気づいた事
「あの……名前はなんていうんですか?あの人……」
部屋を出て、適当にメイドを探していたとき、丁度先ほど案内してくれた人がコチラに歩いて着てくれていた。
これ以上うろついては、逆にここに迷い込んでしまいそうになる。どうせ夢だからと、少しばかり諦めかけていた。
本当に夢みたいな世界なのだ。
俺が居ないかのように、ただ黙々とこの屋敷を掃除している女の人たち。逆に声をかけにくくて、焦った。
「ご主人様です」
「えっと……名前」
「わかりません。私たちはご主人様とお呼びしております」
話しにならない。
会ったばかりの俺が、あの人のことを「ご主人様」だなんて呼べなかった。呼びたくもない。軽く心の中で、重いため息を落とすが、この人に当たっても仕方のないことだった。
一番悪いのは、好奇心で開いたあの過去の俺が悪かった。何かの機会で、きっと目を覚ますだろう。
何気なく俺はそう思うしかなかった。
何もすることもないし、何をすれとも言われて居ない。実際を言うと、呆れたため息と共に、自分の部屋にすら戻れない。つまり道に迷ってしまった。
――俺……どうすれば良いの?
こんなにも暇が出たことなんて、休日という天国しかなかった。といっても、結局休日は休むことで精一杯なのだが、今は休むというよりも、疲れていることもないし、休める身体なんてなかった。
こんなところでオロオロしていても、逆にこの家政婦さんたちに邪魔になると、出来るだけ広めのところにいく。
コツッコツッと、歩く靴の音が、この広い屋敷の中に響き渡っていく。
「……静かだな」
ついつい思っていることが、ボソッと口に出てしまった。なんだか、逆に一人というのも寂しいものなのだ。
元々独り言は無いはずなのに、ぼそりと今、思っていることがすべてを出してしまいそうな雰囲気の、このホール。
歩かない限り静かで、音の余韻はかなり響くものだった。
――気の所為……だよな?
今フッと、とっても不思議な事が感じられた。その鍵は、多分、ここにいる家政婦高メイドだか言う人の行動で。
周りをキョロキョロ不審に見回しても、スッと静かに耳を澄ましきっていても、その疑問は高まるばかりだ。なぜだろうという五文字の疑問が、頭の中にグルグルグルグル回っては、強くなっている。
――なんで?
考えるのはやめて、終に首を横にかしげる。
いくら耳を済ませても、静かで自分の鼓動の音しか聞こえない。
――そういえば……どうして……どうしてもっと早くに気付かなかったんだ!!
記憶を巡らせても、初めてこの中に入ったときも、メイド?家政婦?に会って、一緒に歩いていても、どうして疑問に思わなかったのか。今はその疑問に襲われる。
あの時は確かに、自分の音しか聞こえていなかった。今思ってみれば、この建物は指だけで数え切れないんじゃないかってくらいの、数多い不思議な事ばかりだった。
それに今更気付いた自分も自分だが、周りのメイドたちも、全く気付かない雰囲気というのもどうかと思う。たしか、ここはあの人の想像上のものであって、元々存在しないからこそ夢。夢だからこそ、確かになくてもおかしくは無い。実際夢というのは、「俺自身」「粒自身」の行動が出来るはずなのに。
確かに自分のこの足で歩いているし。
今、一番疑問に思う点。
「どうして足音……ないの?」
メイドがいくら近くで歩いていても、俺が歩かないかぎり、少しの足音も聞こえないのだ。そんな修行を積んでいるとも思えない。
とても静かなのは、きっとそれが関係しているんじゃないかとも思えてしまう。
これは夢だから。
そう心の中で唱えても、凄くリアルで、凄く現実っぽいこの世界を、どう夢だと感じれば良いのだろうか。先ほどまでは、ずっと夢で通していたのに、だんだんでてくるリアル感で、凄く夢からは通り抜けて、ドリームの世界と入ってしまった気分だ。結局ドリームも“夢”という意味ならば、ここは“二次元”。いや。別に二でも三でも五でもいいから、“次元”という言葉が入るに違いない。
逆にそう考えた方が、自由気ままに生活できるような気もするのだが、こんな貴重の体験を、こんなアヤフヤな気分で味わって良いのだろうか。
グゥゥゥゥッ……
悩みに悩んでいる本体である俺を差し置いて、お腹と言う俺の一部は、暇ということを音で表してきやがった。
表されても、どこでどうやってご飯を食べればいいのかも解らない。
「おなかすいた」
その場に、子供みたいにおなかを抱えてしゃがみこむ。
ここでメイドが気づくのが、わが地球。
周りを見回しても、こんな俺の行動を目に取るメイドなんて、誰一人としていやしなかった。
壁を見ても“食堂”だとか、何とかの間とか言う名前のものなんて、一つたりとも無かった。
よく店内で見つける、トイレのマークや、エレベーターのマーク。エスカレーターのマークが書かれている小さな看板が、天井辺りからぶら下がっている様子は無い。
しかも、上を見ると、ありえないほど天井が高かった。と思ったとき、ふと新たな事が発見してしまったり。
「ここ……このホールを中心になってるんだ」
上を見ると、ここを囲うように、二・三階の廊下が、四角くあって、そこから枝分かれするように、部屋へと進むだろう廊下が伸びていた。
しかも、埃一つないかのように、天井から垂れているシャンデリアが、凄くきれいに、悠々と輝きだしていた。その下にいる自分が、凄く夢みたいだった。いや。夢なのかもしれないのだが。
一度でもいいから、こんな屋敷に住んでみたい。だなんて思ったことはあっただろうか。多分、過去を思い巡らせても、そんな事は思わなかっただろうに。そんなことを考えながらも、できれば“食堂”みたいな場所があればいいな。だなんて考えながら、重い足取りを進めていた。