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第67話 ルヴェストラ

 .44マグナムで撃たれた時の衝撃を思い出した。

 .38スペシャルは大したことなかったけれど、44はマジでやばかった。


(——速い)


 暗闇のせいもあるだろうけれど、アマンダさんの姿を見失う。

 その直後、ドガンと体に衝撃があった。

 本当に一瞬、銃で撃たれたのだと思った。


 それがタックルだと気づいた時には、俺はアマンダさんに組み伏せられていた。

 慌てて逃れようとしたけれど、簡単に押さえ込まれてしまう。


(これが人間の力か?)


 いや、単純な力だけではない。

 柔術か、あるいは合気道か。

 アマンダさんは、力の扱い方に()けていた。


 俺には格闘技経験がない。

 ダンジョンに長いこと潜っているから、戦闘経験はそこそこ積んでいるつもりだった。

 でもそれは、対モンスターの話だ。


 対人。

 それもアマンダさんのように、力と技術を兼ね備えた強者を相手にする術を、俺は心得ていなかった。

 打撃ならまだしも、寝技ともなると、お手上げだ。


 蛇が獲物に絡みつくように、するすると——

 あっという間に、マウントポジションを取られてしまう。

 格闘技経験がなくても、これが不利な状況だということくらいはわかる。


 でも逆の考え方もできた。

 たとえ相手が圧倒的に有利だったとしても、安定した体勢になれば、技術よりも力が物を言う。

 俺はアマンダさんの手首を掴んで、必死に押し返した。

 技術ではまるで敵わなくても、純粋な力なら——


(いける。やっぱり、単純な腕力なら、俺の方が……)


 暗闇に目が慣れてくる。


「いっ」


 小さな悲鳴。

 アマンダさんの美しい顔が、苦痛に歪む。

 俺は反射的に、力を緩めてしまった。

 アマンダさんの口元に笑みが浮かび、するりと密着してくる。


(——しまった)


 命の領域に踏み込まれる感触。

 これまで生命の危機に直面したことは、腐るほどあった。

 でも……。


 死を覚悟するのは、これが初めてだった。


 生殺与奪の権を握った彼女が、怪しく微笑む。

 そして——


 彼女は俺の唇を奪った。


「——」


 反射的にアマンダさんを突き飛ばそうとした。

 でもその前に、蛇のような長い舌に、口の中を犯される。

 口蓋(こうがい)を舌先で愛撫され、脳幹にチリチリとした電流が走った。


 全身の力が抜ける。

 なにも考えられなくなる。


 長い時間。

 実際は一秒にも満たない短い時間だったけれど、まるで永遠のように感じて——

 なんてことはなくて、本当に長い時間。

 俺はされるがままだった。


 アマンダさんがようやく顔を離した時、二人とも息も()()えだった。

 至近距離で見つめ合う。

 はぁ、はぁ、と荒い呼吸を繰り返す。

 二人の吐息が混じり合い、甘い湿度に溺れる。


「な……」


 徐々に脳みそが動き始めて、俺は叫びそうになった。

 アマンダさんが唇に人差し指を当て、「しー」と細く息を吐いた。


「こんなところを、妹に見られてもいいのかい?」

「……こんなところって」


 俺はようやく、現状を把握する。

 ここはベッドの上だ。

 しかもアマンダさんが俺に馬乗りになって、体を密着させている。


「ここはね、私の寝室なんだ」

「……な、なにが目的なんですか? こんなことして……」

「え?」


 アマンダさんが、キョトンとする。

 それから、おかしそうに笑った。


「目的もなにも、この状況だよ? 一つしかないじゃないか」

「一つって……」

「押し倒されるのは、初めてかい?」


 今更になって、アマンダさんの意図に気づいた。


「ファーストキスを捧げたっていうのに、伝わらないものだね」


 そうか、あれはキスなのか。

 俺の貧弱な経験じゃ、あれをキスと認識することすらできなかった。

 というかあれは、どう考えても初めてってレベルじゃ……。


「まぁ、男性相手の話だけどね」


 そんなことを付け加える。

 アマンダさんの手が、俺の服の下に忍び込んできた。

 その手を両手で押さえ込んだ。


「待ってください! 今は、こんなことしてる場合じゃ……。いつダンジョンエラーが起きるかわからないのに……」

「大丈夫って言ったのは君だろう?」

「それは、でも……。なんの根拠もないし……」

「平気さ。私は君を信用しているからね」

「あ、あのっ。実は俺、黙ってたことがあって」


 もう必死だった。


「黙ってたこと?」

「実はみんなとはぐれた時、とんでもない経験をしたんです。どう説明すればいいかわからなくて……。本当に、世界がひっくり返るような……」


 アマンダさんはUDのボスだ。

 ダンジョンを私物化し、研究所や別荘まで作ってしまうような人なのだ。

 絶対に食いついてくるだろうと思ったのに……。


「どうでもいい」


 そう、バッサリと切り捨てられた。


「私が興味あるのは、君だけだからね」

「な……」

「こんなチャンスは、そうそうないんだ。あんな可愛らしいガーディアンが二人もいたんじゃね。こういう状況でもないと、君に言い寄ることもできない」


 ところで、とアマンダさんが言う。


「この別荘、どうかな?」

「……どうって」

「素敵だと思わないかい? 気に入ってくれるといいんだけど」

「そりゃ、もちろん。素敵だと思いますけど……」


 急に話題が変わって、俺は混乱する。

 アマンダさんは嬉しそうに笑った。


「それはよかった。この別荘は、君のために建てたものだからね。無駄にならずに済んだよ」


 俺は絶句した。


「……なんで」

「なんでって?」

「だって俺たちは、ほんの数日前に知り合ったばかりで……」

「そうだね。私たちは会ったことも、話したこともなかった」

「だったら……」


 でも、と彼女が言う。


「一度だけ、すれ違ったことがあるんだよ」

「……どこで?」

「ルヴェストラ」


 その地名を聞き、嫌な記憶がフラッシュバックした。

 アマンダさんが目を細める。


「覚えているんだね」

「そりゃ、だって、あそこは……」

「私は、あの町で生まれ育ったんだ」

気づいたらクリスマスが終わってました!

同情してくださる方は、ぜひ☆☆☆☆☆やレビューをよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
おもしろかった 次が楽しみ クリスマスは来年に期待!
ドンマイです。自分も普通に過ぎ去りました。
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