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第21話 目的と決別

え~五ヶ月も放置してしまい誠に申し訳ございません。


ROM専になっていました。


今回は厚志がその性格故にある事を起こしてしまいます。

 厚志はまだ少し眠い頭を叩いて覚醒させ、一階のリビングに向かった。

 リビングにはすでに皆揃っていた。

リビングはかなり広く、入口とは反対側の壁に四十インチほどの液晶テレビがあった。テレビの反対側には、間にテーブルを挟んで三人掛けのソファが置いてあり、テレビに対して左側に同じく三人掛けのソファあった。

 テレビの向かいのソファには、大森が真ん中に、左側に香苗が座っていた。しかも大森の膝の上には、何故か奈々子が座っていた。

 左側のソファには美樹が座っていて、多田は立ったまま彼女の向かいにいた。

「やっと来たか」

 多田の険のある声に、厚志は眉をひそめる。

「あ、厚志さんっ! 私の横にどうぞ!」

「……ああ」

 厚志の方を見ようとしない多田を気にしながら、右端に寄った美樹の隣に腰を下ろす。ソファはかなり上等な物らしく、バランスを崩すほどに厚志の身体が沈み込んだ。

「……では、これからどうしていくか話し合おう」

 多田が、厚志が座ったのを確認すると切り出してきた。多田と厚志の間に流れる空気を感じ取ってか、皆気まずそうにしていた。

「一応バリケードを組んだが、長くは保たないだろう……早く安全な場所を見つけなければならない」

「……この辺りだと頑丈そうな場所は限られてしまう、正直銀行やビルとかしか思い付かない」

 大森が眠たくなったのか、うとうとし始めた奈々子の身体を、自らの身体にもたれさせながら言った。

 厚志も思い付くのはそれぐらいだった。他に無いわけではないが、遠すぎる。

「ああ、あともう二つ選択肢はある」

「……二つ?」

 厚志は思わず問い返す。一つは心当たりがあったが、もう一つは分からない。

「一つは俺達が駐屯していた基地だ」

 厚志達が勤めていた伊山基地は、戦後ある程度復興が進み、落ち着いた後に建設された。そのため住宅地の近くにあった潰れた工場跡地を引き取り、建てるくらいしか場所が残っていなかった。土地はあまり広くなく、武器や発着場を揃えるだけで一杯一杯だった。故に寮を敷地内に作れず、妙に離れた所に作らざるを得ず、バスで移動するという無計画極まりない状態になってしまった。

 もちろんそれでは緊急時に迅速な対応が出来ないので、武器庫脇に無理矢理プレハブを建てて、帰れない場合のための仮眠室は確保していた。

 ただ、伊山基地は寮からバスで三十分近くかかる場所にあり、現状足の無い厚志達では容易に辿り着ける場所ではなかった。

「基地は遠すぎるだろう」

「ああ、基地は遠い。だが、今のままだといずれ弾薬が尽きてしまうから辿り着かなければならない場所でもある」

 赤石が不祥事を隠すために、寮に武器弾薬を持ち込んではいたが、全てでは無い。周辺住民に怪しまれないために少しずつ運んでいたので、まだかなりの数が基地に残っていた。

「そこで、ここから基地にいく道のりにある場所に行こうと思う」

「あ、もしかしてショッピングモールですか?」

 香苗がポンと手を打ち合わせ、笑顔を見せる。多田がその言葉に頷いた。

 香苗の言うショッピングモールは、最近出来たスーパーから映画館まであり、あらゆる物が揃うと宣伝しているかなり大型のものであった。

 ただ、いくら基地に向かう方向にあるとは言っても、ショッピングモールに行くためには遠回りをしなければならず、危険を伴う。さらに、すでに避難している者達がいた場合、受け入れを拒否される事も考えられる。

