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輝け!非モテ系ディバインナイト友の会

「類は友を呼ぶ」。

文字通り、「人間は似たような者同士が仲良くなる」という意味だ。

英語で言えば、"Birds of a feather flock together."…同じ羽毛の鳥は集まる。

それは何らかの共通点かもしれない。

それは何らかの共有する状況かもしれない。

ともかく、同じモノを持っている者にはシンパシーを感じやすいし、また親しみやすさもそこから生まれるのだろう。



それでは、彼ら四人をつないでいるのは、どのような共通点だろう?

言わずとも知れている、嗚呼残念ながら。

それは―



「…であるからしてッ!学園内にはびこるリア充どもによる蹂躙を許してはいけないのだッ!」

真っ赤な顔をしたラグナ・グラウシード(ja3538)は、力強くそう言うなり、ビールで満たされたジョッキを勢いよくあおった。

目はすっかり座ってしまっている。テーブルの上にごろんごろんした空ビール瓶が、どれほど彼が飲んだくれているかの物証だ。

先ほどから延々十分以上、「リア充討つべし!」的演説を朗々と行っている彼…

だが、誰もそれを止めないし、誰もツッコミすら入れない。

というか、聞いていないのだ。

「俺はね、信じてるんですよ…『人生一度はいつかモテ期がくるハズ!』って!」

「うんうん、わかるよー俺もそう思ってるもん!」

「でもッ!でもッ!…学園じゃ完成されたリア充ばっかりで!俺のモテ期はいつ来るって言うんですかッ?!」

グラスに注がれたコーラを一気飲みしながら、これまた座った目で(彼は未成年なのでアルコールを摂取していないはずなのだが、場の空気に酔ってしまったのかもしれない)まくしたてる眼鏡の青年、若杉 英斗(ja4230)。

彼の真剣な訴えに、何度も何度もうなずく金髪の彼は、桐江 零(jz0045)。

酒が大好きなうえに「泣き上戸」という特質をもつ彼は、必死に己の不遇を嘆く若杉に同乗してしまったのか、べそべそ泣きながらカシスオレンジをすすっている。

「そうだよね~?ちょっとねえ、目に余るカップルばっかりだよねえ~」

一方、若杉と同じく未成年のためアルコールを飲んでいない星杜 焔(ja5378)だが、雰囲気に影響されてしまっているのか、彼の発言もやっぱりどこか危ない。

「リア充( ゜Д゜)<氏ね!」と言ってはばからない過激派のラグナに対し、「リア充しななくてもいいけど公共の場にはみだしてるリア充に浮気捏造して猜疑心と裏切りの果てに沈ませたいそれとデスソース☆」という穏健派の星杜ではあるが…

