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第8章 一時的な安全

祝10000ヒット!!

ありがとうございます!!

意外に好評で本当にうれしいです。

前回はちょっと混乱していたので、今回からは普通の事を書きます。

「なら、私を迎えに来て。スーパーで待ってるから、自衛隊らしくかっこよく迎えに来てよ」

「………………分かった。迎えに行くから待ってろ」

「うん、待ってる」

そう言うと、美樹は立ち上がった。

厚志の姿が見えなくなると途端に不安が広がった。震える体を押さえるために自らを抱くように腕を回す。

振り返るとすでにチャラ男と特徴の無い女はスーパーに向かって走り出していた。

「あなたも早く!」

いつの間にか髪の長い女―――奈穂が美樹の傍にいた。彼女は手を取ると引っ張るように走り出す。

名残惜しいからかトラックを見るが、厚志の姿も香奈の姿も見られるわけがなかった。

何とか奈穂に歩調を合わせながら走る。 ただ引っ張られるだけではいつかバランスを崩してしまうからだ。

トラックがある道とは反対の道を見ると数体の感染者が美樹達に向けて歩いて来ていた。何とかなる数には思えたが、いかんせん今は武器が無い。

美樹は奈穂達を助けた際にナイフを感染者に刺しっぱなしにした事を今更ながら後悔した。

何とかスーパーの入口にたどり着いたが、そこには十数体の感染者が集まっていた。

「ちょっと、どうやって入るのよ」

奈穂が絶望した表情で入口を見つめていた。

見れば入口だった自動ドアには机や棚などでバリケードが組まれていた。それにより感染者の侵入を防いでいるらしい。

それは同時に、美樹達が中には入れない事を表していた。

武器も無い、逃げ場も無い。奈穂達だけでなく美樹自身も絶望しかけていた。

その時―――

「おい君達!」

頭上から声が聞こえた。慌てて見上げると、屋上で少し後退した頭の男が手を振っていた。

スーパーは一階建てなので意外と耳を澄ませなくとも男の声が聞こえた。

「た、助けて下さい! 警察の人に言われて逃げてきたんです!」

奈穂がすかさず返事をした。警察と聞いて思い当たったのか、

「分かった。裏に回るんだ! 従業員用の入口から入れる!」

「あ、ありがとうございます! さぁ、行きましょう!」

頭を上げるとすぐに走り出した奈穂にそのまま着いていく。手を握られているのだから振りほどきでもしない限りは着いていくしかない。

「やったぜ! 助かった!!」

チャラ男達が我先にと駆けていく。

男の言う裏とは、食材などの搬入口であり、かなり分厚いシャッターが下りていた。そこは明らかに入れないので脇にある従業員用の出入口に向かう。

すると先に行っていたはずのチャラ男達が何故か叫んでいた。

「だから俺達は奴らじゃないって! 早く入れろよ!!」

「お願いします! 死にたくない!!」

チャラ男達が出入口のドアを必死に叩いていた。今は辺りに感染者の姿は無いが、これだけ声を出していればいずれやってくる。

美樹はチャラ男達に近付く奈穂の手を自然にほどき、辺りの警戒をする事にした。

「信二君、沙苗ちゃんどうしたの?」

「奈穂ちゃん、中の人が開けてくれないの!!」

「くそっ、意味分かんねぇ! さっきのオッサンが嘘吐いたのかよ!?」

ガン、とチャラ男―――信二がドアを蹴る。

『……君達が噛まれてないって保証は……無いよ』

くぐもったような声がドア越しに聞こえた。

「ふざけんなよ、てめぇ! さっさとここを開けやがれ!!」

再びドアを蹴る信二。苛々しているのが目に見えて分かる、いつ八つ当たりされるか分からないため美樹は絡まない事を決めた。

どうやら中にいる男は美樹達が感染者に噛まれているのではないかと思っているらしく、頑として開けようとしないつもりのようだ。

「さっさと開けろよ!!」

(……このままじゃさらに入るのは難しくなるのに)

信二の考え無しな行動に呆れつつ、美樹は思案した。

「信二君落ち着いて、あの私たち警察の人に言われてきたんです。どうか開けてもらえませんか?」

奈穂が何とか信二を宥めるようにして、前に出て話す。話し方や立ち居振る舞いからかなり育ちの良さが滲み出ている彼女ならば――少なくとも信二よりは――話を聞いてもらえるだろう。