「食料等をそこで確保し、あわよくば車を手に入れて基地に向かう。もちろん生存者がすでにいた場合は、話し合うか、他の避難場所を探さなければならない」

 多田の意見は至極真っ当だった。特に反論も無い厚志は黙って聞いていた。

「他に意見がなければこの案でいくが、いいか?」

 皆が頷いたのを見て、多田は立ち上がった。

「では出発は明日の朝だ。今日はゆっくりと―――」

 多田が締めの言葉を言っている途中で、突然居間に入ってすぐの机の上にあった固定電話がけたたましく鳴り響いた。

 その音に反応して眠っていた奈々子が目を覚ました。電話の音に顔をしかめ、身をよじらせている。

「んん、うるさいぃ」

皆しばらく呆然としていたが、その声でようやく厚志は思い出したように慌てて受話機器を取った。

『紀美江? 紀美江なの!?』

 受話器の向こうから、慌ててはいるが、何処か安堵したような女性の声が聞こえてきた。厚志は聞いたことのある声だと思いつつも、今は相手の誤解を解くのを優先した。

「すまないが、俺は紀美江さんではない」

『え? なら誰……え? その声……』

 厚志は突然黙ってしまった電話相手に首を傾げる。

『……もしかして、藤堂……さん?』

「ああ、そうだが……」

『私、理緒です。姉さ……姉の未果がお世話になりました』

「理緒……ちゃん? 本当に理緒ちゃんなのか!?」

 周りで状況を伺っていた美樹達が驚くのも構わず、厚志は受話器に向かって叫んでいた。

『はい、篠部理緒です。お久し振りです』

「ああ、本当に久しぶりだね! 君は無事なのか?」

『ええ、伊山病院の食堂に立て籠っているので、今のところ問題はないかと思います。藤堂さんこそ何で紀美江の家に?』

「あー、たまたま立て籠らせてもらっているんだ。ただ、住人は居なかった……」

『そう……ですか……』

 何が起こったか察したのだろう、理緒の声が明らかに沈んだものになる。

「おい、藤堂。誰からの電話なんだ?」

 勝手に話を進めていた厚志に、待っていられなくなったらしい多田が聞いてきた。

「未果の妹の理緒ちゃんだ、伊山病院に立て籠っているらしい」

 厚志は受話器のマイク部分に手をあて、理緒に聞こえないようにすると、説明した。

「本当か!? それは良かった」

「ああ、とりあえず今のところ問題ないらしい」

 厚志の説明に頷く多田。恐らく厚志がまた救いに行くと言い出すのを警戒したのだろう。だが、武器があると言っても、戦闘をこなせる人間の少ない今、厚志もさすがにそんな事は言えないのは分かっていた。

『今病院内はあの変な人達が居ます。今外はどうなってますか? こんな自体になったすぐはテレビが見れたんですが、今はどこも砂嵐か、テロップが流れているだけなんですが。もう、救助は始まってますか?』

 理緒が不安そうに聞いてくる。

 どうやらテレビを見てそれなりに外の状況を知っているらしいが、今現状がどうなっているかわ知らないらしい。厚志はどう答えたものかと思案した。

「理緒ちやん、よく聞いて―――」

 厚志がなんとか言葉を選んで口を開いた瞬間、受話器の向こうから耳を突き抜けるような、何かが崩れる音が聞こえてきた。

『うわぁぁぁぁぁぁ!』

『や、奴らが入ってきたぞ!!』

『い、いやぁ! 離してぇ!!!』

 受話器の向こうから聞こえてくるのは、阿鼻叫喚の声だった。

「理緒ちゃん!? 理緒ちゃん!! 何があったんだ!?」

『理緒、早く奥に逃げるのよ!!』

 見知らぬ誰かの声が聞こえたかとか思うと、カシャンと何かを落とす音が聞こえた。恐らく携帯電話を落とした音なのだろう。それ以降は悲鳴と、何とかバリケードを組もうと叫ぶ声が聞こえるだけになった。

