疲れてしまいました。私は生まれてくる必要性の無い人間でした。価値が無い、と謂ったところでしょうか。もう日々の生活が耐えられません。
安楽死を望む人間の典型的な文章である。だが、こういう人は大概、死が近づけば近づくほどに死を畏怖し、直前で安楽死を拒む場合がある。しかし私は彼女に関しては之を望める気がしなかった。歪な文字が私に辛苦を語り掛けるようであった所以。
――今すぐにでも消え去れるなら、そうさせてください。一分一秒でも早く消え去ることを一途に願っています。早く。早く。
手紙は終わった。残りは白紙の手紙が二枚ばかし入っているだけ。随分と奇異な便箋である。私は平静を装いつつも、心の何処かで隠しきれない畏怖が確かにある。一体これが何なのか。彼女は一見純粋のように見えて、汚穢を知っているように見えるからこそ、この文書だけでは解らない節が多すぎる。
何より彼女が自分の死を急かしていることに、私は疑念を覚えた。彼女の目の前に今何があるのか。何かに追われているのか。この文字の雰囲気を見ても、何かに毒されたかのような奇矯である。その何かさえ解ればこうも小難しく考える必要もないのだが。
机の奥に移動していた封筒を手に取って、裏面を見た。そこには粗雑な文字で送り主の名前と住所が明記されている。その文字を書いたであろう、そう予想される筆の墨は非常に微々たる量しかつけていないようだった。焦りながら書く姿を想起させる文字の雰囲気と、最後の方になるにつれ霞んでゆく文字を見れば、誰でも推察できる。それをもう少し捻って考えれば、送り主の彼女は貧困かもしれない、ということが解ってくる。
障子が風に吹かれて微弱に揺れた。




