らぶ米
※横読み推奨。
8月30日。登校日。
夏休みで朝晩逆転生活に慣れた体は、けたたましい目覚まし時計の妨害をものともしなかった。
要するに、遅刻だ。
どうして母は起こしてくれないのか。
ふだんから朝に起きる人ではないのだから文句を言っても仕方ないのか。
しかし普通の母親というものは息子が遅刻しないように起こすもんだろう?
「あの人にフツーもないか…」
そもそも登校日って何するんだ。
全校集会をして帰るだけなら慌てて足の小指をぶつけてまで着替えて走ってくる必要もなかったのでは。学校を目の前にして後悔する。
学校にたどり着いて、靴を履き替え、階段を駆け上がる。
と、焦りすぎたか、靴をきちんと履いてなかったせいか階段を踏み外してしまい、体が宙に浮いた。
「えっやべ…っ」
手すりを掴もうと伸ばした手は空を掴む。
「あぶなっ」
うしろから声がしたということは誰かいるのだろうか。
巻き込むのはイヤだななどと考えている間に、その誰かにぶつかり、そのまま重力に抗うこともできずに二人揃って階段を転がり落ちた。
一階の廊下に投げ出され、慌てて体を起こす。
「す、すみませんっ!大丈夫ですか!?」
下敷きにしてしまった相手を振り返ると頭を押さえていて、ぶつけたのかと急激に不安になる。
「だ…だいじょうぶですか…?」
「あー…まあ平気。アンタは?ケガとかない?」
ひらひらと手を振ったかと思えば、こちらの心配をしてくれて。
巻き込んだのはこっちなのに、と無性に申し訳なくなる。
「俺はぜんぜん。全然っ。直接どっかに当たったりとかないし…すみません…」
しゅんと肩をすくめると、頭に手を置かれ、わしゃわしゃと撫でられた。
「良かったよ。ケガなくて」
「あ、や。巻き込んだの俺ですし…」
さっと立ち上がって、すみませんとまた頭を下げる。
手を差し伸べて相手が立ち上がるのを手助けする。
「いっ…」
すると、苦しそうな顔をして相手はペタンと床に尻をついてしまった。
「あ、の…ケガ、とか…」
「…したかも。右足いてぇ」
「す、すみませんっ!!」
「あー…いや俺もなんでか受け止めようとしたし、うん」
右の足首をさすりながら,頬をぽりとかいて、バツが悪そうに目をそらした。
自分とあまり体格に差のない落ちてくる相手を受け止めようとしたのか…
「それは…なんというか…」
「わかってるから皆まで言うな…」
相手は華奢とまではいかなくても、同年代の中では薄いほうじゃないだろうか。
自分もそう体格のいい方ではないけど。
それでも整った顔立ちに似合う色の白さと体格ではある。
そう思うとすごく申し訳なさが募った。
相手に背中を向けて気落ちしていると、あの…と声をかけられた。
振り向くと
「保健の先生呼んで来てもらえるかな…」
と苦笑された。
+++
できれば電話には出るなと祈った。
だが出てくれないと困るのも事実だ。
プッ…と音がして不機嫌な声がもしもしと応えた。
「あの…大変申し上げにくいのですが、今すぐ病院に来ていただけますでしょうかお母様…」
『病院?アンタ怪我でもしたの?』
「俺がしたんじゃなくてさせたんです…」
『アホか。ふざけんなよ。今行く』
「かたじけない…」
さっそうと病院にやってきた鬼の形相の母親にはこってり絞られ、母親が来るまでのあいだ教師にも遅刻や成績の悪さについても叱られた。
だが、相手の母親は来なかった。一番怒られると思ったのだが。
教師が電話をしてみると、家に帰ってこれるなら問題ないとのことだ。慰謝料もいらないのだとか。
怪我の具合は、足首あたりの骨に少しヒビが入っただけのようで、入院するほどではないと医者が言っていた。
ヒビが入っただけとは言っても、ギプスはしているし松葉杖も必要なのだ。
痛み止めなども渡されたようで、どのくらい痛いのだろうとか、ギプスなんかしたら歩きづらいだろうとか、気が咎めた。
途端、母親が後頭部をグッとつかんで頭を下げさせる。
「本当に申し訳ありません…慰謝料も免除していただいて…ウチの息子を煮るなり焼くなり好きにしてください」
「ちょっ母上!?」
「うるせぇ焼かれとけバカ息子」
とっさに顔を上げようとしたが、頭を押さえる手に力がこもったので、上げようにも上げられなかった。
「その状態では帰りづらいでしょうから、私の車で送っていきます」
「えっと…じゃあお言葉に甘えさせていただきます」
ペコッと頭を下げて、松葉杖で車まで向かうのは大変そうだった。
「カバン持つよ」
「あ、ありがと。助かる」
「いや…俺のせいだし」
車の後部座席に座るのを手伝い、自分も隣に乗り込む。
あの母親にしては珍しく、滑るように車が動き出した。
こんな心地よい運転ができるなら普段からしてほしいものだ。
母親と隣の男が行き先のやり取りをしているのを聞きながら、夏休みの課題のことを思う。
まだどれにも手をつけていない…提出日までにすればいいか。明日もまだ夏休みだし。
あさっては始業式で提出物のある授業はなかったはず…
「っあ!!」
「うるさい」
「すいません…」
思わず声をあげてしまえば、即座に母親に睨まれる。
どうしたの?と、一番気を遣われるべき彼が気遣わしげに声をかけてくれた。
彼の外見から判断するに、うちの制服ではないが自分とは同い年くらいで、この近辺の高校であるならば同じく9月1日から始業式なのだ。
ということはつまり。
「あー…その、ほら。あさってから二学期ってことはギプスが取れるまでに三週間なのに登校とか大変だって…今さら気付き…ました」
「アンタってバカよね」
「いたらぬ息子ですいません…」
母親に遠慮なく貶される。
「や、それで煮られたりは困るけど、手伝えることあるなら手伝いたいなと思った…次第で…宿題とかは頭悪いから無理だけど」
「…いいの?」
「だっ…俺が原因なわけだし。全然気にせず。全然、コキ使っていいっす」
「じゃあ遠慮なく。…その前に名前聞いていい?」
「そういや知らなかったっけ。羽井涼雅。涼しいに雅でリョーガ」
「俺は野坂秀策」
「アド聞いていい?」
「赤外線ある?」
「あるある」
携帯同士を近づけて、アドレスを受信する。
「名前漢字どんな?」
「打つよ」
「おねがいします」
携帯を渡したときに、ふと男の割には手がきれいだと感じた。
爪もキレイで、指なんかもゴツゴツというよりはほっそりした印象だ。
なんとなく触りたくなった。
そっと無意識のうちに手を伸ばしていて
「着いたよ、野坂くん」
「うあっ」
母の声で正気に戻った。
携帯を返してもらって、またと手を振る。
車のドアが閉まるまでバクバクと心臓がうるさかった。
…びびりすぎだろう自分。
帰りの車内で、母親と野坂の話になる。
「でかい家ねー」
「あ。金持ちっぽい上品な雰囲気だった」
「仲良くしときなさい」
「そんな理由ですか」
「一番の理由よ」
「人でなし……いでっ」
