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第81話 世界観

 レオン、そしてトーマス。

 抜けた穴はあまりにも大きい。


 ユリスが半歩、前に出た。


「……わかってるよな」


 ユリスの問いかけに、二人が頷く。

 そしてユリスの背後に、それぞれが半身を隠すように配置する。


 トーマスの重厚な盾と鎧を、一撃で穿つ相手なのだ。

 ヤンが機転を効かせて武器を持たせたが、それでもまともに攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。

 相手の攻撃は、(かわ)すか受け流すしかない。


 その技量を持つのは、ユリスだけだ。

 それをこの場の全員が理解している。

 ユリスが相手の攻撃を受け流し、できた隙に二人が攻撃を加える。


 相談することもなく、彼らはその考えを共有していた。

 一流の冒険者の、以心伝心……。


(……そう言えたら、どんなにいいか)


 確かにそれもあるだろうけれど、実情は違う。

 退路を絶たれ、戦力を削られた。

 ただ、他に選択肢がないだけだ。


 でも絶望はしない。

 異形の神の一挙手一投足に注意を払う。

 戦略上、どうしても後の先にならざるを得ないのだ。


 三人ともが、浅く早い呼吸を繰り返す。

 そのリズムが、自然と同期していく。

 そうやって、集中力を研ぎ澄ませていった。


 だけど、そんな彼らを嘲笑(あざわら)うように——

 異形の神は、くるりと体を反転させた。


「……は?」


 誰ともなく、気の抜けた声を出す。

 異形の神はスタスタと三人から遠ざかっていった。


「なにして……」


 ユリスが呟くと同時に、相手の意図を悟る。

 すっと背筋が凍った。


 他のメンバーたちは、それぞれが物陰に身を潜めていた。

 それはなにも、臆病風に吹かれてのことではない。

 彼らも一流の冒険者たちだ。

 覚悟を持ってこの戦いに臨んでいる。


 ただ最初から決められていたのだ。

 もともと十三人という大所帯は、ボスが大型だったり複数体いた時を想定してのものだ。

 相手によっては、ユリスたちを残して、自分たちだけが撤退する状況すら視野に入れていた。


 でも退路が絶たれてしまった今……。

 彼らにできるのは、ユリスたちの足を引っ張らないように立ち回ることだけだった。

 物陰に潜み、状況次第では、いつでも盾にも捨て駒にもなる覚悟を持って——


 そんな彼らの一人を、異形の神は——

 まるで岩陰に潜む魚を(もり)で突くように、パルチザンで貫いた。


 絶叫が神殿を埋め尽くす。

 それは街路の騎士団の——ヤンの部下だった。


「テメェ!」


 ヤンが駆け出す。


「待て!」


 ユリスの制止を振り切り、ヤンは異形の神に斬りかかろうとする。

 だが……。


 異形の神は迎え撃つどころか、ぴょんぴょんとスキップでもするように逃げていった。

 そして柱を駆け上り、天井にしがみつく。

 腹を貫かれたヤンの部下もまた——

 悲痛な叫び声と共に、蛇口を捻ったように血がビチャビチャと滴る。


 なぜ、腹部を貫いたのか。

 なぜ頭や首、胸などの急所じゃなかったのか。

 故意か、偶然か——

 その答えは、その後の行動で、すぐに判明する。


 異形の神は、まるで虫の羽をちぎるように、ヤンの部下の手足を一本ずつもいでいったのだ。

 ユリスたちの手が届かない、天井に張り付いたまま。

 虫かごを上から覗き込み、命を弄ぶ子供のように。


「あぁあああ! ヤンさん!」


 悲痛な声。

 でもユリスたちには、どうすることもできなくて……。

 異形の神は、最後に胴体を引き裂いて、血と臓腑の雨を撒き散らした。


「……なんなんだ、あれは」


 ユリスはポツリと漏らす。

 凶暴な魔物は、いくらでもいる。

 強大な魔物だって、いくらでもいる。


 でも、奴は違う。

 凶暴や強大なんて言葉じゃ言い表せない。

 奴は——

 明らかに悪意を持っている。


 邪悪。


 そんな言葉が頭に浮かんだ。

 これまで多くの魔物と対峙してきたが、そんな感想を抱くのは初めてだ。


「あんなのが、いていいのかよ……」


 震えるヤンの声。

 それは怒りからくるものか、あるいは恐れからくるものか。


 あまりにも、違いすぎる。

 これまでのダンジョンと、()()()そのものが——

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