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9 エリシアの部屋

今回は少し短めです。続きはまた。

 ハルトヴィヒとの話し合いを終えたエリシアは、チェルシーと合流し、そのまま私室へと案内された。

 エリシアに用意された部屋は、静かな落ち着きと柔らかな夕暮れの光に包まれていた。

 窓辺には薄いレースのカーテンがそっと揺れ、外の庭園からの緑の陰影を映している。窓から望む庭園には、淡い空色と薄紫の花が咲いており、近くには白いガゼボが見える。あそこで本を読んだり、のんびりとお茶を楽しむのもいいかもしれない。そう思うと少しだけわくわくと胸が躍った。

 壁際の小さなテーブルには、白磁の水差しとグラスが置かれており、花瓶に挿されたライラックが静かに香っている。

 足元には深い藍色の絨毯が敷かれており、その縁にはさりげなく織り込まれた淡い金糸が、陽の光を受けてかすかにきらめいていた。

 部屋の中心には天蓋付きの寝台が据えられており、その隣には小さな机と椅子が置かれていた。


「エリシア様! 見てください! ドレスがこんなにたくさんっ!」


 チェルシーが私室から繋がる扉を開けると、そこには私室よりも少し狭い空間に一人では着られない量のドレスがずらりと並んでいた。


「しかもサイズもエリシア様にぴったりですよ?」

「え?」

「ドレスは持ってこなくていいと仰っていたのはこういうことだったんですね」


 なにぶん急だったため、必要最低限の荷物をまとめてきた。その際に、ドレスは公爵家で用意するからお気に入りのものや思い入れのあるものだけを持ってくるように言われていたのだ。

 エリシアはドレスにもアクセサリーにもそれほど興味はなかったので、義姉から送られてきたであろう未着用のドレスと母の遺品のアクセサリー、それから数冊の本だけを持ってきた。実に身軽だった。


「それに、エリシア様好みのシンプルなデザインのものが多いですね」


 確かに、大きなリボンやフリルがふんだんに使われているような今流行の華やかなドレスは見当たらない。どちらかといえばエリシアが好むようなシンプルなドレスが多い気がする。色合いは柔らかなものが多かったが、完全にエリシア好みのドレスだけにすると、紺一色になりうるので仕方ない。ドレスはチュールがふんだんに使われているものや、細かい刺繍が施されたものなど、シンプルでありながらこだわりを感じさせるものばかり並んでいた。衣装室にはドレスだけでなく、動きやすそうなワンピースもかけられている。

 これらすべてがエリシアのものなのか疑わしくなるほどの量だ。世のご令嬢方はこんなにもドレスを誂えるものなのか。


「すでにエリシア様の好みも把握されているなんて、さすがですね」

「た、たまたまでしょう……」


 これだけの量のドレスをエリシアのサイズに合わせて、昨日今日で揃えられるものなのか――――なんだかあまりにも用意周到すぎて怖さまである。


(いやいや、考えすぎでしょう……)


 もともと誰かのために作られたものを、急ごしらえで回されたのかもしれない。もしくは誰にでも合いそうな無難なドレスを備えていたのかもしれない。それがたまたまエリシアと同じサイズだったというだけだろう。そう考えれば、まだ納得できる。


 エリシアは部屋へ戻ると、寝台に腰を下ろし息を吐いた。


「夕食まで少しお休みになられますか?」

「……そうね。と言いたいところだけど」


 部屋の扉を叩く控えめな音がした。

 一人の侍女が姿を現すと、夕食の準備が整ったことを知らせてきた。


「参りましょう」


 エリシアはチェルシーを連れ、食堂へと向かった。

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