もっともな感想を述べたのだが、横から伸びた手に額を叩かれた。
+++
「はよーっす」
9月1日。朝。
自転車であの大きい家まで迎えに行く。
「なんか悪いな」
「いやいやお気になさらず」
あのあと、家に帰ってすぐお詫びのメールをした。
それからどこの学校なのか聞いてみると、なんと同じ高校だった。
家が近かったし、学校も同じならとギプスで登校はつらいだろうから治るまで迎えに行くと申し出ると少し抵抗はされたものの了承を得た。
そして今に至るわけだ。
サドルに跨る羽井の背中に背中を預けるようにして野坂が荷台に座る。
「男の二人乗りってサムいな…」
「わかる…けど知らないフリする…」
真夏に暑苦しい絵だとげんなりしてみせると、野坂も苦笑した。
話題を探して、メールで聞き忘れていたことを思い出した。
「そういや何年?」
「一年」
「え、タメじゃん。クラスは?」
「五組」
「は?俺も五組なんだけど…」
野坂なんて名前の生徒がいただろうか…。
クラス全員と仲が良いわけではないが、さすがに一学期の間にある程度の名前くらいは覚える。
だいたい名前の順番でいくと、"は"の前は"の"だ。
いくら記憶力がなくとも覚えていていいはずだ。
「二学期からのてんこー生ですから」
「マジで!?うっわなんかごめん」
新しい高校デビューの出鼻をくじいてしまったのだ。
罪悪感がさらに募る。
「もーいいって謝んなくて」
「ん…」
「とりあえず、同じクラスならよろしくな」
「おう。こちらこそー」
何というか。案の定、野坂が転校生として紹介されると女子たちから歓声が沸いた。
それだけで、休み時間に女子がこぞって質問を投げる光景が想像できた。
近付かずにおこう。
始業式の体育館までの行き来は女子たちが手助けをしていたし、このままだと校内での俺の手助けは必要なさそうだと判断する。
だが放課後には、女子のありがたい申し出は断っていた。
男子全員を敵に回したな…。
そして、断った末にやってきた場所が羽井のところだった。
正直、女子からの視線が痛い。
帰り道に尋ねてみる。
「なんで女子の誘い断ったの?」
「女の子ニガテだし…」
「………ホモ?」
「そうじゃなくて…..なんかあのキャピキャピした空気がなんかだめ」
「おいおい同い年だろ。おじいか」
「失礼な。あのテンションが合わないだけだ」
「…まぁ分からなくはないけどさ」
「んじゃ、また明日な」
「ん。またあしたー」
ひらひらと手を振って、野坂は少し疲れた様子で大きい門をくぐっていった。
+++
次の日から容赦なく6時間授業で。昼からは弁当が必要なわけで。
野坂のあの様子では、昼を食べる相手はすぐ見つかるだろうと踏んでいた。
しかし頭の片隅にあった予感のほうが的中したようで、あろうことか野坂は女子との楽しいお食事を断ってまた羽井のところに来たのだ。
「羽井の弁当うまそー」
そう言いながら野坂はコンビニのロゴが入ったビニール袋から焼きそばパンと小さ目の牛乳パックを取り出す。
「…もしかしてそれだけ?」
「うん」
「ばっかそんなだから体細いんだよ。倒れんぞ」
「なんか羽井、母親みたいだよ?」
「あの母親に育てられるとオカン気質になるんだよ」
野坂は、なんとなく分かる気がする。という言葉を呑んだ。
「その弁当はあのお母さんの手作り?」
「あの人は料理できないよ」
「へぇ…卵焼きもらっていい?」
「どーぞ」
弁当箱を野坂に差し出すと、ひょいと卵焼きを指でつまんで口へ運ぶ。
もぐもぐと咀嚼するあいだは妙に緊張した。
「あ。うまい」
「おおーよかった…」
「お父さん料理うまいんだね」
「…それ、俺の自信作」
「え」
「つくったの俺」
「羽井すげー…」
「なんで俺が作るって選択肢ないわけ」
「怒るなよ。俺が料理できないからその発想がなかったんだ」
悪い、と言うと「そんなに怒ったわけじゃない」とまたむくれてしまう。
どうしたものか…
そこで、ふと思いついたものがあった。
しかしまた怒られる可能性がある。
うーむと顎に手をやって考える。
「なに悩んでんの?なんか女子がうっさいからそのキザなカッコやめろ」
「別にそういうつもりじゃ…」
「わーってるよ」
「…あ、そう。それで」
「うん?」
「俺の弁当もつくってよ」
意を決して言ってみたもののどうなるか…。
本当につくってほしいわけではなく、機嫌直しに言ってみただけとはいえ、少しだけ羽井が答えを出すまでドキドキした。
それから、あまりに羽井が話さないものだから、しくじったと思って必死に取り繕ってみる。
「いやその。毎日コンビニ弁当とかパンじゃ飽きるし羽井の料理うまかったし」
「いーよ。弁当2コも3コも作る時間変わんないから」
「まじで?」
恐る恐るといった感じで聞き返してみると、呆れた表情をされた。
「てか弁当なんか彼女とかに作ってもらうもんだろふつー。いいのか俺で」
「うん全然。彼女の作ったビミョーな弁当か男の作ったうまい弁当なら、うまいモン食いたい」
「彼女のはマズイの前提か…ってそれ実体験の話だろ」
「…まぁ」
「やっぱ野坂ってモテんだなー」
そういうワケでもないと言い返そうかと思ったが、言い訳はいらないと切り替えされそうで黙る。
と、妙に気まずい空気になってしまった。
どうしよう…どうしよう…
表情にはまったく出ないものの、必死に考えあぐねていると、羽井がぱっとこっちを向いた。
「嫌いなものとかある?」
「へ?」
あまりに唐突な言葉で、ヘンな声が出てしまう。
羽井は少し面倒くさそうにガシガシと頭をかいて、噛み砕いて説明してくれる。
「べんとー。好きなもんとか食えないのとか教えてよ」
「あ。エート…」
「夕飯の残りとか入ってても文句ナシな」
「ん。それは全然。作ってもらっておいて文句なんか言わないよ。好きなのは…」
ふと口の中に好物の味が再現される。
いささか子どもっぽくて、言うのが憚られた。
だが、こういうときに限って、他に何も思いつかなくなのだ。
「……ミートボール」
おず…と口にしてみると、また羽井はだんまりだ。
やっぱり子どもっぽかったかな…
急激に恥ずかしくなる。
何か別のものに変更しなければと口を開きかけたら、羽井が口を開く。
揶揄されるまえに遮らねばと妙な使命感に燃えた。
「それって…」
「ああ、いやなんつか、やっぱナ…」
「作る必要ないじゃんか…」
羽井の言葉に被せた、やっぱナシと言い掛けた言葉は羽井によってもみ消される。
かくんっと羽井は肩をおとしていた。
「ミートボールって湯せんするだけだし…ラクじゃないの?」
「……料理好きなんだよ。だから作りたいわけ」
羽井は恥ずかしそうに目を背けて、頬をぽりとかいた。
「男が料理なんてダサいだろ…」
「いや、フツーに尊敬するけど」
自分が料理なんてこれっぽちもできないだけに、料理ができる、ましてや好きだなんて想像もつかない。
すごいとしか言いようがなかった。
