第83話 ジローのソロキャンプのんびり配信#622 【1/2】
「……えー、こんにちは」
”こんにちは”
”今日も安定の唐突配信”
”初めて最初から観れた”
「…………」
”なんで黙ってんの?”
”テンション低”
「んー。実はちょっと、話したいことがあるというか、話さなきゃいけないことがあるというか……。いや、話さなきゃならないってことはないか。とにかく、ちょっと……」
”まじでなにがあったんや”
”トラブル?”
”こんなジロー初めてみた”
”引退宣言とかじゃないよね?”
「ほら、この前、配信してる時に質問に答えようとして……。『オランダに出現した特殊ダンジョンについて、どう思いますか』って。でも俺、特殊ダンジョンのこと知らなくて」
”ああ、あったね”
”『特殊ダンジョンって?』の一言で終わったからな”
”ドン引きしたわ。地上であれだけ騒がれてたのに”
”ずっとダンジョンキャンプしてるんだからしゃーない”
”むしろそこがジローの良さや”
「でもずっと気になってて。地上に戻った時に、調べたり教えてもらったりして……。まさか、あんなことになってたなんて……。なんか、よくないなって。キャンプばっかして、地上が大変なことになってるのに、俺だけが知らなくて……」
”なんか意外。そういうの気にするんだ”
”今更やろ。いくらでもあったやん、そんなこと”
”それだけ凄惨な出来事だったってことじゃない?”
”ジローなら「あの魔獣うまそー!!!」くらい言いそうなのに”
”ジローをなんだと思ってるんや”
”ジローだと思ってる”
「……実は俺、ユリスと面識があるんですよね」
”え? まじ?”
”初耳”
”だからそんな落ち込んでるんか”
「って言っても、かなり昔の話だけど。ユリスは幼くて、ほんの短い期間のことだから。たぶん向こうは、俺のことなんて覚えてもいないだろうけど。」
”いや、たぶん覚えてるぞ”
”てか忘れたくても忘れられんやろ、こんな奴”
「でも俺は、ニュースなんかでユリスのこと、ちょこちょこ見てて。ほら、二年前……。いや、もうすぐ三年になるのかな。覚えてる人も多いと思うけど、オランダのダンジョンパークで、無差別テロ事件が起きたじゃないですか。ダンジョンエラーを起こす目的で、人を殺したって言う」
”覚えてる”
”冒険者たちが真っ先に逃げたやつやろ?”
”オランダ人は体がでかいくせに臆病者、とか散々言われてたよな”
”でも結局、誰も死ななかったんじゃなかったっけ? うろ覚えだけど”
「たぶん日本で同じ事件が起きたら、その場に居合わせた冒険者が協力して、対処すると思うんですよ。でもオランダは、ほら、ダンジョンの制度が特殊じゃないですか。管理局が存在して、ダンジョンを掌握してる。だからオランダの冒険者は『こういうトラブルに対処するのは管理局の仕事だ』って考えたみたいで」
”ああ、そういう理由なんだ”
”そういう国民性なんだと思ってたわ”
「日本でも他の国でも、ダンジョンは冒険者のテリトリーだって意識が強い。だからトラブルが起きたら、真っ先に動く。でもオランダの冒険者は、管理局があるせいで、その意識が低いんだと思うんですよ。自分たちのテリトリーだっていう。……聞いた話なんだけど、『冒険者が戦わずに逃げた』って事実だけで、背景もろくに見ずに叩く人が結構いたみたいで。そういうの、よくないよなって。あれはどう考えても、制度の問題だから。日本も同じ制度だったら、きっと同じことになるだろうし」
”……ぐうの音もでん”
”すみません、反省します……”
「話がそれちゃった。とにかく、かなり危険な状況だったみたいで。観光客がたくさんいて、居合わせた冒険者も、一緒に逃げ出して。でもほら、ゲートって、そんな大人数が一気に通れるようなものじゃないでしょ? ゲート付近に人が鮨詰めになって、そこにモンスターの群れが迫って来てて」
”え、やばいやん”
”なんかイメージと違う”
”大したことなかったんじゃないの?”
”冒険者が真っ先に逃げた、って印象しか残ってないわ”
「でもね、その場にはユリスもいたんですよ。学校のフィールドワーク中だったらしくて。それで……。当時まだ十五歳だったユリスが、たった一人で魔物の群れの前に立ち塞がったんです。全員の避難が済むまで時間を稼いで……。命を落としたのは、無差別に殺された最初の一人だけだった。怪我人は大勢いたけど、一番大怪我をしたのはユリス本人で……。彼は守り抜いたんです。……本当に、すごい子だよ」
”やば。下手したらラストヘイブンと同じレベルの惨劇になってたやん”
”ちょっと待って。なんでそんな話が知られてないの?”
”海外だと有名な話だよ。調べれば普通に出てくるし”
”そうじゃなくて、なんで日本で知られてないのって”
”未成年で、しかもユリス本人が表に出ることを拒んだからな”
”それが?”
”日本のメディアは、顔のない英雄を讃えるよりも、逃げ出した冒険者を叩いた方が、数字が稼げるって判断したんやろ”
”安定のマスゴミ”
”でも実際、めちゃくちゃ盛り上がってたからな。オランダ人叩きで”
”日本人の民度、下がりすぎじゃない?”
”叩きたいだけのやつはマジで増えたよな”
”ネットが普及して、日本人の陰湿さが表に出るようになっただけ、って誰かが言ってたな。悔しいけど、なんか納得しちゃったの覚えてるわ”
「ユリスのことが心配で、大怪我したっていうから。だから連絡しようとしたんだけど……。世界中から取材の申し込みが殺到してるとかで、取り次いでもらえなくてさ。そうこうしてるうちに、当時の最年少Sランク冒険者に認定されたりして……。それで、連絡できなくなっちゃったんですよね。……ほら、そういうのってウザがられるって言うじゃないですか。有名になった途端、擦り寄ってくる昔の知り合い、みたいな。無事ならそれでいっかって、自分に言い訳して……」
”ユリスはジラーだって噂あったけど、そういうことだったんだ”
”でもユリスも、ジローと面識があるなんて話、したことないよね? 俺が知らないだけ?”
”向こうも同じように考えてたんじゃないの。『俺のことなんて覚えてるわけない』って”
「……ウザがられてもいいから、連絡しておけばよかったな。彼ともう一度、話がしたかった」
”つら”
”なんなんお前ら……。すれ違いすぎだろ……”
”ちょっと母ちゃんに連絡してくる”
”俺も次の休み、久々に実家帰ろ”
”明日も話せる保証なんて、どこにもないもんな”




