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第151話 ガイア、嫌な予感

 猛然と襲いかかってきたのは、最初の一体——ドロップキックで吹き飛ばした個体だった。

 モンスターだって生き物だ。

 そりゃ蹴り飛ばされたら怒りもする。


 腰から剣を抜き、振り下ろされた一撃を受け流した。

 体勢を崩した相手を切り付ける。

 試し切りのつもりだったから、かなり力は抜いていた。

 アマンダが「攻撃力より強度を優先した」と言っていた通り、刃こぼれはしていない。

 もちろん相手にも、ろくにダメージは与えられていないけれど。


「ふむ」


 手応えからして、本気で攻撃すれば外骨格を破壊し、本体にダメージを与えられそうな気がする。

 でもこちらの武器にも、かなりの負荷がかかるだろう。

 相手が一体だけならまだしも、この数が相手となると……。

 そんなことを考えながら、死角から飛んできた矢を切り払った。


「さて、どうしたもんかね」


”おお、ジローらしからぬ頼もしさ”

”なんか意外と平気そうやな”

”俺は逆に不安になってきたわ……”

”わかる。ジローが真剣にならざるを得ない状況ってことやもんな”

”あのジローが、ちゃんとしている……だと?”

”心臓バクバクしてきた……”

”ちゃんとしてる時ほど視聴者が不安になるってどういうことやねん”


 パッと見ただけでも十数体。

 今も集結している最中なのだろう、その数はどんどん増えてきている。

 ここが開けた空間なのは幸いだった。

 行動が制限される狭い通路で、この数に囲まれていたらと思うと背筋が冷える。


 切り付けられたことで、最初の一体も警戒心を高めたようだ。

 もう不用意に攻撃を仕掛けてこない。

 騎士のような風貌の通りに、ちゃんと仲間たちと連携を取れるようだ。

 数体で、俺を取り囲むように展開する。


「厄介だな、ガイアどもめ」


”外野?”

”部外者とか邪魔者みたいな意味かな”

”外野じゃなくてガイアじゃない? 大地の神様の”

”確かギリシャ神話だっけ”

”え? 大地の神様要素、皆無じゃない?”

”あ、もしかしてあれかな。暗黒騎士ガイア”

”いやいや、それこそ全く似てないやんけ”

”まぁ確かに、ビジュアル的には暗黒騎士っぽいけど……”

”ジローネーミングは特殊ダンジョンでも健在なんか”


 槍ガイアが先頭に立ち、俺を牽制してくる。

 長物の利点もちゃんと理解しているようだ。

 槍ガイアが注意を引き、斧ガイアや剣ガイアが隙を見つけては攻撃してきた。

 忘れた頃に矢が飛んでくるのも厄介だった。


「一体一体はそれほどでもないんだけどな。せいぜい七十階層のボスよりちょっと強いくらいで」


”いやそれって要するに最強クラス……”

”そんなバケモンに取り囲まれてんの!?”

”マジで特殊ダンジョンやばすぎるやろ……”

”この場合マジでやばいのはジローな気がする”


 幸い、出口までの道順は覚えている。

 包囲網を突破して逃げること自体は可能だ。

 でも逃走中にハグれガイアと遭遇して足止めをくらい、追ってきた連中と挟撃されたらたまらない。

 もっとガイアが集結するまで粘ってから逃走を図る。

 それが最適解な気がする


(意外と攻勢も激しくないし……)


 むしろ消極的に感じるほどだ。

 数に物を言わせて襲ってこられるのが、俺としては一番厄介だ。

 それをされたら一も二もなく逃げ出すしかないのだが……。


(やっぱり、もっと集まるまで粘ってから逃げるのが正解かな……)


 そんなことを考えた時、嫌な予感がした。

 自分の考えが間違っているような、そんな気が。


 その原因に思い当たる前に、また矢が飛んでくる。

 これまでと同じように切り払おうとして、ふと気が変わった。

 剣先で、矢にチョンと触れてみたのだ。

 軌道が変わり、狙った通りに斧ガイアの腹部に矢が命中した。


 攻撃が仲間に当たれば、おいそれと矢を放てなくなるのではないか……。

 そんなことを考えたのだが、これが想定以上の効果をもたらす。

 斧ガイアの外骨格にヒビが入ったのだ。

 矢も砕けてしまったけれど——


(そうか。ガイアたちの武器も、外骨格と同じ素材でできてるんだ……)