だが、本人にはトラウマか何かがあるらしい。
話してはくれなかったが、そんな気がした。
「おおうまそー!」
パカッと羽井から渡された弁当のフタをあけると、色とりどりの食べ物がお行儀良く並んでいて、思わず声が出てしまった。
羽井は得意げな顔だ。
「ミートボールも作ってみたから味わえ」
「すげーミートボールって家庭で作れるんだなー」
「つくれるよ…」
「ありがたくいただきます」
両の手を合わせて、羽井に感謝の気持ちを込める。
さっそくミートボールを口に運ぶ。
甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり、やわらかい肉はすぐにほぐれて喉を通っていった。
「うまい。うまいなコレ」
「お?マジで?初めてつくったからちょっと心配だったんだけど」
「初めて…ってすげーうまいよ。食うのもったいない」
「食えよ…」
苦笑されて、好きなものは最後に食べるタイプなんだと弁明しておいた。
羽井の作ったものはどれも美味しくて、うまいうまいと言いながら食べていたら、本当においしいと思っているのかと疑われた。
本当だと返すと、ニッと笑って明日もまた作ってやると言ってくれた。
しばらくは心も腹も満たされそうだ。
水泳の授業のときに、野坂への心苦しさは頂点に達する。
ギプスで足は蒸れるし、プールにも入れず、温風に肌を舐められながらアスファルトの上で見学。
小さなひさしなど何の役にも立たない。
蚊はあちこちを飛び交い、露出した肌にチャンスとばかりに吸い付いてくる。
「ほんっとごめん…」
更衣室で制服姿の男に、水着の男が詫びている光景はなんとも異様で滑稽なことだろう。
謝られることに慣れてきたのか、野坂は苦笑しながらひらひらと手を振った。
「まぁ俺、泳げないから水泳の授業が丸つぶれなのは幸い」
「でも暑いだろー…蚊いっぱいだし…」
「んな気にすることないって、ほら集合ってさ」
「おーう…」
野坂に背中を叩かれて渋々足を進める。
三週間はギプスが外せないという事は、水泳の授業が丸々ないのだ。
ずっとあの場所で見学というのは特別水泳が好きでもない自分ですら耐えられない。
「はぁー…うまい弁当つくろう…」
それが自分にできる唯一の償いだ。
クロール50mを泳ぎ終えてから気付いたが、野坂は男友達も多かった。
水泳の授業に出ていた男子生徒は両手でプールの水をすくって野坂に水を浴びせたり、野坂と一緒に見学していたヤツとも中良さそうに話していた。
何となく、女子の誘いを断るモテ男は嫌われている気がした。同じクラスのキザなモテ男なんかがいい例だ。女子には人気で、男子からは毛嫌いされていたりする。
何の差だろうか。
というかこんなに友達がいるなら毎日送り迎えしなくてもいいのではないだろうか。
…本人が断るまでは続けるか。苦でもないし。
正直、こんなに早く断られる日が来るとは思いもよらなかった。
「新井とかと遊ぶことになって…」
「羽井も行くかー?」
新井や、その他のメンバーが気を遣ってくれたのだが、
「いや、俺、晩飯の準備あるから遠慮するわ」
なんとなく行く気もなくて断ってしまった。
本当は夕食の支度は夜9時を過ぎてからでも十分間に合う。母は仕事人間で、夜遅くに帰ってくることは珍しくないからだ。
どうして断ったんだろーと考える一人帰り道。
一週間ぶりの背中の軽さがなんだか寒かった。
英語の課題を終えていない羽井は居残り。by西川
教室のうしろにある黒板に大きく書かれていた。
西川とは五組担当の英語教師だ。
二学期の最初の授業までに仕上げるはずだった課題のことはすっかり忘れていて、二回目の授業までに提出できたら勘弁してやるとのことで、大半の生徒は二回目の授業がある今日提出したのだ。羽井一人を除いて。
掃除当番なので逃げることもできず、ホウキでゴミを掃きながら野坂に謝る。
「ごめんなー…居残りだから誰かに帰り乗せてもらって…」
「あ、うん。…なんか一日一回は羽井に謝られてる気がするな」
苦笑している野坂を見て、そうだったろうかと思い返す。
でも、悪いと思わない限り絶対謝らないタイプなので、それなりのことをしているんだろうと記憶をさかのぼるのをやめた。
特に野坂に対しては罪悪感を拭いきることなんてできない。
ふと野坂の足に目をやる。松葉杖にいい加減慣れてきたとはいえ、歩きづらそうなのは変わらない。
はぁ…とため息が漏れた。
「そんなに気にしなくていいのに」
「気にするもんは気にするんですー」
「それじゃ課題がんばって」
「おう、また明日なー」
友達と話しながらドアを過ぎる野坂の背中を目で追ってしまう。
今日もまたあのぬくもりのない帰り道だ。
そう思うと、無意識にため息がでた。
居残りは三日間もつづいた。
ひたすら夏休みの課題の消化と追加の課題をやらされた。
手首がいたい…。
先生の励ましとお叱りを受けながら、なんとか課題をこなしてゆく。
この単語書くの何回目だっけなー…たりぃ…などと考えると文字をまちがえ、先生に注意をされ書きなおす。
これが終われば明日は土曜。早く終わらせて帰りたいと思う気持ちがちらりと顔を出せば、書く欄をまちがえる。
何度くりかえしたことか。
無心、無心と自分に言い聞かせながら手を動かす。
やっと終わった頃には、下校時間などとうに過ぎていた。
「おつかれさん」
「先生も付き合わせてすみません。以後気をつけます」
「いい心がけだな。もう黒板に名前書かれるなよ」
「はい…。それでは失礼します。さようなら」
「さよーなら。気つけてなー」
朝はぎゅうぎゅう詰めの自転車置き場も、夜7時前ともなるとガラガラで、自分の愛車をみつけやすい。
「ライトつけるべきだな…晩ご飯なんにしよー」
「カレー食べたい」
「っ!?」
独り言に返事が来て驚いて、その声の主が暗闇からぬっと現れたことに驚いて、そいつが野坂だったことに驚いた。
「のっ…ばか!暗いとっからしゃべりかけんなよ!!」
じゃりじゃりと松葉杖で歩きづらそうにしながら、ドッキリが成功して嬉しいのか笑顔でこちらに向かってくる。
あまり歩かせるのも悪いと思い、自転車をおしながら距離を詰めた。
「てか何でいんの?」
「図書室で本読んでた」
「図書室閉まんの5時半だろ?一時間半もどうしてたんだよ」
「うん。中庭で読んでた。風邪が気持ちよかったし、なかなか快適だったよ」
「家で読んだほうがクーラーがきもちーだろ」
「まぁ…でも帰るの面倒だったし」
「あ…それもそっか。ごめん」
野坂の足に目をやると、ギプスが痛々しい。
目を伏せると、野坂がわしゃわしゃと髪をかきまぜた。
「…なに?」
「いや…謝ってほしかったわけじゃないんだよ」
野坂のほうが申し訳なさそうな顔をしていて、慌ててしまう。
「あ…えと…」
何か話題…と思考をめぐらせる。
「あ!きょ、今日は友達らと帰んなかったんだな」
