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第150話 騎士

 そんなことを考えながら散策を続ける。

 思考に没頭していたせい——というのもあるけど、それだけが原因じゃない。

 ショッピングモールという馴染みのある空間に、つい気が緩んでしまった。

 人っ子一人いない廃墟ともなれば、なおさらだ。

 俺にとっては安らげる環境と言ってもいい。


 自分が別世界のダンジョンにいることも半ば忘れ、普通に廃墟を探検している心地になっていた。

 まあ要するに、俺は油断してしまった。

 警戒心を欠いてしまった。


 商業エリアを抜けると、やたらと開けた場所に出る。

 六階まで吹き抜けになっていて、中央にステージのようなものがあった。


 天井からはワイヤーが三本、垂れ下がっている。

 きっと何かしらのオブジェクトが吊るされていたのだろう。

 その残骸すら残されていなかったけれど。


 ほぇ〜、みたいな気の抜けた声を出しつつ、キョロキョロと周りを観察していると——目があった。

 四階の回廊に、甲冑姿の誰かが佇んでいる。


”え? あれって……”

”人!? なんでこんなとこに……”

”まさか、ジローが言ってた異世界人?”


 咄嗟に頭に浮かんだのは、あの赤褐色のフルメイル——

 でも違う。

 赤褐色ではなく、闇に溶け込むような烏の濡れ羽色をしている。


 そもそも鎧の形が違った。

 別世界人の甲冑は、傷つき薄汚れてなお、荘厳で美しかった。


 でも目の前のそれは、ゴツゴツとして歪かつ無骨で、まるで岩を削って作ったような……。

 いや逆か。

 削ったというより、鍾乳石のように盛り上がって形成されたような、そんな印象を受ける。


 回廊に柵はない。

 元はあったのだろうけど、崩落してしまっている。

 甲冑は当たり前のように足を踏み出し、宙にその身を投げ出した。

 そして俺のいるフロアに着地する——


「オラァ!」


 その直前に、渾身のドロップキックを喰らわせた。

 甲冑は壁を破壊しながら吹き飛んだ。


「馬鹿めっ! 呑気に自由落下などしよって!」


 そんなことを叫びつつ、俺は思考を巡らせた。


(やっぱあれはモンスターだな)


 パッと見た印象がそうだったし、こんなところに別世界人が居着いているとも思えない。

 雨風を気にする必要がないから、わざわざ建物を拠点にする必要がないのだ。

 それにここは別世界人にとって得体の知れない遺跡のはずだし。


 まあ得体の知れない遺跡だからこそ探索中だったという見方もできるのだが……。

 ともかく『人間じゃない』という印象は、ドロップキックを喰らわせたことで確信に変わる。

 甲冑や鎧を着込んでいると、当然生身の肉体との間にわずかに隙間ができる。

 そのせいで攻撃すると、銅鑼を叩いたような独特な感触があるのだ。


 でも今はそれがなかった。

 甲冑と肉体の間に隙間がない。

 というかぎっちりと癒着しているような手応えだった。


 きっとあの甲冑は、亀の甲羅のようなものなのだろう。

 いや全身を覆っていることを考えたら、貝類の方が近いかも知れない。

 どちらにしても、生身の肉体を覆うように外骨格が発達しているのだ。


「古今東西、戦士の亡霊は定番だからな……」


 それは別世界も変わらないらしい。

 どういう逸話があるのかまでは、知る由もないけれど。


”亡霊? ってことは、あれモンスター?”

”そりゃそうやろ。異世界人とかありえんし”

”確かに、動きが人間っぽくなかった気がする”

”てかめっちゃデカくなかった? ジローが蹴り飛ばしちゃったから一瞬しか映らなかったけど、二メートルは超えてた気がする”

”あの騎士がモンスターだからって、異世界人の存在が否定されたわけではないやろ”


 ともかくだ。

 わざわざモンスターと戦闘する必要はない。

 まだ武器も見つけられていないのだし。

 さっさと退散してしまおうと、俺は踵を返す。


 できればもう少し探索したかったけれど、こればっかりは致し方ない。

 そんなふうに考えていたのだが……。

 我ながら甘かったと言わざるを得ない。

 ここは別世界のダンジョン——それも最深部なのだ。


 視界の端で何かが煌めき、俺は反射的に身を屈める。

 頭上を何かが通過して、すぐ近くの床が爆ぜた。

 視線をやると、床に棒状の何かが突き刺さっている。

 その線上を辿るように反対側に目をやると、三階の回廊に同じく烏の濡れ羽色の甲冑がいた。

 その手に握られているのは——


「弓兵もいんのかよ……」


 いや、それだけじゃない。

 俺が進んできた通路、つまり出口までの退路から、二体の甲冑が現れる。

 手にはそれぞれ、槍と斧が握られていた。


 矢の追撃があり、バックステップで躱しつつ距離を取る。

 吹き抜けになったフロアの中央、半ば崩れたステージに俺は立つ。

 そうこうしているうちにも一体、また一体と数が増えていく。


「あーあ、大きな音を立てたのは間違いだったな……」


”どっちかっていうと叫んだことがじゃない?”

”あんな大声で「馬鹿めっ!」とか言ったら、そりゃモンスターも集まってくるやろ”

”やば、どんどん増えてってる……”

”マジで怖くなってきた”

”ジローなら大丈夫。絶対に大丈夫。これくらいのピンチ、これまでも切り抜けてきてるし”


 見渡す限り——

 回廊の至る所に騎士たちの姿がある。

 どうやらこのショッピングモールは、彼らの巣だったようだ。

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