 光明が見える。

 俺は槍ガイアの間合いに踏み込んだ。

 反射的に突き出された槍を紙一重で躱し、柄を掴む。

 槍ガイアは俺を振り払おうとしたけれど、


「ふん!」


 単純な膂力で負けるわけもない。

 逆に槍ガイアをぶん回し、そのまま剣ガイアにぶつけた。

 二匹の外骨格は共に砕け、破片が舞い散った。


 俺は奪い取った槍を弓ガイアに向けて投擲する。

 ちょうど矢を放ったタイミングで、カウンターのように直撃した。

 矢は俺の頬をかすめ、背後の床に突き刺さる。


”おおおおおおおおっ!”

”一気に形勢が動いた!”

”やっぱバケモンだわこいつ”


 剣ガイアと槍ガイアが立ち上がる。


(いや、今は槍ガイアじゃなくて素手ガイアか)


 俺が槍を奪ってぶん投げちゃったから。

 肉体にもダメージが通ったようで、どことなく足元がおぼつかない様子だ。

 けれど——

 ひび割れた外骨格が、まるでかさぶたが剥がれるみたいにバラバラと剥離し、ひび割れが修繕されてしまった。


 それだけじゃない。

 パキパキパキと関節を鳴らすような音をさせながら、素手ガイアの手の中に槍が形成されていく。


「あ、すごい。そんなこともできるんだ」


”いや、もっと驚けよ……”

”友達の新しい一面を知ったみたいなリアクションやんけ”

”いいぞ、いつものジローになってきた!”

”攻略法見つけて余裕が出てきたのかな”

”頼むから油断だけはしないでくれ……”


 魔法みたいに無から物質を生み出しているのかと思ったけれど、よくよく観察してみると、どうやらそうではないらしい。

 外骨格の一部を修繕や武器形成に当てているようだ。


(硬化と軟化を自在に操れるのか)


 魔法でこそないが、それはそれですごい。

 素材を回収し、その原理を解明できれば、技術革新が起きそうな気がする。

 建築業界や宇宙開発が飛躍的に進歩しそう。


 ガイア素材で武器を作るのはどうだろう。

 状況に応じて、自在に武器の種類を切り替えられたりして。


(まあでも、武器にするにはちょっと強度が足りないか)


 少なくともダンジョンの最深部では通用しないだろう。

 でもサブウエポンとして持っておくのはありだ。

 いやそれよりも、調理器具やら何やら、万能ツールとして活用する方が、めちゃくちゃ役に立つかもしれない。


 俺はそんなことを——戦闘とは無関係なことを考える。

 集中が切れたとか、油断しているとかってわけではない

 思考を巡らせるだけの余裕が生まれたのだ。


 というのも、さっきの俺の反撃で、ガイアたちが俺から距離を取るようになったのだ。

 弓ガイアも攻撃を仕掛けてこない、いわゆる膠着状態。


 俺は別にガイアたちに恨みがあるわけではない。

 むしろ悪いのは俺の方だ。

 彼らのテリトリーに土足で踏み込んでしまったのだから。

 排除しようとするのは当然のこと。


 俺がここでこうしているのは、逃走の最中にハグれガイアと鉢合わせて挟撃されるのを恐れているからだ。

 もう少し集まれば、俺は脱兎の如く逃げ出すつもりでいる。

 今のこの膠着状態は、俺にとって望ましいものだ。


 けれど——

 さっき感じた嫌な予感。

 自分の考えが間違っているのではないかという……。


 反撃が思いの外うまくいったせいで、すっかり頭から抜け落ちてしまった。

 その直感に、ちゃんと耳を傾けておくべきだったというのに。

 今更後悔しても遅いのだけど。

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