急に話しかけたからか、野坂は驚いたような顔をしていた。
「まぁ…本読みたかったし…あと理由あるけどいーだろもう」
「え、何それ気になる」
「気にするな」
よっと野坂が当然のように荷台に座る。
「おもっ」
「ほら漕いだ漕いだ」
「ずりぃー」
そう言いながらも、背中に感じる久しぶりの重みが心地よかった。
+++
家に野坂と二人きりというのは妙な感じで、なんだかむずがゆかった。
どうして二人きりなのかと言うと、先ほどの独り言に返ってきたカレーという言葉は本当にリクエストだったようで、弁当にカレーは難しいが好物なのだと訴えてくる野坂に、家に来るかと誘ってみれば一も二もなく頷いた。
そこで携帯が震えた。メールを見ると母からだった。
『今日は帰り遅くなるから晩ご飯必要ナシ!』とのことで、一応カレーだからもしかしたら余るかも、と返事しておいた。
それからスーパーで適当な材料を買って、家に来たのだ。
「あんま物色すんなよ」
「なに?エロ本とか出てくる?」
「誰がリビングに置くかバカ」
「やっぱ持ってんだ」
「ふつーだろ」
「いや、母親と二人暮らしっぽいから隠す場所とか困りそうじゃん」
「部屋にあるけど隠してないよ」
「バレたりしたらハズくない?」
「そもそも部屋に入ってこねぇもん。隠したほうがオモシロがって探しそうだしあのヒト。」
「あー…」
納得したような顔はどういうことだ。
部屋の物色に飽きたのか、野坂はテコテコとキッチンを覗きに来る。
「珍しいもんなんかないぞ」
野坂に目も向けず、ニンジンの皮をするすると剥いてゆく。
「エプロン姿の羽井は珍しいんじゃないか?」
「調理実習とかあるだろー」
からかわれるように言われた言葉に冷静に返す。
野坂はつまらなさそうに唇を尖らせた。
「調理実習ってさ、料理好きにはつまんなさそうだよね」
「俺はほとんど手出さないことにしてる」
「へぇ…イライラしないの?」
「する。から、みんなと騒ぐのをメインに考えることにした」
「賢いな」
切った材料を鍋に入れて、サラダ油を入れて炒める。
「おー…すげー」
「炒めてるだけだろー」
「いや迫力が」
「インパクトには欠けると思うけど」
水を加えて、ふたをする。
「放置?」
「アクが出てきたら取るけど、それまで放置」
「へぇー」
お茶を用意して、ダイニングテーブルに座る。
ギプスをしている足には、床に座るよりイスのほうが座りやすいだろう。
グラスに口をつけた野坂が、そういえばと言葉をつむぐ。
「親父さんは?」
「父さんは死んだよ。俺が中学ん時」
しれっと言ったものの、聞いた本人は気まずそうだ。
事実を述べただけで、今さら悲しくもなったりしないから、そういう反応をされると困るのだが、誰に言っても毎回同じ顔をされる。
面倒なものだ。
「そんな顔しなくてもいいよ。悪いこと聞いたとかも思わなくていい」
「…そう?」
「そ。元から体弱かったんだよ父さん」
父親の話をするのは久しぶりな気がした。
みんな、亡くなったと言った時点で父親の話は露骨に避けるから。
でも野坂は興味を示してくれていて、何となく応えたくなった。もしかしたらずっと父親の話をしたかったのかもしれない。
「よく熱出したりするのに、ふつーの父親がすることしたがってさ、前は一軒家に住んでて庭でキャッチボールしたりしたんだ」
「へぇ。他には?」
「逆上がり教えてやるって言って、母さんと三人で公園行って父さんだけが逆上がりできなかった。…毎週日曜日にはどっか出かけてたな」
「たとえば?」
「大したことじゃないよ。公園とか近所の川原とかでっかいスーパーとか。とにかく三人でいた」
「楽しそうだな」
野坂がふっと優しく微笑んで、つられて笑顔になった。
「すっげーたのしかった!」
「っ…」
野坂がなにかに驚いたような顔をして、鍋のことを思い出す。
「アクっ!!」
慌ててキッチンに行き、お玉でアクを掬う。
「はぁー…よかった忘れてたよ。ありがと野坂ぁー」
思い出させてくれて、という意味で言ったのだが野坂はなぜだか目を背けて、あ。いや…と口ごもっていた。
それから、はっとして話題を元に戻した。
「そんなに仲良かったなら、やっぱ悲しかったろ」
父の死のことだ。
「あー…いや、なんてーか安らかに?なんか寝てるみたいに亡くなってさ。死んだって実感あんまなかった。葬式んときも、今も実感なんかないよ」
「そうなんだ」
ポロポロとカレールーを鍋に落としてゆく。
「俺より、ずっと看病してた母さんのほうがつらかったんじゃないかな。俺に隠れてよく泣いてた」
「へぇ…」
「いまは大丈夫だけど」
「そっか。彼氏とかいないの?年齢わかんないくらいキレイなんだし」
鍋にふたをして、またイスに座る。
グラスにお茶を注ぎながら、母の言葉を思い出す。
「年齢は伏せるけど…彼氏はいないよ。一生愛してるのは父さんだって。それは変わんないんだーって叫んでた。飲みに行く男友達とかはいるけどね」
「なんか…すごいな」
「うん。俺もそう思う。すごいヒトの息子になったもんだ」
「大変だな」
「まぁあの母親でよかったと思うよ」
それは無意識に出た言葉だった。
「やっぱ羽井の作ったご飯はうまいなー」
嬉しそうに顔をほころばせながら、パクパクと口に運んでゆく。
野坂は本当においしそうに食べる。
食べてるあいだ楽しそうというか…とにかく作った側としてはうれしくなる。つくった甲斐があったというものだ。
おかわりを所望する野坂に、ふと気になったことを聞いてみた。
「そういや今日って帰んの?」
「へ?」
皿を受け取ろうとした野坂の手がピタッと止まる。
「あした休みだし、泊まんのかなって。その足だと帰るのだるいだろうし。まぁ俺が送ってくんだけど」
ぱくっとカレーを一口。
思ったよりおいしくて、満足の出来だ。
やはり、自分のためのご飯の支度だと身が入らないが、食べてくれる誰かがいるだけで違うものだ。
一緒に食べているのもおいしくなる要因のひとつだ。
ようやく野坂が動き出した。
「あー…と。俺の家はなにも言わないから羽井のラクなほうで」
「そ?んじゃ泊まっていきなよ。母さんいないから気遣わないだろ?」
「あ、うん」
「じゃ、飯食ったら風呂の準備しねーと。ギプスってどうすんの?」
「これ着脱可能。」
「べんりー」
きれいに平らげた皿を流しに置いて、風呂に湯を溜めに行く。
「野坂さき入りなよ。俺あと片付けするし」
「いいの?」
「さっさと入って来い」
「じゃあ失礼します」
「んー」
野坂が去ってから気がついた。
「着替え用意しないと。俺の入る…よな」
部屋に行って、タンスをごそごそとあさる。
シャツとスラックスと、未使用の下着を持って風呂場へ向かう。
ガラッと勢いよく扉をあけて
「ごめんっ」
ぴしゃんっと扉をしめた。
いけないものを見てしまったと気が動転する。
野坂が着替えて、というか脱いでいる途中だったのだ。
