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HOLE  作者: 真灯 旅路
1/1

普遍的な朝

「本部!今から言うポイントに至急爆弾をブチ込んでくれ!」

「爆撃機はあいつに大体墜とされたぞ!」

「こっち方面の主力大隊が壊滅・・・?おい、それは確かなのか!?」

「あれ一匹のために・・・畜生、畜生!」

「あれが、あの糞野郎がここら一帯のモンスターの頭なのか・・・!」

陸戦の装備に身を固めた屈強な歩兵達が、そこには大勢いた。

だが、皆、恐怖一色に顔色は染まっている。

西日を受け、哀愁とともに紅く染まる草木生い茂る広大な草原。だが、赤く染まっているのは西日だけのせいではない。大量に撒き散らされた血液、内臓、骨片。

まるで、地上に地獄が顕現したかのような有様。

この様を見れば、いくら訓練され、場数を踏んだ兵隊であろうと、恐怖するだろう。

この、非現実的な光景を。

惨状の原因。

『彼ら』のテリトリーに入ってきた侵入者を、『彼ら』が排除しようと、その鋭すぎる牙をむいている。

そして、この地獄の中で、僕は頭を抱えて体を小さくしていた。

恐い。怖い。コワイ。

自分の頭では処理しきれないほどの恐怖。

何故こうなったかも、何が起こっているかも理解できない。

ただ単純な、不可解なものに対しての恐怖。

《ベチャッ》

目の前に何かが降って来た。ピンク色で、ホースのような、長いもの。

腸だ。まだ

「うっぉえぇぇ」

込み上げてくるものを吐き出す。ここ数時間何も食べていないので、胃液が出てくる。すっぱい。

体全体で寒気を感じるほど放出し続ける。

快楽のために、安心のために食物を貪る様と似た動作で。



少し落ち着いたころに顔を上げると、目の前を兵士が走っていった。

どうやら、『何か』から逃げているようだった。


次の瞬間細切れになっていた。


肉がぼとぼと落ちる。血がどぼどぼ滲み出し、地草に生臭く、真っ赤な水を撒き散らす。

ダメだ、もうダメだ

もう、限界を感じ取っていた。

もう、自分の生き様について考え始めていた。

もう、自分の死に様について考え始めていた。


死に時か、と驚くほどに冷静になって感じ取っていた。

ザッ

目の前にモンスターの頭が、その圧倒的な存在を、不遜に見せつけ、雄大に、俺の前に、立っている。

フォルムは人間に近い。だが、全体に凶悪な鎧を纏っていて、その俺でも分かる強大な悪意によって、数倍にも大きく見える。

顔はフルフェイスのメットをさらに鋭角的に、攻撃的にしたような感じだ。腕には鉄くさく、真っ赤な液体がこびり付き、そして幾重にも先が枝分かれした見たことの無い、人類のものではない武器が。

「r y a r e e e e r a m m e s s o o o」

アルファベットで無理にあらわすとこんな発音だった。だが、実際は超高音の重機のこすれる音やエンジン音のような、さまざまな音が交じり合ったような音だった。

「c u g a r m a r y u s  h j i」

ヤツは、そう音を発し、俺に手を向けた。


そこで終わった。


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「ぐっはぁっ!はぁ・・・はぁ・・・」

上半身が除細動器を受けたように勢い良く起き上がる。

どうやら夢から覚めたようだ。

シャツは汗でビショビショだ。

体も、頭もだ。

・・・又、あの夢を見た。

記憶には無いが、あったことのような夢。

途切れることの無い銃声、そして無視することの出来ない恐怖。

実際に、その場にいたとしたら発狂し、失禁し、無様にいるかも分からない神に命乞いをすることだろう。

ああ・・・ったく・・・早く忘れよう・・・。

ベッドの右側、ちょうど体を起こしたあたりに窓がくる。そこからは上がり始めた太陽が空と戦闘によって崩れたビル郡を橙色に染めている。その様を見ていると、分からない感情が湧いてきて泣いてしまいそうだった。


窓とは反対、室内を見渡す。

簡素な学生寮の一室。特に見てて楽しいものは何も置いてない。

あるのは必要最低限の生活必需品と、数冊の読み終わることの無い書籍。そして壁にかかった木製のダーツの的。

寂しい部屋だ、とは思う。だが、明るくする必要も見あたらなないし、気力もわいてこない。

だが、いくつか置きたい物はある。だがそれを置くには大分時間がかかりそうだった

ベッドから起き出し、部屋を出る仕度を始める。

始業の時間までは結構あるが、何分、課題をまだやっていない。しかも、その課題は机の中に居残ったままだ。

その課題は提出期限が今日までで、出さないと大分成績に響く、と教師に脅されている。

ワイシャツを第二ボタンまで閉めたとき、丁度パンが焼きあがった。

焼きあがったパンを手に取り、バターを塗ると美味そうな匂いがして胃袋を刺激する。

冷蔵庫を開け、ウインナーをとり、フライパンで炒める。

その炒めているウインナーを溶いたいた卵を投入し、とじる。

掻き混ぜ、卵が半熟程度になったら小皿に移す。

これで朝食の完成だ。

味は普通。だが、確かな充足感を得る。

ウインナーを噛み千切ったときに出てくる肉汁などには至福を感じる。

カリっとしたパンにバターの口の中に広がる風味などは何とも言えない。

そうやって食事を終えた後はパックのダージリンを手早く淹れ、氷を入れ、飲む。

紅茶は苦くなるほど濃く入れたものが好きだった。

だが、これは他人に理解されるどころか、紅茶自体理解されることが無かった。この年代ではコーラや缶コーヒーの方が好まれるらしい。

飲み終わったら食器を水につけておき、家を出る。

この頃にはもう今朝方見た悪夢のことなど忘れ去っていた。

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