「このままじゃ、私たちは本当に噛まれて死んでしまいます。どうか、お願いします」

『…………じゃあ、鹿田さんは……どうしたんだ?』

「そ、それは…………」

奈穂が返答に詰まる。

鹿田とはおそらく先程美樹を助けて亡くなった警察官の事だろう。美樹も唇を噛み締める。

『…………殺したんだろ』

「ち、違います! そんな事する訳ありません!」

奈穂が慌てて否定する。どうやら鹿田はかなりこの男の信頼を得ていたらしい。ただでさえ開ける気のなかった雰囲気がさらに濃くなる。

『何やってるんだ早く開けてやれ!』

聞き覚えのある声がドア越しに聞こえる。どうやら屋上にいた男が降りて来たらしい。

『でも……こいつら鹿田さんを……』

『いいから開けろ! 事情は後で聞けばいいだろうが!!』

中から揉めている声が聞こえる。

そんなやり取りに信二苛々し、沙苗は祈るように手を合わせ、奈穂はただ一人落ち着いていた。

あと少しで開くという所であの音が聞こえてきた。

何かを引きずるような音と何かを求める赤子のような呻き声。

見れば、美樹達が通って来た道から感染者が数体現れた。

「感染者が来ました。なるべく早くしてください!」

『わ、分かった! 大介、退け!』

美樹は近くに積み上げられていた角材を拾うと正眼に構えた。一応学校の授業で剣道があるため、ある程度様になっているが、それ以上ではない。

角材の強度は十分とは言えない上、角が立っているため握りが甘い。はっきり言って戦えるわけがなかった。

それでも―――

「早くしろよ! そこまできてるんだ!」

「早く開けて、お願い、早くしてよぉ!!」

「あ、あなた何してるの!? 敵う訳無いでしょ!」

取り乱す奈穂達よりは戦えるはずである。扉が開くのが間に合えばそれでいいのだ。

美樹だって戦いたいわけではない。

(厚志さんが来るまで絶対死ぬわけにはいかない……これ以上あの人に背負わせるわけにはいかないんだから…………)

ギュッと角材を握り締める。角が食い込み痛みが走るが、死ぬよりはマシと自らに言い聞かせる。

一番近い感染者があと数メートルの所に差し掛かったとき、待ちに待った音が聞こえた。

「よし、開いた! 早く入れ!!」

信二と沙苗が男を押し退けるようにして中に入っていく。

「あなたも早く!」

「はい!」

奈穂の声に答え、じりじりと後退りながらドアに向かう。

感染者は普段は動きが鈍いが、人間に襲い掛かる時は素早い。美樹は厚司と出会うまでにそういう光景を見ていたため、今の距離で下手に背を向けて逃げるのはかなり危ない。そのため、どうしても確認しながらになってしまう。

「早く!!」

十分に距離を取った所で走る。

ドアまで数メートルの距離のはずだが、何故か全く近付いていっている気がしなかった。美樹はただ足を動かし、走る。

ようやくドアまでたどり着く。

「た、助かっ―――っ!?」

いきなり肩をすごい力で引かれた。いつの間に近付いていたのか、美樹は背後にいた感染者に肩を掴まれていた。

何とか噛み付かれる事だけは避けるために無理矢理身体を捻り、角材を噛ませた。だが、それも付け焼き刃に過ぎず、ミシミシと音を立てて角材が砕けていく。

(こんな所で……死ぬわけにはいかないのに!)

助けを求めるわけにもいかず――求めても無駄だと思うが――美樹は諦めかけていた。すでに他の感染者達も近付いて来ている。

涙が流れる。それが死に対する恐怖によるものか、厚司との約束を守れなかった事に対するものか美樹自信にも分からなかった。

(…………助けて、厚志さん!!)