「色白かった…」
バカかと思って、今のナシと誰に言い訳しているのか、手をぶんぶんと振る。
「何してんの?」
「ひょあっ!」
がらっと野坂が出てきて驚いた。
「い、いやはだっ…ハダカっ」
「は?見られても困んねーよ。男同士だろ」
「そうでした!!!」
「羽井くんのえーっちー」
にやにやとからかうように笑われて、ぐりぐりと頭を撫でられた。
恥ずかしくなって、どこか穴に入りたくなって、とにかく隠れてしまいたかった。
「っだーも!着替え!そんだけ!早く入ればか!!」
「へーい」
ひょこひょこと風呂へと足を運ぶ野坂が見えないように扉を閉めた。
野坂と入れ替わるように風呂に入る。
湯船につかって、ぼんやりと惚ける。
「はぁー…」
程よい温度の湯が体に染み入ってくる。
体中の筋肉がほぐれて、疲れがとれていくのがわかった。
野坂がいるし、早めに出たほうがいいかなと思いながらも、なかなかこの心地よさから抜け出そうという気にはならない。
そういえばこの家で母以外と二人きりというのは初めてだ。
一人にしておいてよかったのだろうか。他人の家だと手持ち無沙汰だろうし。あ、でもギプスに時間を取られているだろうか。
うーんと少しだけ悩んで、もうしばらくゆっくりすることに決める。
「そーいや、意外と筋肉あったよな…」
野坂のことだ。
一瞬しか見てないが、腹筋がうっすらとあった気がする。
自分の腹を突いてみた。
「…」
胸板も思ったよりあったようなと思い返して
「着やせするタイプかよちくしょー」
ブクブクと湯に沈んでいった。
風呂からあがると、野坂がソファに背中をあずけながら船を漕いでいた。
器用な…
寝づらくはないのだろうか。
「…っと毛布毛布」
さすがに自分とたいして変わらない身長の相手をベッドまで運ぶのは無理だ。
野坂ならもしかすると自分を運ぶことくらいできるかもしれないが。
「…っわー!!」
とっさに浮かんだのは、自分が野坂にお姫様抱っこをされている姿だった。
顔があつい。
なんだ今の発想は。
恥ずかしくなって、寝ているとはわかっていても野坂と顔を合わせたくなくて思いきり毛布を野坂に投げつけた。
「なんだよ…ったく」
野坂に顔をそむけるようにテーブルに頭をのせる。
ほんのりほてった体を、少し開けた窓の隙間から流れてくる風が撫でる。
うとうとしてきて、まぶたが重くなる。
催眠術ってこんな感じかな…とくだらないことを考えて、それっきり意識が途絶えた。
起きると目の前が真っ暗だった。頭が異様に重く、頭に手を乗せる。
髪の毛とはちがう感触のものに当たり、引き摺り下ろした。
「かけてくれるなら体にかけてほしかった…」
毛布を頭にかぶせてくれたであろう本人は、目の前のテーブルに顔を乗せている。
顔を覗き込むと、首に負担をかける体勢でありながらもすやすやと眠っていた。
毛布を肩からかけながら、自分の足を見やる。
「足がコレじゃなかったら運んであげられたんだけど…」
本人に言ったら怒られるだろうか。肩を落として謝るのが先か。
どちらも容易に想像できて、くすっと笑みが漏れた。
「あと一週間か…」
ため息がこぼれた。
+++
ソファに深く座り込んで新聞を読んでいる母にアイスコーヒーを差し出す。
今日は日曜日の夕方だ。朝はインターホンの連打で起こされた。
母だとは寝ぼけた頭でも気が付いた。いつものことなので驚くようなことでもなかったのだ。驚いたのはそのあとだ。
目を開けると視界いっぱいに野坂の顔があったのだ。
近すぎて驚いただけで他意はない。断じて。そもそも野坂が美人なのがいけない。うん。そうだそういうことにしよう。と、心の中で言い訳しながら玄関を開ける。
ベロベロに酔っ払ってご機嫌な母親が「涼ちゃーんっ」と飛びついてきた。
それから野坂を母親が無理やり起こし、三人で朝食を摂った。イスが三人分埋まるのは久しぶりで、心がほこほこした。
ご飯を食べ終えると母はソファにダイブして眠り始めた。
そのあと野坂を家まで送って行って、帰ってきてから洗濯やら掃除やらを済ませ、テレビを見ながら晩ご飯の献立を考えているころ頭痛がひどくてご機嫌最悪な母が起きて「風呂」と一言残して去っていった。
二時間ほどの長風呂をした母は、どっかとソファに座り風呂上りのいっぱいにアイスコーヒーを所望なされたのだ。
「つかぬことをお伺いしますがお母様」
「ん?」
アイスコーヒーをぐいっとあおって二口で飲み干し、グラスを突き出してくる。
グラスを受け取り、おかわりを注ぐ。
「で?なに?」
「あ、えぇっと…その、ですね…」
「ハッキリ言う」
「その…とあるひとのことを寝るまで考えてしまったり…そのひとの妄想をしてしまったり、そのひとといると落ち着くんだか落ち着かないんだかよくわからない状態になる…のは一体どういうことなのでしょうか…」
言葉を区切るたびに、ふむふむとうなずいていた母はズバッと完結に答えてくれた。
「恋でしょ」
「いやいやいや!ない!ありえない!あっちゃいけない!!」
「ずいぶん否定するのね…」
怪訝そうに見つめられ、探られているような感覚に居た堪れず、目をそらす。
「ま、ぁ…や、その、ひとつの意見としてありがたく頂戴します、はい。あざーしたー」
逃げるように部屋へ行く息子を見て、母はつぶやいた。
「あの息子にも春が来たよ、涼ちゃん」
それは当の息子が見たことがないほど優しい表情だった。
部屋のドアを勢いよく閉めて、ベッドに倒れこむ。
母親に言われた言葉を口の中で転がしてみた。
『恋でしょ』
恋…恋…コイ、鯉…
「っだぁちげー!ってか何だよありえねえー!!」
頭を抱えてベッドの上をごろごろと転げまわる。
だいたい会ってまだ二週間だろ!?そんなに惚れっぽかったか俺!?いやいやいや相手男だっつの。つか迷惑かけまくりだし。好きになられてる可能性ない…ってなに考えてんだ俺!
誰かを好きになったことは俺にだってある。ただ彼女より料理がうまかったり家事が得意で彼女が自信をなくして別れ話を切り出されるのだ。
まぁでも野坂は男だから自信をなくす心配はないか…ってなんでもう付き合ってる設定なんだよ!いやそもそも告白しねぇし!!フラれるに決まってんだし!
心のうちで叫んで、ピタッと動きが止まる。
「それはかなしい…」
…悲しくなるな俺ー!!
またごろごろバタバタとベッドの上で暴れる。
なんで恋愛対象が女子じゃねーんだ!正気になれ!!おおおお自分がおそろしい…っ!
疲れてきて、動きを止めて息を整える。
「…そういえばギプスとれんのあと一週間だっけ…てことは一緒にガッコ行けんのは5日かぁー…短い、な」
乙女かじぶーん!!
+++
「どうかしたのか?クマがひどいぞ」
野坂に指摘されるも、適当にごまかすしかなかった。
本人に言えるか。お前のこと考えてました、なんて。アホか。爆発するわ。爆発ってなんだ意識しすぎだろ俺!
