第80話 ある配信者から学んだ戦法
「うおぁあああ!」
ヤンが雄叫びを上げながら、異形の神に襲いかかった。
まるで子供のチャンバラみたいに、パルチザンを振り回す。
まるで届いておらず、ブンブンと威勢のいい風切り音だけがする。
ヤンはユリスに一瞥をくれてから、大きく踏み込んだ。
「オラァ!」
全体重を乗せた一撃は、柄を片手で掴まれ、簡単に防がれてしまう。
異形の神は、空いているもう片方の手でヤンを貫こうとする。
だが、それはユリスがさせなかった。
アイコンタクトに応え、とっくに動き出していたのだ。
異形の神に斬り掛かり、回避動作を取らせることで、ヤンへの追撃を阻止する。
ヤンは掴まれたパルチザンを取り返そうとしたが、力負けをして、逆に異形の神に振り回されてしまう。
柄から手を離し、ヤンは素っ飛んだ。
猫のように空中でくるりと回転したが、自由落下中は無防備だ。
しかも武器を手放してしまっている。
絶体絶命ともいえる状況だが、彼には仲間がいる。
エスターが神速とも思える踏み込みで、異形の神との距離を瞬時に潰す。
そしてレイピアで、その喉元を貫こうとした。
異形の神は攻撃をかわし、パルチザンを奪ったように、レイピアも掴もうとする。
しかしその時には、エスターはバックステップですでに距離を取っていた。
「エスターさん!」
ユリスは焦る。
レオンを失い、トーマスが自分をかばって命を落としたのだ。
エスターが我を忘れているのでは、と危惧したのだ。
「あまり無茶は……」
でもエスターは、ユリスに向けて、すっと片手をあげる。
「大丈夫よ。私は冷静だから」
血走った目。
奥歯をギリギリと噛み締めて、必死に怒りを押し留めているのがわかる。
「よくもレオンを……。よくもトーマスを……」
ぶつぶつと呟きながらも、暴走して先走ることはしない。
「強いな、エスターさんは」
ユリスは改めて、仲間の頼もしさを知る。
「……あなたこそ」
「え?」
「すごい形相してるわよ、あなた」
パキッ——
小枝が折れるような音がする。
それが、自分の奥歯が砕けた音だと、気づくまでに少し時間がかかった。
でも全く痛みは感じなかった。
あるのはただ、無意識のうちに押し殺していた、臓腑を焼く怒りだけ。
「落ち着きなさいよ」
「……わかってる」
お互いが、お互いのストッパーとして作用する。
その間にも、着地したヤンが駆けてきて、二人と合流した。
「ヤン! なにやってるのよ!」
エスターが弟を叱るような声で言う。
「あんなみっともない攻撃……」
「わかってるよ、言われなくても」
「なにがわかってるよ。むざむざ武器まで取られちゃって」
「だからわかってるって。てかそれが狙いだったんだよ」
「はぁ? なによその言い訳……」
異形の神は、鹵獲した武器に興味津々だった。
肩口に一つ増えて、計九つの目で、パルチザンをまじまじと見つめている。
その様子に、ユリスは理解した。
「……頭、いいな」
ヤンがにやっと笑った。
「だろ?」
エスターが眉をひそめる。
「どういうこと?」
「奴はどう考えても、素手の方が危険だ。慣れない武器を使ってくれた方が戦いやすい。だからヤンは、わざと武器を奪わせたんだ」
「さすがユリス、わかってるねぇ。わざわざ目の前でブンブン振り回して、『こう使うんだぞ』ってレクチャーまでしてやったんだ。親切だろ?」
エスターが呆れたような顔になる。
「あなた、よく咄嗟にそんなこと思いつくわね……」
「もっと褒めていいぞ。……って言いたいとこだけど、実はジローの配信で観たんだよ」
ユリスが目を見開く。
「あの人が、そんな戦法を使ったのか?」
これまで観てきた配信を、頭の中で参照してみたが、そんな場面はなかった気がする。
「逆だよ」
「逆?」
「ジローが言ってたんだ。『素手だと力加減が難しくて、襲ってきた魔物を無闇に殺しちゃう。だからダンジョンに潜ったら、まず武器を探す』ってよ」
ユリスは苦笑した。
「あったな。武装した方が弱体化するって、マジでなんなんだよ、あの人」
「マジそれな」
ヤンも声を殺して笑った。
エスターがそんな二人に、咎めるような視線を向ける。
「あなたたち、こんな時になに笑ってんのよ」
「仕方ないじゃないか。あの怪物が、パルチザンに興味津々なんだから」
「そうそう、ユリスの言う通りだ。今下手に動いたら、せっかく興味を持った武器を手放しちまうかもしれないだろ」
「だからって、談笑するのは違うでしょ」
「それは、まぁ……」
「その通りだな」
「これだから男子は……」
エスターがため息をつく。
「お、見ろよ。気に入ったみたいだぞ」
ヤンが異形の神を、顎で示した。
「……化け物にも『いい感じの棒』って通じるんだな」とユリスが言う。
まるで下校中の小学生みたいに、パルチザンを振り回している。
心なしか、楽しそうだ。
「あれはきっとオスね……。性別があるならだけど」
エスターが、呆れ口調でそんなことを言った。
「配信を観てる連中は、俺が無様な攻撃を仕掛けて、武器をまんまと奪われたって思ってんだろうな。短絡的なアホどものコメントが目に浮かぶわ」
「凱旋インタビューで、全員の鼻を明かしてやればいいのよ」
「そうだな。そのためにも、生きて帰らねえと」
「二人とも、雑談してる場合じゃないぞ。気を引き締めろ」
ユリスが嗜 めると、ヤンが笑い、エスターに横目で睨まれた。
「おっさん……」
ヤンが低い声で言った。
「悪いな。武器、借りるぞ」
そしてトーマスの背から、長剣を引き抜いた。
力を入れて書いているせいで、隔日更新になってしまっております。
申し訳ありません。