「くそ! 多田、理緒ちゃんが避難している場所が感染者に襲われた! 助けに行くぞ!!」

「……駄目だ」

「は?」

 厚志は、一瞬何を言われたのか分からない様子で振り返った。振り向いた先にあったのは、助けられない事を悔やむ顔ではなく、ただ冷徹に今の状況を見詰めていた訓練の時の多田の顔だった。

「今、何て言った?」

「駄目だ、と言ったんだ。これ以上彼らを危険には晒せない」

 そう言って、多田は振り返った。その先にいるのは美樹を始めとした仲間達だ。だが、まともに戦えるのは厚志と多田、後は大森だけだ。確かに、美樹は今までの行動を見れば何とか戦えない事はないかもしれないが、香苗や奈々子が戦えないのは誰が見ても明らかだった。

 そう、このメンバーで病院などと言う、明らかに感染者が大量にいるであろう場所に救助になど行けるはずがなかったのだ。特に伊山病院はこの辺りでも有数の総合病院であり、抱えている病人の数も数百を下らない。行けば必ず犠牲者が出るだろう。

「だ、だが……」

「それでも行きたいならお前一人で行け。確かに平時なら藤堂の行動は正しい。だが、今は非常事態なんだ。これ以上俺達を危険に晒さないでくれ」

「……っ」

 多田の言葉に、厚志はそれ以上何も言えなくなる。

 確かにその通りなのだ。実際厚志の行動によって犠牲になった人物はいる。あの高校生や、赤石達の事である。

 あまりの正論に二の句を言えなくなる厚志。美樹達に視線を向ければ、皆どこか困った顔をしていた。

「あ、あの厚志さん……言いにくいんだけど、たぶん行ってもみんな死んでると……思う」

 美樹がおずおずといった様子で言ってくる。それもまた想像できる事だった。今ここにいる理由が、まさにそれなのだ。

 安全と思われた場所に起こった突然の事故。それにより安全だった寮は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 今生きている事こそ運が良かったとしか言えない。実際寮にいた生存者の半数が亡くなっている。

 もうあんな事態は見たくない。その思いは確かに厚志の中にあった。だが、今回は事情が違う。

(理緒ちゃんは俺が守るって未果に約束したんだ……)

 厚志はもう一度美樹達の顔を見回す。何が起こったのか理解できていないのだろうが、緊迫した雰囲気に怯えている奈々子が目に入った。さすがに厚志も罪悪感が浮かぶが、譲るわけにはいかなかった。

厚志は、多田に視線を向け、考えを伝えた。

「……すまない、俺は行く」

「っ!?」

 多田のみならず、美樹達も息を飲んでいた。そんな決断をするとは思わなかったのだろう。

「本気か?」

 多田が眉を寄せて聞いてくる。

「ああ、だからモールにはみんなで行ってくれ」

「死にに行くようなものだぞ!!」

「分かってる、だから俺一人で行くと言ったんだ」

「お前が抜けるって意味を分かってるのか!? さっきは一人で行けって言ったが、俺達の主力は間違いなくお前だ。そのお前が抜けて無事にモールに行けるとでも思っているのか!?」

「多田がいれば大丈夫だろう」

「藤堂、お前!!」

 多田に胸倉を掴まれる。今日二度目だが、朝よりも力が入っていた。苦しさに咽せる。

「確かに篠部さんの妹なんだから、お前の気持ちを考えれば助けたいのは分かる。だがな、今の状況を考えろよ! お前が守るのは過去の知り合いなのか? 違うだろ、今目の前にいる仲間を守らなきゃいけないんじゃないのか!?」

