第76話 サムライソード
それから三日後。
ヘンドリックに連れられて、円卓の守護者の面々は、倉庫にまで足を運ぶ。
多種多様な武器がずらっと並んでいた。
「すげぇ!」
「この中から好きなの選んでいいの!?」
ヤンとエスターが子供みたいにはしゃぐ。
「支援を申し出てくださった国がいくつもありまして」
「ハハッ! 醜態晒して世界の注目を集めたおかげだな。管理局が初めて役に立ったんじゃねえの?」
「……返す言葉もございません」
ヘンドリックは項垂れる。
「あの、一応レンタルという形なので、丁寧に……。戦闘中の破損などに関しては、賠償する必要はありませんが、それ以外は……」
その言葉は、二人の耳に届いていない様子だ。
武器は基本的に、ダンジョンから産出されたものがほとんどだ。
ダンジョンで取れた鉱石を加工したものもあるが、まだ加工技術が未発達で試作品の域を出ない。
値段の割には、性能が良くなかった。
当然、深層階で手に入るアイテムの方が希少かつ良質だ。
つまりダンジョン攻略が遅れている上に、管理局が美味しいとこを奪っていくオランダでは、質のいい武器があまり出回っていなかった。
トップ層の冒険者は、わざわざ他所の国から武器を購入している始末だ。
それだって中古品や二級品……。
でもここにずらっと並ぶのは、一級品の武器ばかり。
二人がはしゃぐのもわかるというものだ。
ユリスだって、少なからず興奮しているのだから。
でも二人のように目移りすることなく、倉庫の一角に真っ直ぐ向かう。
そこには日本からの支援品が並んでいた。
ユリスは日本刀を手に取る。
「よぉ、またサムライソードか? 相変わらずだな、ワパニーズ」
ヤンが肩に腕を回してくる。
「本当に好きねぇ。アニメオタクってわけでもないのに」
エスターまで興味深そうに覗き込んでくる。
「いいだろ、別に」
ユリスは末っ子のような不貞腐れ方をする。
この辺りは年相応だ。
「でも確かに、日本産の武器はありだな」
世界で最も攻略が進んでいるのが日本だ。
つまりアイテムの質も世界一ということになる。
それにアニメ大国だけあって、世界中の武器が産出される。
オランダだと、ヨーロッパ圏のメジャーな武器がほとんど。
なんなら攻略が遅れているオランダよりも、日本の方が質もバリエーション豊かだった。
多少、魔改造されているきらいはあるが……。
それだって、一部の歴史好きや愛国主義者を除き、現代人にとっては気にならなかった。
大事なのは性能だ。
厳密な定義に縛られる自国よりも、魔改造の余地がある他国の方が、品質がいいなんて皮肉な話だ。
その理屈でいくと、日本刀も魔改造された外国産の方が品質がいいはずなのだが……。
これだけは例外だった。
理由はシンプル。
日本刀は魔改造の余地がない完璧な武器なのだ。
厳密な定義に則った方が、品質が良くなるのは必然と言ってもいい。
ユリスが日本刀を好む理由の一つが、そこにあった。
「よっしゃ。俺もこの中から選ぶか」
「私もそうしよっと」
二人が日本から送られてきた武器を物色し始めると、
「あの……」
とヘンドリックが申し訳なさそうに割って入ってくる。
「できれば、その、色々な国から満遍なく選んでいただけると……」
「なんでだよ」
ヤンが不審そうに尋ねる。
「せっかく支援していただいたので……」
「だから、ありがたく使わせてもらうんだろ」
「それはそうなのですが、偏るのはちょっと……」
「どういうことだよ」
煮え切らない返答に、ヤンは苛立った様子だ。
答えたのは、トーマスだった。
「どこの国も、攻略に一枚噛みたいんだろ。きっと国同士で、あれこれ取り決めがなされてるんだ」
軍人として、世界の嫌なところを見てきたのだろう。
その言葉には重みがあった。
こうしてずらっと並んだ武器も、決して善意からのものではないのだ。
一部の例外を除けば、ダンジョンはゲートがある国の所有物だ。
不思議なことに、これまで国境付近にゲートが出現したことはなく、ダンジョンの所有権で国同士が争ったことは一度もなかった。
当然、特殊ダンジョンはオランダのもので、そこからどれだけの利益が得られるかは未知数だった。
ダンジョンは危険に満ちている。
それは間違いない。
でも理不尽だったことは一度もなかった。
むしろこれまで、どれだけ人類に益をもたらしたことか。
希少なアイテムが手に入る、なんて単純な話だけではない。
地球上の限られた資源を巡って争うよりも、ダンジョンを攻略した方がよっぽど有益なのだ。
宗教戦争だけは根強く残っているが、それでも格段に平和になって、開発による自然破壊も改善された。
特殊ダンジョンに怯えているのは、前線に立つ者たちだけで、上層部はむしろ胸を躍らせていた。
この得体の知れないダンジョンが、どれほどの恵みをもたらすのか。
場合によっては国際情勢にさえ影響を与える。
管理局が円卓の守護者に攻略を急がせる一番の理由は、そこにあった。
自由攻略の特権を与えるのだって、お釣りが来ると算段してのことだ。
しらっとした空気が流れる。
プライドの高い連中だ。
感情をあまり表に出さないトーマスでさえ、いい顔をしていない。
国の都合に振り回されることを、よしとするわけがなかった。
一人を除いて。
「別にいいさ」
鞘から刀を引き抜く。
その刀身に自分の顔を反射させながら、ユリスは言う。
「ならこっちはこっちで、その思惑を利用させてもらうだけだから」
その言葉で、下がりかけていた士気が戻る。
ユリスはこのパーティーのリーダーだ。
彼がそう言うなら、誰にも異存はなかった。