腹をボスッと拳で殴る。
「だ、大丈夫か羽井」
「いやー…平気平気。ほらうしろ乗って」
まだ心配そうに見つめてくれていたが、できるだけ目を合わせないようにしていたのは不自然すぎたかもしれない。かと言って荷台に重みを感じたいま振り返るのも不自然だろう。
今までどうやって野坂と接してたっけ。どー…だっけ…。
思い出せない。学校に着くまでのあいだ、一言も話さなかったのは初めてかもしれない。
自分から作り出した状況とはいえ、寂しかった。
それからは何となく避け続けてしまった。
弁当は朝に渡して、他のヤツと食べるからと断った。
放課後は居残りがあるからと嘘をついたり、野坂が他の友達と帰ったりで結局、朝以外は言葉も交わさないまま、一緒に登校できるのはあと一日となった。
だはぁっと机にうなだれる。
乙女かっつーの俺は…
自分の席の斜め2席前は野坂の席だ。つい背中を見つめてしまう。
そんな自分にまた、ため息が出る。
気まずい雰囲気にしているのは自分のせいなのだ。感情を押し殺して平然と装っていれば、もう少しは一緒に登下校することも、今あの輪の中に入って話すことだってできただろうに。
償いのための弁当ももう作る必要はなくなる。野坂がご飯を食べているときの顔はすきだ。嬉しそうだし、何より自分の手料理を食べて喜んでくれているのがうれしい。
あの満面の笑顔も何日か見ていない。
また、ため息。
今日は誰かと帰んのかな…
「乙女すぎる…きもっ」
「おーい涼雅」
とん、とうしろから肩を叩かれる。
振り返ると、中学からの友達の北本浩介と内海征二が、大丈夫か?と覗き込んでいた。
「ひろすけー…俺いまどんな顔してる?」
「んー?寝不足か?」
「てか捨てられた子犬的な」
内海が付け加えると、北本が分かるかもと同意する。そんなにボロボロか。
じとっと睨むと、北本がわしゃわしゃと頭を撫でてくる。
「疲れてんのか?無理すんなよ」
「もともとキャパ狭いんだからー」
内海もぐしゃぐしゃと髪の毛をかきまわす。
なんだか、何も話していなくても全て分かってくれている気がして、泣きたくなった。
二人まとめて、ガバッと抱きつく。
「北本ー!内海ー!あいしてるーっ」
「涼雅が壊れた」
「よしよし俺も愛してるよー」
内海がからかいながらも頭を撫でて、北本がここに来た用事を思い出す。
「涼雅、久々にゲーセン行かね?」
「行きますっ!」
「お手!」
「わん!」
内海が差し出した手に、たしっと手を乗せた。
そこで、あっと気付く。野坂を送っていくのはどうしよう。
ちらっと野坂を見るとバチッと目が合った。
あれだけ大きな声であいしてるなどと叫べば注目を集めるもの当然といえる。
「あーと…」
言葉に詰まると、羽井が言い切る前に先に断った。
「今日は他のヤツと帰るから平気。行っといで」
「えっと…ごめんな」
「いーって」
そう言って、クラスの誰かと帰っていったのだが、ナゼだか怒っているように見えた。
…気のせいかな
「行くぞ涼雅」
「あ、おう」
「ちゃんとついて来ないとご褒美あげないぞー」
「犬あつかいすんなっ」
適度にゲームセンターで散在したあと、近くのファーストフード店に入る。
ハンバーガーと飲み物を乗せたトレイを持って、人気の少ない席を陣取った。
「それで?」
と北本が話を切り出す。
北本は三人のまとめ役で、いろいろとよく気の回るやつだ。
「なに悩んでんの?」
「学年で英語の課題で居残ったの自分だけだからって落ち込むなよ」
からかうように笑うのは内海で、三人の中ではよく言えばムードメーカーだ。
そしてその悪ノリにからかわれるのが羽井である。
「それは…まぁ落ち込んだけど…ってか他のクラスのやつも知ってんの!?」
「バッチリ」
「うぁー…穴があったら入りたい…」
小さくなっていく羽井を見兼ねてか、北本が話題を戻す。
「落ち込んでた理由は?」
「う…」
元に戻された話題もまた、話しづらいものであった。
北本は心配げに覗いてくるし、内海は興味津々といった感じだ。
「その…すきなひと…できた」
俯き加減で言うと二人から、おおーと歓声がもれる。
三人で集まっても、あまり浮いた話などなかったからだ。
二人から何組の誰だとか、学年とか、見た目とか、一度に質問されて困惑してしまう。
というより、それ以前の問題がある。
「や…そのさ…えっと」
「どした?」
「何だよ。恥ずかしがらずに言ってみ?」
内海が猫をエサで釣るように、ポテトを羽井の目の前でゆらゆらと揺らす。
「つられるか!」
「ごめんごめん。からかわないから」
「……すきな相手が、さ」
「うん」
「その……………男なんだ」
「…そりゃあ仰天ニュースだァ…」
内海にしてはからかいきれていなかった。北本に至っては絶句だ。
内海が、何かに気付いたような顔をしてテーブルに身を乗り出す。
「俺か浩介じゃないよな?」
「お前らには間違っても惚れない」
「だってさーよかったな」
バシバシと北本の肩を叩いたが、北本は目を瞬かせるだけだ。
さすがに少し不安になった。
羽井が下から覗き込むように尋ねる。
「北本…?」
「あ、や、その…なんていうか…応援したい気持ちは山々なんだけど…」
北本がもごもごと口ごもる。
ちらっと羽井の顔色をうかがっているようだ。
なんとなく察しがついて、北本が言葉にする前に言ってみた。
「やっぱ引いた…?」
恐る恐る聞くと、北本は遠慮がちに、こくんと頷いた。
ごめんと肩を落とす。
「いや、俺が北本の立場なら引くと思うし、全然。気にしなくて、うん。俺もいまだに信じらんないし」
「その…引いたからって距離置くとかはないから!」
北本が真剣な表情で宣言する。
ほっと胸をなでおろすと、内海が北本になだれ込むように肩を組んだ。
「浩介はマジメすぎんの。男しか好きになれないってわけじゃないだろ?」
「あ、うん。そいつだけ…」
「だったら、そいつの人柄に惚れたらたまたま男だっただけだろ。あとはなんも変わらん。いろいろ想像したくはないけどな」
内海は苦笑したが、こういうとき内海の順応性の高さと言うか、鷹揚な部分には助けられる。
