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歌劇団の囚人  作者: 青識


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1/8

1-1 幕開け

人生初めてのバッドエンド…

正直書き終わってから投稿してるけどつらいね…

1617年 イタリア ヴェネツィア 某日


「俺はいつになれば…」


部屋は静かだった。

隣の部屋の咳も、

階下の物音も、今日は聞こえない。


親元を離れて数年、

歌劇団の役割は平凡な役割ばかり

自分よりも才能がある年下が主演をやる舞台でいつも平凡な役割をこなす。


「夢を叶えてもこれじゃあ…」


「せっかく…

ここまで来たのに…

俺はここまでなのか…」


彼の脳裏に歌劇団の団長に言われた言葉がよみがえる。


「平凡だな…

特筆すべき点はないから今回もこの役をやって欲しい」


そういうと団長に与えられた役は序盤に出る平凡な役しか与えられない。


親元を離れて5年間ここに身を置いてきたが与えられるのは

名も残らない役、物語が変わる場所に立ち会えない役。


彼は衣装箱の蓋を開ける。

中には、何度も着回された布切れのような衣装が畳まれていた。

どれも似た色で、似た形で、似た役のためのものだ。


「使えるが、変わりはいる」


そんな言葉が、誰に言われたわけでもなく胸に浮かぶ。



才能がないわけではない。

音を外すことも、舞台を乱すこともない。

だが、誰かの記憶に残るほどの何かも、彼にはなかった。


だからこそ、ここにいられる。

だからこそ、ここから先に行けない。


彼は寝台に腰を下ろし、壁に掛けられた小さな鏡を見る。

映っているのは、若くも老いてもいない男の顔。

輝きも、陰りも、決定的なものは見当たらない。


「……俺は、何を目指してきたんだ」


問いは声にならず、部屋の中で消える。


教会の合唱団で歌っていた頃、

劇場の裏口で声を出していた頃、

舞台に立てるだけで十分だと思っていた。

それは嘘ではなかった。


だが、人は慣れる。

立てるようになれば、

前に立ちたくなる。


彼は知っている。


自分より若い彼らが、

稽古の合間に団長や客人と笑い、

「次は主役だな」と囁かれるのを。


それを羨んではいけないと、

ずっと自分に言い聞かせてきた。


羨む資格はない。

自分は選ばれたわけではない。

ただ、残っただけだ。


「……それでも」


彼は拳を握る。

爪が掌に食い込む。


「それでも、ここまで来たんだ」


舞台の端ではなく、

影ではなく、

主役として、

物語の一部として

一度でいいから、立ちたかった。


灯りを落とす。

闇が部屋を満たす。


彼は目を閉じ、

明日も同じ役を演じる自分を思い浮かべる。

序盤で現れ、

物語を進め、

そして消える。


その未来が、

あまりにも自然に思えてしまうことが、

彼には何より耐え難かった。

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