「それも分かってる……だが俺は未果に約束したんだ、理緒ちゃんを守るって!!」

「てめぇ!!」

 多田の拳が振り上げられる。厚志は目を逸らす事無くその拳を見詰めた。だが、その拳が振り下ろされる事はなかった。

「落ち着いて多田さん!!」

「美樹ちゃん離してくれ! こいつはさっき殴っただけじゃ分かってなかったんだ!!」

 美樹が咄嗟に多田の腕を掴み、振り下ろすのを妨げていた。振り解こうとした多田を、さらに大森が羽交い締めにした。

「多田、どんなに言われても俺は行くよ」

「まだ言うのか!!」

「未果の妹なんだ。こんな状況で放っておく事はできない。助けられるなら助けたいんだ」

「〜〜〜っ、勝手にしろ!!」

そう言い放つと、多田は大森を振り解き、部屋を出て行った。体格では勝る大森だが、さすがに毎日訓練をしている自衛官を完全に押さえ込む事はできない。恐らく無理矢理にでも抜け出す事はできるが、怪我を恐れて全力を出さなかったのだろう。

 激昂しているのは確かだが、それと同時に頭の中は冷えている。多田の持つ特技のようなものだった。

「あ、厚志さん……」

「すまない皆、ここからは別行動だ」

 美樹が何かを言う前に厚志は遮るようにしてそう言った。ついて行くと言いたげな美樹や茫然としている香苗達を残して、部屋を出た。

 二階の、先ほど寝かされていた部屋に向かい、ここを出る準備を始める。

 病院に着くのは早ければ早いほど良いのだ。厚志は浮かんでくる嫌な想像を払いながら、準備を進めた。

 小銃や装備一式を身に着け、ある程度の食料をバックに積める。その間誰もここを訪ねる事はなかった。

 準備を終え、部屋を出る。さすがに今に行くのは気まずいと思い、厚志はそのまま玄関に向かった。

「厚志さん」

「美樹ちゃん……行ってくるよ」

「あの、これ……」

 美樹が渡してきたのは、何かの鍵だった。

「これは?」

「バイクのキーだって、みんな乗れないから移動手段として案から外してたんだけど、厚志さん一人なら使えるでしょ?」

「いや、バイクで行くのは難しいと思うぞ。出るのは可能だが、確実に閉めるのが間に合わない」

「この家のバイクは目の前の道を左に数百メートル行ったとこにあるらしいよ。鍵が置いてあるとこで駐車場の契約書見つけたから間違いないと思う」

「……分かった。ありがたく使わせてもらうよ」

 この家の住人に許可を貰ったわけではないのだが、この際仕方ないと厚志は割り切った。美樹からキーを受け取り、玄関のドアを開ける。

「……っ、厚志さん!!」

 美樹に呼び止められ、振り返る。彼女が胸に飛び込んできた。少しよろけてしまったが、何とか踏み留まり、美樹を抱き留めた。

「絶対……絶対モールに来てよ! 約束だから!!」

「ああ、約束だ」

「それから……あの、帰ってきたら……み、未果さんの話しとか聞かせてね……」

「……ああ」

 それ以降は美樹のしたいがままにさせていた。

 ぎゅっと抱き付いたまま数分が経った頃、美樹は離れた。少し名残惜しいものを感じながらも、厚志は何も行動しなかった。いや、出来なかった。

 自分勝手な行動の結果、皆と離れるにもかかわらず、ここで離れるのを名残惜しむ事など出来るはずがなかった。

「厚志さん、いってらっしゃい」

「行ってくる」

「待ってるから……ずっと」

 手を振る美樹に見送られ、厚志は家を出た。簡易のバリケードの組まれた家の門には大量の感染者が押し掛けていて、厚志の存在を感じ取ったらしい最前列の者達が我先にと手を伸ばし始めた。

さすがにあの門から出る事は出来ない。ならばいつぞやに使った、隣の家に移動してから、目的地である駐車場に向かう方法を取るしかない。

「さ、行くか」

 自らに言い聞かせるように呟くと、厚志は隣の家に飛び移るために、塀に向かって歩み始めた。

誤字脱字などありましたら、ご報告いただければと思います。


あまりに時間が空いてしまったので、キャラがぶれているかもしれませんが、その際にはご報告いただければと思います。


本当にすいませんでした。これ以降はピッチを上げていきますので、温かい目で見守っていただければと思います。

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