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真一は結局、骨折やら打撲やらで入院を余儀なくされた。
なんの素養もないまま、犬神に体を使われていたのだから無理もない。いくら和彦とフォウが手加減していたからといっても、死ななかったのが奇跡といっていい。
「これを機に、この村からは引っ越すことにします」
さびしげな顔で洞口氏は言った。
「妻がこの村から逃げ出したかったというのが本心からだったと、ようやく納得ができました。ここにいても、村人の意識を変えることは難しいでしょう。
仕事のほうも都合がつきましたし、山間留学は、適応できなかったら元の学校へ戻ることになっているそうです。真一も、今度はちゃんと立ち直ってみせると言っています」
包帯だらけで病院のベツドに横たわっていても、真一の顔つきは以前と違っていた。見舞いにいった和彦もフォウも、すぐその変化に気付いた。
少し大人っぽくなっていた。
「ありがとう、フォウくん、和彦さん」
強いまなざしで、真一は言った。
「僕、わかったよ。僕の霊感なんか嘘っぱちだった。本物は、僕が考えてたよりもずっとずっと恐ろしいものだったんだ。そりゃあ、上手に使えばすごい力になるんだろうけれど……僕の母さんはそれが嫌で、封印しようとしてたんだもの。息子の僕だって、そんなものに頼っちゃいけない」
「えらいぞ、真一くん」
フォウが片手で真一の頭を撫でた。
そのフォウも、肩をやられた傷口は本人が言い張るよりも深く、まだ片腕を三角巾で吊ったままである。それを見るにつけ、恐ろしく不思議なあの体験を思い出し、自己嫌悪を感じる和彦である。
楽しい田舎への小旅行だなんて。
浮かれた気持ちでいたから、それが油断になってしまった。
「やだなあ、和彦さん」
考えていたら、フォウに脇腹を小突かれた。
「そんな悲壮な顔つきしてたら、真一くんに悪いじゃねえか。確かに大変な旅行にはなったけど、おかげで真一くんが立ち直ることができたんだぜ。洞口のじいさんにもいい報告ができるってもんだ」
「……君は前向きだなあ」
「それが俺の取り柄。だろ?」
あははとフォウは笑い、そっくり返りすぎたのが肩の傷に響いたらしく、今度はいててと呻いて体を折り曲げた。慌てて和彦がフォウを抱きとめ、真一も洞口氏も笑い出した。
ひとしきりおしゃべりをして、和彦とフォウは病室を出ることにした。
「あ、フォウくん」
ためらいながら、真一がフォウを呼び止めた。
「あのさ……僕、犬神に憑りつかれてたときの記憶って、ボンヤリしてるんだけど……ああのとき、もしかしてもしかしたら、ママの幽霊が……」
言いかけて、苦笑いと共に首を振る。
「そんなはずないよね。僕には霊感なんて、本当はなかったんだから」
「いや」
振り返ったフォウが、こりと笑って頷いてみせた。
「あれは、真一くんのママだったよ。それだけはホラ話じゃない。俺が保証する」
洞口氏が驚いて、フォウと息子の顔へ交互に視線を巡らせた。
真一の顔が、ぱっと輝いた。
「ありがとう……ありがとう!」
これが二人の、春の小旅行の顛末である。




