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第75話 特権

「まあ、みんなももう、ヘンドリックさんから聞いてると思うけど」


 ユリスは、そう切り出したのだが……。


「まだなんも聞いてねえよ」

「ええ。ユリスから話があるって呼び出されただけで」


 ヤンとエスターが言う。

 トーマスも頷いていた。


「……そうなの?」


 振り返ると、ヘンドリックはわたわたと慌てだす。


「個別に説明するより、そちらの方がいいかなと……」

「俺から話がある、ってことになってるのは?」

「そう言った方が、皆様が予定を空けてくださると思って……」


 ……まあ、わかるが。

 でもそういう効率重視なことをされると、微妙な気持ちになってしまう。


(やっぱ演技なんじゃないのか、このオドオドした態度は……)


 そう勘繰ってしまう。


「でも、予想はついてるけどな」


 ヤンがニヤニヤと言う。

 当然と言えば当然だ。

 ここ最近、国内だけじゃなく世界中で、その話題で持ちきりなのだから。


「あの()()()()()()()、だろ?」


 ユリスはため息と共に頷く。


「本当に、気が重い話だ」

「なんでだよ」

「あのダンジョンがどれほど異常か、わかるだろ」

「だからこそ面白いんじゃねえか」


 スリルを求めて冒険者になった男だ。

 話が通じるわけもない。


「これに関しては、不本意だけど私もヤンに同意ね」


 不本意もなにも、結構な頻度でヤンに同意するエスターだが……。

 本人は本気でそう思っているみたいなので、特に指摘はしないでおく。


「意外だな。お前は反対すると思ったけど」

「勘違いしないでよね。あんたみたいな馬鹿な理由じゃないから」

「あぁ?」

「なによ?」


 すぐに揉め始める二人。


「どういうこと? エスターさん」


 厄介なことになる前に、ユリスが割って入った。


「気に入らないからよ」

「なにが?」

「世界中で笑いものにされてる現状がよ」


 エスターの声が高くなる。


「他国の人間は、管理局の存在なんて気にもしてない。管理官と冒険者は、同じようなものだと思ってる。管理官が笑われる分には、ざまぁとしか思わないけど、私たち冒険者まで臆病者扱いされるのは、たまったもんじゃないわ」

「確かに、オランダ人は体がでかいくせに肝っ玉は小さい、みたいに言われてますよね……」


 ヘンドリックが火に油を注ぐ。


「へぇ……」


 ヤンの声が低くなる。


「そりゃ知らなかった。確かに気に入らねえな。おっさんもそう思うだろ?」


 ヤンがトーマスに話を振った。


「興味がない。私は命令に従うだけだ」

「あんた、本当に面白くないな」

「常につまらんお前よりはマシだ」

「あ?」


 ユリスはひらひらと手を振って、二人を宥める。

 なぜこいつらは、隙あらば喧嘩しようとするのか。


「にしても、俺たちに話を持ってくるのが早すぎませんか?」

「と、言いますと?」

「もっとやれることがあるでしょ。ボスと戦わなくても、調査くらいはできる。扉を開けて中を覗いて、すぐ逃げ帰ってもいいし、隙間からドローンを放り込んでもいい」


 すぐにボスに撃墜されてしまうが、それでも内部の様子が多少なりともわかる。

 実際、よほど自信がない限りは、そうやって情報を集めてからボス戦に挑むのが普通だ。


「というか、わざわざ戦う必要がありますか? ダンジョンが出現したからって、攻略しなきゃいけない決まりなんてないんだし。あんな得体の知れないダンジョン、放っておけばいいじゃないですか」