「俺が仮にかっぷる限定アトラクションの仕掛けを作る係になったら、お互いが裏切らないと先に進めないような陰湿なトラップばっかり仕掛けるなあ~」

おっとりした口調で、言うことはドえす。

黒さ炸裂の発言に、だが…わっと湧き立つ一同。

「そうだあっ!星杜殿の言うとおりだあッ!」

と、誰にも聞いてもらえない演説をしていたラグナが、彼の発言に喰いついた。

「くくく…跳梁跋扈するリア充どもを罠にかける!仕置き、そうだこれは仕置きだ!奴らには粛清が必要なのだッ!」

「そうだねえ~、何かでヤっちゃいたいよねえ~」

「その時は俺もやりますッ!」

あっという間にダークサイドに墜ちていく彼らの会話。

しかしながらこれは酒や場の魔力のなせる業ではなく、彼ら自身の特質のせいだ。


彼らは天魔と戦う撃退士ブレイカー。そのクラスは…ディバインナイト。

Divine Knight..."divine"というのは、「神聖なる」という形容詞。

即ち彼らは、天界の影響を強めに受ける、仲間を守る盾たる宿命を負う「神聖騎士」。

何故だか学内でもディバインナイトの人数は少ないのだが、それでも戦友を護衛する鉄壁の守護者として神聖騎士たちは日夜戦っている…

はずなのだが。

理由はわからないが、ともかく、彼ら4人はモテなかった。

誰もかれもが整った容姿に恵まれているというのに、出会いのチャンスがいっこうにない。

健全なる思春期男子として、それは非常に非常に耐え難く。

とうとう彼らはひねくれてしまい…「リア充爆ぜろ!」という歪んだ思考にたどり着いてしまった。

「非モテ系ディバインナイト友の会」。

彼らが自虐的に自らに与えた名がそれである。

そして、今現在、この星杜の家で行われているどうしようもない飲み会こそが、「友の会」定期会合である。

星杜の作ってくれた手料理を食べながら酒を飲み、愚痴を言い合うという非常に非生産的な会合。

ご覧のとおり、「神聖騎士」の名が泣くような会話のオンパレードなのである…


「ふ、ふふ…見てくださいよ、これ」

と、若杉が、ポケットから金色のペンダントを取り出した。

「…ペンダント?それがどうかした?」

「これ、中身がこうなってるんですよ」

「おお!ロケットペンダント、という奴だな!ロマンティックだな!」

かちり、と爪先で留め金を外すと、ぱかりと開いたそこには写真の入るスペースが。

意外と乙女系な思考を持つラグナがテンションを上げている。

そして若杉、そのロケットを握りしめ、あさっての方向を見つめながらうっとりと語る事には…

「俺、彼女ができたらロケットに彼女の写真を入れるんだ…」

ふっ、と、憂いの混じる微笑を浮かべ。

「そして、敵の攻撃を受けた時『このロケットが胸ポケットに入っていなかったら…』をやるんだ!」

「お…おおー!」

感嘆したまわりの3人から沸き起こる、拍手の嵐。

「俺だっていろいろ夢はあるんだよ~」

と、星杜がにこり、と笑みながら続ける。

「可愛い女の子の恋人ができますように~、って、思ってるんだ~」

「星杜さんはどんな女の子が好みなんですか?」

「え、う~ん」

若杉に問われ、その穏やかな表情を崩さないまま…

言い放った。一気に。

「同い年以上で~、背が俺より低くて~、笑顔が綺麗で~、淑やかで~、トレンチコートが似合って~、コートの下は森ガール系で~、散弾銃を装備していて~、天魔にぶっ放す様が可憐で~、一緒にヒャッハーしてくれて~、顔は猫っぽい感じの赤い目で睫が長くて~、黒髪でストレートロングヘアーで~、声は鈴が鳴る様なお嬢様っぽい感じで~…」

普通の者なら「長えぇよ!!もっとわかりやすく言えや!!」と怒り出しそうなところだが、さすが同志たちは違う。

「ああ、わかるぅ~!俺も笑顔が綺麗な人がいいなあ~!ついでに脚が綺麗な人が!」

「散弾銃と言えば、インフィルトレイターか…うむ、僕のココロも打ち抜いて☆という奴だな!」

「一緒にヒャッハー…きゃっきゃうふふできそうでいいですよね!」

思い思いに好意的な反応を返す面々。どれが誰のコメントだかはめんどくさいのでお察しください。

「桐江殿は脚の綺麗な女性が好きなのだな」

「うん、そうだね!それで踏まれたりなんかすることを考えると、もう…」

「ああ、よくわかるぞ!そうだな、ドキドキするな!」

そこから発展するマゾヒストどものダメ会話。

ちなみに4人中2名はまともなのでご安心ください(?)。

「ちなみに~、ラグナさんは~?」

「わ、私か?!私は、その…美しく愛らしく気立てがよくてかわいくて私を気遣ってくれてスタイルが良くて胸が大きくて(以下略)」

たいていの奴は聞かされたら「うぜぇ!!」の一言で切り捨てるだろう、非常に鬱陶しいかつ高すぎる彼の理想。

だが、ああ…同じ苦しみを抱える、同じ哀しみを抱える仲間たちのまなざしは優しい。

「そうだよね~!やさしい子がいいよね~!」

「俺もかわいい子がいいです、一緒にきゃっきゃうふふできれば…」

「スタイルがいい、ってのは魅力だよね!」

そうして一緒にわやわやと盛り上がる四人…

「しかし!すでにそのような女性は、リア充の手に落ちているのだ!」

「悔しいよね~、ナンパしてももうお手付きだったりするんだよね~」

「なんだかやるせないよね」

「まったくですよ!納得いかない!」

と、油断すると話題がすぐにリア充に対する憎悪に移り変わる。

まるで、「リア充たちが独り占めしているから、自分たちにカノジョができないんだ!」とでも言わんばかりに。

ツッコミどころは満載だが、残念ながらここにその役目を果たせる者はいない。

しかして、彼らは不毛な会話を続けるのだった…



リア充を呪い、己の不幸を嘆き、互いに慰めあっているこの男四人。

彼らは意気軒昂としてリア充撲滅を叫び、黒い愉悦に笑い合っているように見えるが…実は、そうではない。

それが証拠に、見るがいい。

横断幕に描かれた、血のような赤が鮮やかな「くたばれリア充( ゜д゜ )!!」の文字…

まるで、血涙を流しているようではないか?

そう、彼らは泣いているのだ。彼らのこころが泣いているのだ。

長い長い不遇の時を嘆き、愛に巡り合えない我が身を嘆き。

そのたまった鬱憤を、わかってもらえる同志たちと共に分かち合い発散する…

なんて生産性のない、だがなんて胸を突く真実だ!

彼らは同志、彼らは仲間。

同じ羽の色を持つ、非モテ系ディバインナイト友の会…



ああ、そうだ。

彼らにもっと似合う、日本のことわざがあった―





「同病相哀れむ」。





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