頭の中で助けを求めた次の瞬間、美樹に組み付いていた感染者の頭にハンマーが振り下ろされた。

スイカが砕け散るような音が聞こえ、美樹の顔に血が掛かる。

「……あ、厚志さん……?」

「君、早く中に行くわよ!!」

崩れ落ちた感染者の後ろにいたのは厚志―――ではなく、奈穂だった。彼女は肩で息をしていたが、唇を引き締めると美樹の手を取り駆け出した。

そのまま男が開けていたドアに滑り込む。背後で鉄扉の閉まる重い音が聞こえた。

「はぁ、はぁ……危なかったわね」

「…………あ、は、はい」

美樹はしばし自分が助かった事実を理解できず、呆けていた。

「うわ、ごめんね……うまく倒せなくて」

「い、いえ……」

奈穂がポケットからハンカチを出して美樹の顔に付いた血を拭き取る。その手が震えている事に気付き、美樹は思わずその手を握り締めた。

「……もう大丈夫よ」

「…………っ、ありがとう……ございます!」

「うん、私も助けられてよかった……」

美樹はようやく助かったのだと理解し、涙を流しながらお礼を言った。奈穂もまた涙を流し、震えつつも美樹を抱きしめた。

その時、感染者がドアにたどり着いたのか強い力で叩く音が響いた。

「よっと、お嬢ちゃん達悪いけど少し脇によけてくれるかね?」

奈穂に抱きしめられたまま脇に避けると、押さえていたものなのか鉄製の箪笥や机などを屋上にいた男が積み上げていく。

「これでよしっと、ま、鉄扉なんで大丈夫なはずなんだが念には念をな」

「あ、ありがとうございました。入れていただいて」

奈穂がまだ泣いている美樹の代わりにお礼を言う。

「いいって、むしろこの馬鹿がごねたせいでそこの子を危険に曝してすまんかったな」

屋上にいた男は、近くにいた痩せた根暗そうな男の頭を叩いた。

「俺は太田多五郎、このスーパーの店長をしている」

「あ、私は尾井奈穂といいます」

奈穂が少し頭の後退した多五郎と握手を交わす。

多五郎は五十代くらいの顔付きだが、よく見ると典型的な中年のオヤジというわけではなく、かなり鍛えたプロレスラーのようながたいをしていた。快活そうな笑みとこんな状況で助けてくれた事から考えてかなりいい人なのだろう。

「こいつは大槻大介。俺の甥っ子なんだが、うたぐり深い上に根暗でな。さっきは悪かった、代わりに謝る……すまん」

多五郎は自分の影に隠れていた大介の頭を無理矢理押さえて一緒に頭を下げた。

「い、いえ最終的には助かったんですから謝っていただかなくても大丈夫ですよ」

奈穂が一回り以上差があるはずの多五郎に頭を下げられ、慌てて頭を上げさせていた。美樹はそんな二人よりも大介の方に注意を向けていた。

大介は未だ疑いを晴らしていないのか、奈穂や美樹の身体に視線を這わせていた。チャラ男こと信二の舐め回すような視線も気持ち悪かったが、大介の視線も美樹にとっては気持ちの悪いものだった。

「ところで、こんな事を聞くのは嫌なんだが…………あんたら本当に噛まれていないんだよな? いや、大介が噛まれた奴は外の奴らみたいになるって聞かなくてな」

「は、はいもちろん噛まれていません。あなたも大丈夫?」

突然話し掛けられ美樹は一瞬固まってしまう。

「あ、だ、大丈夫です」

いぶかしむ三人の視線を受けて、慌てて頷く。

知り合いのいないこの場で下手に疑わしい行動をしては最悪外に放り出されるか、食料すら与えられなくなる可能性がある。美樹はよかった、と言い笑う奈穂を見て何とか納得してくれたのだと安堵した。

「あと、君達を放置して中に入って行った二人は大丈夫なんだろうな?」

「ええ、昨日からずっと一緒にいたので大丈夫のはずです」

「そうか、ならいいんだが……しかし私も咄嗟に出られなかったから人の事は言えんが友達が危ないってのに自分らの安全を優先するとはな……」

「もう、あの子達は! ちょっと行ってきます、こっちでいいんですよね?」

奈穂が呆れた表情言い、従業員用のドアとは反対側を指差す。多五郎が頷いたのを見ると、走って行ってしまった。

美樹は言われて初めて信二達がいない事に気付いた。辺りを見回してみても搬入されたらしい大量のダンボール箱が積み重ねられているだけだった。音といえばすぐ傍にある従業員用のドアを叩く音くらいである。

「さ、そのドアは鉄製でそう簡単には破られないから、俺達も中に入ろう」

ドアを見ていたのが、不安から来るものだと勘違いしたらしい多五郎が声をかけてくる。

確かに鉄製らしいドアは、数体の感染者に叩かれてもびくともしていない所を見ると多五郎の言う通り頑丈らしい。美樹自身、感染者がすぐ傍にいてドアを叩いている音だけ聞かされては気が滅入りそうだったので彼の提案に従った。

