封印された名
魔導学園の門をくぐった瞬間、私は空気の重さを感じた。
それは魔力の圧ではない。
――偏見の重さだ。
私はノクス族。
この世界で最も忌み嫌われる民族。
かつて「心を操る魔法」で王国を混乱に陥れたとされ、今では魔導学園への入学すら禁じられている。
だが、私は入学した。
王国史上初のノクス族の魔導士候補として。
「ユナ・ノクス。君の魔力値は……王族を超えている」
入学試験の結果を見た魔導官の声が震えていた。
だが、彼の目には恐れしかなかった。
「だが、ノクス族の魔法は危険だ。心を読むなど、魔法の倫理に反する」
私は静かに答えた。
「読むんじゃない。聞くだけです。心の声を」
初めての授業。
貴族令嬢セリュナ・イグナスが、私に決闘を申し込んできた。
「ノクス族が王子に近づくなんて、身の程を知りなさい!」
彼女の炎剣が空を裂く。
私は詠唱を始める。
“Veritas cordis, audi me — Lux noctis, libera nomen meum.”
(心の真実よ、我を聞け — 夜の光よ、我が名を解き放て)
彼女の心の奥から、孤独と恐怖が溢れ出す。
炎が揺らぎ、剣が止まる。
「な、何を……私の心に……!」
私は静かに言った。
「あなたも、名前を隠してる。私と同じ」
その日から、学園の空気が変わった。
差別と偏見の中で、私は“境界を越える者”として歩き始める。
そして、王子――レオン・アルヴェンハルトが私に言った。
「君の魔法は、世界を変える力を持っている。僕と一緒に、境界を壊そう」
私はまだ、自分の真名を知らない。
でも、心の奥に確かに響いている。
この世界で、私は名を取り戻す。
封印された“ノクシア”として。