「それは……」


 ヘンドリックは、もごもごと言い辛そうだ。


「つまり、その……。エスターさんの言葉が、そのまま……」

「私?」


 エスターが意外そうに、自分の顔を指差した。


「はい。二度も醜態を晒して、世界中から注目されてしまっているのです。だから、これ以上は……」


 ユリスは嘆息する。


「つまり、管理局の尻拭いをしろと」

「……誠に申し訳ありません」


 注目が集まっているうちに、特殊ダンジョンをバシッと攻略してみせて、落ちたイメージを回復する。

 管理局はそれを狙っているのだ。


「なんだよ、それ」


 ヤンの声に怒気が混じる。


「やる気が失せた。なんで俺たちが、管理局の都合で動かなきゃいけねえんだよ」

「全く同意見だわ。いつも美味しいとこだけ奪っておきながら、危険だけは押し付けようって? ふざけんじゃないわよ」

「…………」


 エスターも憤懣やる方ないといった様子だ。

 トーマスも、無言ながら快く思っていないのは明白だ。


 ヘンドリックは、助けを求めるようにユリスを見る。

 だが……。


「俺も皆んなと同じ思いですよ。百歩譲って、そっちでやれることを全部やってから、話を持ち込んでくるならわかる。でもこの段階で俺たちを頼るのは、あまりにも身勝手だ」


 もちろん管理局の思惑も、理解できないわけではない。

 すでに世界中から注目されている状況で、ちまちま調査なんてしていたら、恥の上塗りになってしまう。

 それよりも出来るだけ早く攻略隊を派遣し、特殊ダンジョンをクリアしてしまいたい。

 そう考えるのは無理からぬ話だ。


 それにこれは、信頼の証でもあった。

 ユリスたちがボス戦に挑み、無様に敗走する様が全世界に配信されれば、それこそ国の威信にかかわる。

 つまり……。

 管理局はユリスたちの安全など二の次だと考えているのではなく、円卓の守護者ならきっとなんとかしてくれると、本気でそう思っているのだ。


(それはわかるんだけどな……)


 ユリスは最近の若者らしく、国への帰属意識は低かった。

 それでも自国が嘲笑の的にされて、不愉快な思いをしているのは事実だ。

 だけど、それ以上に……。


(担ぎ上げられたとはいえ、俺はこのパーティーのリーダーだ。国の威信よりも、みんなの安全の方が、よっぽど大事だ)


 そう考え、きっぱりと依頼を断ろうと口を開きかけた時、


「もちろん、タダではありません」


 とヘンドリックが言った。

 なんだか、ものすごく嫌な予感がする。


「いくら金を積まれたところで——」

「いや、お金ではありません」


 ヤンの言葉を遮り、ヘンドリックは続ける。


「特権です」

「特権?」

「はい。自由攻略の」


 ガタリと、大きな音がする。

 ヤンとエスターが、勢いよく立ち上がったせいだ。


「マジか!?」

「はい。管理局は、お三方のギルドに自由攻略の権限を与えると」

「嘘でしょ!?」


 エスターが叫ぶ。

 それはオランダの冒険者にとって、決して無視できない話だった。

 遊び場の大半を中学生に占領されている小学生のような気持ちを、ずっと味わわされてきたのだ。

 特に三人のように大きなギルドを運営する者にとって、それは死活問題でもあった。


「おい、わかってんのか? それがどういう意味か。あとでやっぱなしなんてことになったら……」

「もちろん承知しております。こうして、契約書も用意して」

「寄越しなさい!」

「どうせ小さい字で、期間限定とか書いてんだろ?」

「決してそんなことは」


 わいわいと盛り上がる。

 そして……。


「乗った! そういうことなら俺たちに任せろ!」

「ええ! 国家権力級とまで呼ばれる私たちの手にかかれば、あんなヘンテコなダンジョン、チョチョイのチョイで攻略してあげるわ!」


 ユリスの頭越しに、勝手に話が進んでいった。


「いや、あの……」


 二人が興奮するのはわかる。

 得られるものが、あまりにも大きいからだ。

 危険を犯すだけの価値が、そこにはあった。

 でも……。


「俺のメリットは……」


 大きなギルドを運営しているという点では、トーマスも同じはずだ。

 でも二人と違って、トーマスは冷静だった。


「黙らせますか?」


 そう尋ねてくる。


「……いや、いいよ、もう」


 こういうことには慣れっこだった。

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