「僕はここにいるから……」

「……いいのか?」

「……また誰か来ても面倒だし……」

「分かった」

大介は近くにあった椅子に座るとそれ以上喋るつもりは無いと言うようにドアに身体を向けた。

「さ、着いてきてくれ」

多五郎がドアとは反対側に歩き始める。先程のやり取りが日常的に行われているのか特に気にした様子は無い。

「そういえばお嬢ちゃんの名前を聞いてなかったな」

「あ、そうでした。相良美樹といいます。柿崎高校に通ってます」

「おう、よろしく! 柿崎ってことは大介と同じ高校か。確か二年のB組だったはずだが」

「え? そうなんですか?」

握手を交わしながらそんな会話をする。

同じクラスだったので、大介の姿を在りし日の学校内で探すが、全く記憶になかった。

「んーちょっと分からないです……すいません」

「いや、いいよ。俺も認めるくらい影が薄からなー」

「あ、あはは……」

言葉が出ず、美樹はただ苦笑するしかなかった。

叔父にすら影が薄いと言われているのだから、同じクラスでも本当に気付かない存在だったのだろう。美樹は少し申し訳ない気持ちになりながらも、とりあえず大介の事は思考の隅に置いておいた。

「そういえば、ここには何人くらいの人がいるんですか?」

「君達を除けば、俺と大介、後は店員が一人と鹿田さん…………君達をここに案内した警官が連れて来た三人だけだ」

「そう……ですか」

警官―――鹿田の名前が出て、俯く美樹。

脳裏に、先程感染者に噛まれてなお美樹を救った鹿田の顔が浮かぶ。唇を噛み締め、何とか涙を流すまいと耐える。

「なあ、悪いとは思うが、鹿田はどうなったんだ?」

そんな美樹を見て何かを感じ取ったのか、多五郎が眉を寄せて聞いてくる。

「……鹿田さんは……私を庇って…………」

「そうか……あいつらしいな…………その先は言わなくていい…………すまんな、辛い事を思い出させて」

「いえ……私が今生きているのは鹿田さんと尾井さんのお陰なんです」

少し無理をしながら笑みを浮かべた美樹を見て、多五郎は複雑な表情を浮かべていた。

「と、もう店内だし湿っぽい話は終わりにしよう」

「は、はい」

美樹が零れそうになった涙を拭うのを見て、多五郎は笑みを浮かべた。

その笑みには、厚志が見せるものとは違う頼もしさが感じられた。

「他の皆は思い思いの場所で休んでる、紹介はしたいんだがいかんせん俺も自己紹介されてないんでな……紹介できるのはうちの店員くらいなんだ」

「いえ、置いていただけるだけで十分ですよ」

「そうか? じゃあ俺はまた見張りに戻るから、何かあったら屋上まで来てくれ」

美樹が頷いたのを見て満足したのか、多五郎は店内と倉庫を繋ぐドアのすぐ脇にある階段に向かっていった。

多五郎の姿が見えなくなると、美樹は壁に背中を預けてへたりこんだ。

緊張の糸が解け、身体が震え始める。

感染者に実際に襲われ、死の恐怖を自分自身で感じた。確かに感染者を何体か倒してはいるが、それは近くに厚志がいて、何かあっても助けてくれるのだという安心感があったから戦えたのだ。美樹一人では絶対に倒せるわけがなかった。

(……厚志さんっ!)

厚志の手や身体の温もり、固くも優しい声を思い出し、何とか震えを押さえ込もうとする。

(絶対に助けに来てくれる! 約束したんだから!)

