第69話 UDの狙い
「めちゃくちゃ立派なシェルターですね……」
「アマンダはああ見えて、意外と心配性だからな」
「心配性なのに、ダンジョンに別荘なんて建てたんですか?」
「いくらあいつが強くても、守れるもんには限りがあるだろ」
「……なるほど」
自分の心配ではないということか。
(やっぱり、悪い人じゃないのかな)
私はキャスパー博士から、シェルターの使い方を教えてもらう。
といっても、そう難しいものではなかった。
構造的には、かなり原始的なものだ。
ただひたすら頑丈さだけを追求している。
それができるのは、ダンジョンの希少なアイテムをふんだんに使っているおかげだ。
それと『ネットには繋がらないけど配信はできる』というダンジョンの特性も活かしていた。
どれだけ分厚い合金に覆われていても、配信は問題なくできるみたいなのだ。
配信端末が常備されていて、いつでも助けを呼べるようになっていた。
(多分ギンも、ここの端末を使って、地上と連絡を取ったんだろうな)
説明自体は、ものの十分で終わった。
「ありがとうございます。じゃあ、戻りましょうか」
「まあ、待てよ。お前とはちょっと、話してみたいと思ってたんだ」
「え?」
「あのダンジョンエラーについて、どう思う?」
「いやそういうのは、みんながいるところで話した方が……」
「他は全員、戦闘屋だろうが。技術屋のお前と、専門的な話がしたいんだよ」
吐き捨てるように言って、キャスパー博士が歩き出す。
私はその後に付いて行った。
私としても、キャスパー博士と話せるのは嬉しい。
学会では色物扱いされているらしいが、それでもダンジョン研究の第一人者だ。
そんな彼女と専門的な話ができるなんて、願ってもないことだ。
別荘の中を散策しつつ、私たちはダンジョン談義に花を咲かせる。
深階層に見られる遺跡——いわゆるダンジョン文明についての所見には、知的興奮が止まらなかった。
豪邸とはいえ、十数分もあれば一周してしまう。
結局私たちは、二階の廊下で立ち話をした。
広間にいるみんなのことなんて、頭の片隅に追いやられていた。
そんな時だ——
窓の外。
湖岸を歩く二つの人影。
アンリとギンだ。
どうして二人が湖岸を歩いているのか?
アンリはトイレに立ち、ギンは広間にいたはずなのに。
私はキャスパー博士を見る。
表情に変化はない。
でもその無表情の向こうに、彼女たちの——UDの狙いを見る。
(最初から、私たちを分断するのが——)
きっと私たちが広間を出た後、ギンもそれに続いたのだろう。
そしてトイレから戻ってきたアンリに話しかけて、連れ立って外に出たのだ。
広間にはギンがいるし、アンリもすぐに戻ってくる——
私がそう思ったのと同じことを、アンリもきっと考えたのだ。
「アンリー!」
私は窓に飛びつき、声の限り叫んだ。
「今、お兄さんとアマンダさんが二人きり!」
私の声を聞き、アンリがバッと動き出す。
でも……。
その眼前に、ギンが立ちはだかり——
ゴリラにぶん投げられたチワワみたいに、くるくると回転しながら、ギンが窓の外を横切っていく。
(断末魔の叫びにも、ドップラー効果ってあるんだ……)
お兄さんのことになると、本当に容赦がない。
もちろんギンならあの程度、平気って計算してのことだろうけど。
……たぶん。
あっちは問題なさそうだ。
でも、私の前には、当然……。
「……どいてください、博士」
「無理な相談だな」
「今がどんな状況か、わかってるでしょ? いつまた、ダンジョンエラーが起きるかわからないのに……」
「私もそう思うよ」
「だったら……」
「仕方ないだろ。あんなのでも、ボスはボスだ。命令には従わなきゃならん」
キャスパー博士が、不敵に笑う。
「ここを通りたいなら、私を倒して行くんだな」
倒すまでもない。
「もう。本当に、遊んでる暇はないんですから」
私の身体能力は、常人のそれだ。
でも身長は一七五センチあるし、常人の中では腕力もある方だ。
少なくとも、小柄なキャスパー博士に力負けはしない。
「ふぐぃぎぎぎぎっ」
博士が私の胴体にしがみつき、顔を真っ赤にしながら引き止めようとしていたが、振り解くのも面倒で、そのままずるずると引きずっていく。
(お兄さん……。どうか、無事でいて)
明けましておめでとうございます!
今年も一年、コツコツと可能な限り毎日更新して行きますので、よろしくお願いいたします!