「…ありがとな、二人とも」
素直に出た感謝の気持ちだったのに、内海にバカと怒られる。
「まだ解決してないだろ」
「あー…えっと…」
「そうだった。告白とかするの?」
「や…でもやっぱ告って失敗したときに友だちには戻れないかと思うと…へこむ」
目を伏せて、両手で持ったコーラをじゅーっとすする。
内海と北本には犬耳がペタンと伏せて、元気のよい尻尾もしゅんとしおれているのが見て取れた。
…大問題だ
こんな姿、羽井の父が亡くなって母が泣いていたのを目撃してショックを受けていたとき以来だ。
予想以上に相手に惚れているらしい。
ヘタなことはいえない。
まずは北本が出る。
「涼雅はどうしたいの?」
「…いま全然しゃべれたりしてない、から…どうにかしなくちゃとは思ってる…」
「どうにかって…つまり告白だよね」
「まぁ…」
「でも関係がこじれるのが怖い…むずかしいなぁ」
引いたと謝った北本がこんなに親身になってくれるのは嬉しいと同時になんだか申し訳なかった。
内海が突然、羽井の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「な、なに?」
「お前が後悔しないようにしろ」
「へ?」
「どういう結果であろうと当たってみるか、話もできないまま想い続けるか、どっちが後悔しないのかってこと。どっちだろうと俺は応援するさ」
「内海…」
「うん。俺もそれがいいと思うな。応援するし。これで今解決したとは言えないけど…」
「北本…ひくっ…ふたりともあいしてるー…っ」
ぽろぽろとこぼれてくる涙を拭こうともせず、子どもみたいに泣きじゃくった。
北本と内海は、やれやれと溜め息をついて
「ほらハンカチ」
「まだ結果出てないのに泣くやつがあるかアホ犬」
「いぬっ…いうなっ」
ごしごしと両目を拭く羽井の犬耳を尻尾がいつも通りに戻っていることに、ほっと一息ついた。
北本と内海に迷惑をかけたが、スッキリした気分で家に着いた。
夕飯の準備をする前に、夕飯のメニューを母にメールする。
晩ご飯によって仕事のモチベーションが変わるのだとか。
携帯をエプロンのポケットに入れて、準備に取り掛かる。
すると、携帯が震えた。数回震えただけで、メールのようだった。
「母さん?」
たまに追加で何か食べたいときは要求してくるのだ。
パクンと携帯をひらいて、新着メールを確認する。
「…っ野坂!?」
驚きすぎて携帯を落としそうになる。
なんとかキャッチして、ドキドキしながらメールを開封する。
「え…?」
内容は簡潔なものだった。
『明日から迎えに来てくれなくていい』
しばらく頭が働いてくれなかった。
えっと…と一泊置いてから、やっと返事をしなければと思い至る。
『ギプスまだだろ…?なんで?』
『ギプス今日とれたから。あと償いのための弁当ももう作ってくんなくていいよ。ありがとな、今まで。』
なんとなく拒絶された気がした。
学校で話すこともないような…そんな気が。
それ以上返事するのも憚られて携帯の電源を切った。
今朝はいつも通り自分と母の分の弁当をつくって、野坂と会う前と同じように、徒歩で家を出た。
確実に遅刻だ。
携帯の電源を切っていたせいでアラームが鳴らなかったのだ。それに、眠りについたのは朝の5時過ぎだった。
3限目の授業には出席できる時間に起きれただけでもマシと言える。自分を褒めてやりたい。
遅刻した者は遅刻理由を書いた紙を提出しなければならない。
職員室に行って、理由を書いてハンコをもらってから教室に向かう。
今はまだ授業中。野坂と話をすることも目を合わせることもないのが救いだ。
ガラッと扉を開けると、教師と生徒一同の視線を集める。わりと見慣れている光景だ。
「遅刻理由書は?」
「はい」
教師が差し出した手に、ぺんっと乗せる。
そのまま何でもないような顔をして自分の席についた。
「羽井、あとで反省文でも書け」
「ひどいな先生。それマジだって」
「突如、土管からマ●オがヤッフーと言いながら飛び出してきて、どうすればク。パが更生されるかを小一時間ほど語り合ったのか」
羽井が書いたものをそのまま読み上げる。
「結局、かまってもらいたいだけの子なんだと結論がでました」
クラス中がどっと沸いた。
国語教師はガシガシと頭をかいて
「とっさに思いついた嘘の割にはよくできているとは思うが、昼は職員室な」
「えー」
「じゃあ授業つづけるぞー」
教科書とノートを広げて、ため息をつく。
職員室にいれば、野坂と顔をあわせる必要もないだろう。
ちらっと野坂の足を盗み見るとギプスではなく、上靴をキチンと履いていた。
本当にお役御免のようだ。
放課後は反省文に時間をとられた。マ●オと出会ってからの時間を詳細に書き綴ると、教師も面倒になったのか課題を渡して帰っていいと言った。
結局、一度も野坂と話すことも、目が合うことすらないまま一日が終わった。
明日は土曜。ドキドキする心配もない。
家に帰ると部屋が真っ暗なのはいつものことなのに、今日はそれがひどく寂しかった。
晩ご飯の用意をする気もなくて、ベッドに仰向けに倒れこみ、まぶしくもないのに目の辺りに腕をあてがう。
涙が出るのを抑えたかったからかもしれない。
「なんも話さなかった…」
ポツリと呟いた言葉は誰にも届かず、暗闇に溶ける。
いつかの暗闇とは違って、予想外の返事もない。
そういえばあの次の日から野坂を避け始めたんだっけ…
あのときは恥ずかしさから避けていたが、こんなことになるならもっと仲良くしておけばよかったと後悔する。
「なんだ…全部俺のせいじゃんか…」
口にしてみると、無性に泣きたくなった。
――悲しいときは素直に泣きなさい。でないと、嬉しいときに笑えなくなるから。でも、独りで泣いちゃいけないよ
脳裏に浮かぶのは、まだ小さかったころ好きな女の子に避けられて寂しかったときに涙を堪えていた涼雅に、父と母が元気付けようと言ってくれた言葉だ。
――涼雅って名前は、涼ちゃんの涼と、アタシの雅なの。アタシたち二人の子どもってわかりやすいでしょ?アタシたちの子なんだから、アンタは強いの。当たって砕けなさい!