最後に見た厚志の泣きそうになりながらも真剣だった表情を思い出し、何とか震えは治まった。

一度深呼吸をして、美樹は自分の身体をギュッと抱きしめた。厚志に抱きしめられた感覚を思い出すように強く抱きしめる。

「もう、あの子達は本当に自分の事しか考えてないんだから!!」

「……っ!?」

いきなりドアが開き、奈穂が現れた。

美樹は自分の身体を抱きしめたまま固まってしまった。そのまま美樹の存在に気付いた奈穂と見つめ合う。

「……うわっ、美樹ちゃん! あ、ごめんね、こんな時に離れて……って太田さんは?」

「……見張りに戻るって言ってましたよ」

「もう、あのおじさんは! こんな時に女の子を一人にするなんて!!」

奈穂は腰に手を当てて呆れているのか肩を落とした。美樹は苦笑いしか出来ない。

「……大丈夫?」

「…………はい、何とか」

「……そう」

小さくそう言うと、奈穂は美樹の隣に腰を下ろした。

深く聞こうとしない奈穂の気遣いに感謝しつつ、ピッタリとくっついた彼女の体温を感じて少し安堵した。

「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

「……何ですか?」

「厚志さんってさっきいた自衛隊の人でしょ?」

「…………えっと」

突然の質問に返答に困り、頬を掻く。おそらく先程助けられた際に咄嗟に名前を呼んでしまったからだろう。

「あれ? 違った?」

「……いえ、合ってますよ」

奈穂の表情がからかうものではなく、単純に疑問だから聞いているのを感じ、美樹は素直に頷いた。

「そっかー、彼氏が強いといいよね」

「…………え? 彼氏!?」

「あれ? 彼氏じゃないの?」

「ち、ちちち違いますよ! 昨日初めて会った人です!」

動揺して顔を赤くし、わたわた動きながら否定する。そんな美樹の様子を見て奈穂は不思議そうに首を傾げた。

「へーその割にはトラック挟んで別れる時の会話なんかまさに恋人って感じだったけど」

「あ、あれはただ約束しただけですよ!」

ムキになって否定する。それが逆にからかう口実を与えているのだが、動揺している美樹は気付かない。

「ふーん、でも好きなんでしょ?」

「う、う~明言は避けます」

耳まで真っ赤にして抱えた膝に顔を埋める。奈穂は何か羨むような眩しいものを見るような笑みを浮かべていた。

「羨ましいな……」

「奈穂さんは、あの新橋さんが彼氏じゃないんですか?」

「違うのよね……ただの腐れ縁よ…………そう、ただの腐れ縁」

どこか寂しそうな表情で奈穂が呟く。

「康太とは幼なじみなのよ。小中高大学まで一緒でさらには住んでるアパートまで一緒なのよ……腐れ縁以外なんて呼び方があるんだか」

「いいじゃないですか」

「…………そうね、ただ一緒なだけマシかもね」

ため息混じりに肩を落とす奈穂。明らかにただの腐れ縁では満足していないのが態度から分かる。

「告白したりしないんですか?」

「…………え? な、なんでそんな結論に至ったの!?」

「んー、何となく奈穂さんは今の幼なじみの関係じゃ満足してない感じがしたので」

頬を掻きながら、美樹自身なんでそんな結論に至ったのか分からず困惑していた。それは奈穂に自分を重ねたのか、それとも本当に直感なのか分からない。

ただ、何となく美樹も厚志との関係を今のままにしておきたくないと思っているのは確かだった。

少なくとも香奈と同等程度の信頼を寄せていた。

(……厚志さんと香奈に会いたいな…………)

会って二日しか経ってない人物にこんなにも会いたいと願う自分に、美樹は困惑していた。今までに無い、感情に戸惑いながら、奈穂との会話に戻った。

「やっぱり告白したほうがいいかな……?」

「…………こんな状況ですし悔いは残さないように動かないと、ですよ」

まるで自分に言い聞かせるように美樹は言った。

奈穂は十秒ほど考えていたが、ようやく決意したのかグッと手を握り締めた。

「よし! ここを脱出したら告白する!!」

「それがいいですよ」

「だから、美樹ちゃんもここを脱出したらあの人に思いをぶつけるのよ」

「え!? いや、私は……まだ気持ちが定まってないですから……」

ごまかすように言うと奈穂は不服なのか頬を膨らませた。

大人っぽい雰囲気を醸し出しているにも関わらず、動作が所々子供じみていた。そのギャップが親しみ易さや、魅力なのだろう。事実美樹もあまり警戒せずに話を出来ていた。

「……まぁ、気持ちが定まったら言うのよ。『こんな状況だし悔いは残さないように動かないと』、だよ」

「うっ、それを言われると…………」

自分の言葉をそのまま返され、美樹は苦笑してしまう。

奈穂は悪戯っ子のような笑みを浮かべ、美樹の頬を突いてきた。先程負かされたお返しなのだろう、一々動作が憎めない人だった。

「ま、何はともあれまずはここから脱出しないとね」

「そうですね」

「さ、そうと決まったら腹ごしらえしましょう!」

「はい!」

スカートを叩きながら立ち上がり、美樹に手を差し出してくる奈穂。その好意に甘えて立ち上がらせてもらう。

「幸いここは絶対安全みたいだし、入口のバリケードも見てきたけどかなり頑丈そうだったしね。年始のバーゲンセールくらいの押しかけがない限りは大丈夫なはずよ」

「そうですか、それなら大丈夫」

例えは微妙だったが何となく意味は分かったので、美樹はホッと胸を撫で下ろした。

「そうそう、康太や藤堂さんが来るまではあんぜ―――」

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

奈穂の言葉を遮るように、突然店内から悲鳴が上がった。

それは、まるで敵襲を知らせる鐘の音のように店内に響き渡った。

いやぁ、しかし厚志はどうなったんでしょうね。(作者なのに)

むしろ美樹は本当に女子高生なんですかね~、最近私の中でいい女指数が上がりすぎて女子高生っぽくなくなってきた様な気がします。


ちなみに、死亡フラグなどを私の中では立てているつもりです。

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