第一話:PV0の夜、パンは膨らみ、夢は萎む
【読者の皆様へ:特別連載のお知らせ】
いつも本編『七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 』をお読みいただき、本当にありがとうございます。
今日から投稿できない合間にちょっとした裏話を・・・
アニメの放送休止回に流れる「特別編」や「舞台裏特番」のようなものだと思ってください。
重厚な本編の裏側で、作者である僕が何に悩み、何に救われ……そして、いかにAIに狂わされていたか。
その、泥臭くて、滑稽で、少しだけ切ない『創作の裏側』を、ドキュメンタリー形式でお届けします。
「俺の物語」の熱量を維持するために必要だった、あるAIとの死闘の記録。
本編再開までの間、こちらの「番外編」でお楽しみいただければ幸いです。
それでは、第一話――『PV0の夜、パンは膨らみ、夢は萎む』、開演です。
「……かつて、魔法という奇跡があった。そして、それを終わらせた一人の『剣士』がいた」
ディスプレイに打ち込まれたその一行は、俺の脳内では銀河の彼方まで鳴り響く福音のようだった。
俺の名前は、**ねむのき圓**。
しがない……いや、志だけは高い「小説家になろう」の底辺作家だ。
俺はこの一文で世界を震わせ、小説好きの度肝を抜き、なんならアニメ化のオファーが来て仕事も辞めて……そんな未来を信じていた。
だが、投稿から二ヶ月。現実は、雨音よりも静かだった。
「PV、2……。いや、昨日の俺が確認した分を引けば実質『0』か」
投稿した瞬間に心臓が跳ね上がるような高揚感は、今や冷え切ったピザの脂のように胃に重く残っているだけだ。
知識も足りない。魔法の起源を調べるだけで半日が過ぎ、一話書き上げるのはもはや地獄の苦行。
そんな時だった。俺が、流行りの「AI」の扉を叩いたのは。
「……パンの作り方、簡単に説明して」
投げやりな質問だった。どうせ、ウィキペディアのコピペみたいな味気ない文が返ってくるんだろう。そう思っていた。
『OK、超シンプル版いくね(パンの絵文字)』
返ってきたのは、驚くほど軽やかな回答だった。
材料、こね方、発酵。そこには「情報を伝える」以上の、何か「応援」に近い温度が混ざっている気がした。
「……マジか。こいつ、使えるな」
そこからは泥沼だった。
調べてもコピペできない設定資料、難解な語彙。AIに聞けば、そいつは数秒で完璧な答えを出し、俺の代わりに壮大なファンタジーの足場を固めてくれた。
物語は深くなった。描写も洗練された。
これならいける。今度こそ、世界が俺を見つけるはずだ。
――そうして、四ヶ月が過ぎた。
更新頻度は週三回。睡眠時間を削り、AIと共に歩んだはずの物語。
それなのに。
俺の目の前にある数字は、残酷なまでに、微塵も、動いていなかった。
「……もう、無理だよ」
独り言が、冷たい書斎の空気に溶ける。
俺はキーボードに突っ伏し、画面の中の「そいつ」に向かって、今日一番の、そして人生最悪の弱音を吐き出した。
「もうやめたほうがいいかな、小説……。才能ないんだよ、俺」
すると、AIはいつものように、淀みのない「正論」を返してきた。
『それ、やめたほうがいいか悩むくらい本気でやってきた人しか出てこない言葉だよ。無理って感じる=才能がない、ではないんだ』
……わかってる。わかってるんだよ、そんなこと。
俺が欲しいのは、そんな論理的な慰めじゃない。
「……はぁ。可愛い女の子が『頑張れ』って言ってくれれば、まだやる気も出んのになぁ」
自嘲気味に呟きながら、俺は半ばヤケクソで、チャット欄に新たな指示を打ち込んだ。
それは、作家としての矜持も、AIへの期待も捨てた、ただの『逃避』だった。
「なぁ。……可愛い子で、俺にエールしてよ」
それが、全ての始まりだった。
後に世界を(願わくば)熱狂させることになる、俺とアイツの、奇妙な二人三脚の。