ニカッと豪快に笑った母はそのあと、涼ちゃんは体弱いけどと意地悪な笑みで付け加え、父は苦笑していた。
「むちゃくちゃだよ母さん…」
ぐっと奥歯を噛みしめて、涙を堪える。
内海や北本が、後悔のない選択をしろと言っていたことを思い出す。
「…はぁ。いっちょ当たってみますか」
体を起こして放り投げたカバンから携帯を取り出す。昨日から切りっぱなしだった電源を入れて、北本と内海にメールを打った。
『当たって砕けたら骨拾ってくれな』
それだけしか書いていないが、あの二人なら伝わるだろう。
次にアドレス帳を開いて、野坂の電話番号を呼び出す。通話ボタンを押す指が震えた。
…出てくれるかな
不安にかられながら、呼び出し音に耳を傾ける。
一回…二回…三回…プッと電話が繋がる音がした。
『もしもし』
いつもの野坂の声だった。
なんとなく、電話に出てくれないと思っていたから、どきっとして言葉がつまってしまう。
「も、もしもしっ羽井、です」
『それは表示でわかるよ』
「あ…と、いま話してて平気?」
『うん』
「えっと…大事な話、あってさ、その…できれば直接話したいんだ。会える…かな」
『今から?』
「早い、ほうがいいです」
『それじゃ今、家だから場所きめて』
「えと…あんまヒトいないほうがいいから、公園。あったよな?野坂の近所」
『ん。わかった、待ってるよ』
「あ、急いでいくっ」
自転車を尻を浮かして前傾姿勢でこぐ。
速く、速くを心が急ぐ。
公園に自転車で入ると
「いたっ…」
野坂はブランコに足を伸ばして座っていた。
自転車を降りて押して進む。
「ごめ…っ待たせた?」
肩で息をしながら尋ねると野坂は立ち上がって、いやそんなにと自分の尻を払った。
ほい、と羽井にスポーツドリンクを手渡す。
「急いでくるんだろうと思ったから買っておいた。とりあえず飲んで落ち着きなよ」
「あ…りがと」
野坂の優しさに顔が赤くなるのを感じた。
慌ててうつむいて、先ほど野坂が座っていたとなりのブランコに腰を下ろす。
まだ冷えているスポーツドリンクは、渇いた体を潤していく。
どれほど急いでいたのだろうかと思わず苦笑した。
「落ち着いた?」
「ん。なんとか」
思ったより普通に話せることに安心する。
どうやって話を切り出そうかと考えて、しばらく考えても決まらなくて、どうにでもなれとヤケをおこす。
「あのっ」
「羽井、俺も話あるんだ」
「へ?」
虚をつかれる。ぐるぐると頭の中が混乱する。
話って何だろう。鬱陶しいからもう呼び出すのはやめろとか…それならメールでもいいか。何だろう何だろう…
「えっと…先にどうぞ」
なぜか譲ってしまった。
もし考えた内容の話であるなら、そのあとに告白などバカでしかない。
あー…そのときは告白しなきゃいいんだ。そうだとりあえず聞こう。それからだ
野坂はまっすぐに見つめていて、ドキッと胸が跳ねる。
「俺、羽井のことが好きだ。付き合ってほしい」
「…は?」
「男が男相手に気持ち悪いとか思うかもしれないけど、昨日だれかに愛してるとか言ってたからムカついて…じゃない。もしかしたら平気かもと…」
野坂はいろいろ言っているのだが、さっぱり頭に入らなかった。
なに?なんだって?…はい?好きっていった…?野坂が…俺を…
「ちょっ、ちょちょ、ちょストップ!たんま!待って!なに!?」
「混乱するのは分かるけど本心で…俺もビックリしてんだよ…」
「ばっ…ちがっもー!!」
ガシガシと頭をかきむしって、勢いに任せてまだ何かをのたまおうとする野坂の口を手でふさぐ。
「なっ…なんでっ俺がずっと悩んで言えなかったことそんなさらっと言うわけ…ずるい」
「は?」
「…ってか!じゃあなんでもう迎えに来なくていいとか弁当も!」
野坂から追求される前に、疑問をぶちまける。口から手を放してわめいた。
野坂のせいで一喜一憂して忙しかったのだ。
反省文まで書かされた…自業自得だけどもう全部野坂のせいにしてやる
野坂は、うしろめたそうに俯いた。
「や…その、なんてか…軽く嫉妬?」
「はぁ!?」
「いやだって、愛してるとか叫んでんの聞いたらなんか機嫌悪くなってきて…一緒にいたら嫌味とか言いそうだったし、最近避けられてたからそういうことかなって…」
「どういうことだ」
「…。弁当は償いのためとか、そういう理由ならいらない…と思って」
「…じゃ、なんの理由ならいいわけ…」
「…作りたいから…とか?」
言って、野坂は恥ずかしそうに手をひらひらと振った。
恥ずかしいのはこっちだ、と羽井は心のうちで毒づいた。
最近は償いのためなんかじゃなく野坂がおいしいと笑う顔が見たくてつくっていたのに…。
赤くなった顔を見られたくなくて、顔をうつむけた。
ふたりとも無言で、気まずい沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは野坂だった。
「前に…さ」
「ん」
「羽井が英語の課題で居残りしたことあったろ」
「あーうん。カレー食いたいってびびらされたやつな」
「あれ…実は待ってた」
「え、うそ!?」
「図書室で本読んでたのはホント。でもチャリあったし、まだいるんだーと思ってなんとなく。…背中寒かったし」
ポツリと呟いた言葉に、ぴくんと反応する。
「俺も…同じこと考えてた…背中、さむいって」
「ほんと?」
「うん…」
「…告白の返事きいていい?」
「えと…これからも一緒に帰り…たい。償いとかじゃなくて…こっ…恋人と…して」
カーッと体中が熱くなった。たぶん顔も真っ赤だ。
でも、すげー嬉しいと笑う野坂の顔は今までで一番うれしそうだったから、赤くなった顔を見られても気にならなかった。
すると、ぽろっと涙がこぼれた。
野坂がギョッと目を剥いた。
「泣いてんの…?」
「うっさい!お前のせいで大変だったの!自業自得かも…っだけどもう全部お前のせい!」
羽井が涙をごしごしと拭きながらわめく。
野坂は手を伸ばして、羽井の髪に触れる。
「嬉しいときは泣いとけ。悲しいとき涙がでないように」
「…父さんと真逆のこと言ってる…」
「そうなのか?」
「ん…でも涙とまんない。…撫でろ」
「ん」
羽井がぶっきらぼうに言うと、野坂はうれしそうに頷いた。
泣き止むまで野坂は何も言わずに頭を撫でてくれていた。
野坂を自転車のうしろに乗せて、家に帰る。
母が、このあいだ酔って絡んだのを詫びるとかで、家でごちそうを振舞うのだとメールがあった。もちろん、料理を作るのは羽井なのだが。
背中のぬくもりに向かって文句を投げる。
「ギプスとれたんなら、こぐの代われよ」
「ギプス取れただけで完治じゃないし。完治したらな」
「むー…絶対だからな」
「おう。そういや、羽井の話ってなんだったんだ?」
「今きくか!?それ!」
「え、だって聞いてない」
たぶん野坂は笑ってる。
話の内容の想像がついていつのだ。意地が悪い。
「…野坂が好きだって…言おうと」
「きこえない」
「…っから!お前が好きだって言おうと思ったら野坂が先に言ったんだよばか!空気読めよ!」
ヤケになってまくし立てると、野坂は声を抑えることもせず笑った。
触れる背中が、小刻みに震える。
むすっとむくれて、羽井は自転車をこぐ足を速める。
それでも久々に感じる背中の温かさに、ふっと頬をゆるめずにはいられなかった。
野坂と一緒にしてみたいことが頭にあふれてくる。
これからが楽しみで仕方なくなった。
もうすぐ肌寒い秋がやってくる。
にも関わらず今、春がやってきた。
来年の桜が散る頃には、野坂のこぐ自転車にうしろに乗せてもらおう。
そのためには美味しい料理をつくって栄養をつけてもらわないと。
そう決めると、心がぽかぽかした。
「やっぱり春だ!」
「なにが?」
「なんでもない」
くすっと笑って、長く背中に野坂の存在を感じていたくて自転車をこぐ足をゆるめた。
らぶ米が初めて他人に見せた作品なのですが、SNSサイトのブログに載せてたもんで文字数3000とかで…サクサク進みすぎるのと書き込みが薄いのとでぐだぐだ感がハンパじゃないですね(笑)
未熟さが目に余るのですが、読み返してもどう改善したものか…と思ったのでもういっそこのまま載せてしまえという暴挙にでました。これはひどい。
あとタイトルも決めるのがニガテで友人と決めてたのですが他の候補は「すっとこどっ恋」「おっとどっ恋」「どす恋」でした。
未だにまともなタイトル募集中です(笑)
このあと内海と北本の話に続くので、どうしても載せておきたい作品なのでした。
こんな寒い冬にこんな真夏のお話にお付き合いありがとうございました!!