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第149話 ショッピングモールの化石

”おお……ついにジローの口から、異世界の存在をほのめかすような……”

”マジか……”

”いやいやいや、さすがにないやろ”

”やっぱ利用されてるんじゃない? UDと関わってから、ジローの言動が明らかにおかしいし。早く縁を切ってほしいわ”

”にわか乙。UDと関わる前からジローはおかしいから”


 俺の考えを裏付けるように、信じられないものが目に飛び込んできた。

 ポストモダン的な建造物。

 その廃墟の入り口。


 倒壊した教会とは違って、それは壁の一角に埋もれるようにしてあった。

 まるで建物の化石だ。

 いや注目すべきなのは、そこではなくて——


「……これって、ショッピングモールだよね?」


 宗教施設なんかは、まだダンジョンに似つかわしくないわけでもなかった。

 でも大型商業施設なんて、さすがに異物感がすごい。


 入り口のガラスは全て割れていたんだけど、地面に破片は落ちていなかった。

 その事実が、時の流れを物語っている。

 実際に長い年月が過ぎているのか——それとも、そういう状態で生み出されたのか。

 おそらく後者なのだろう。


「…………」


 俺は絶句しつつ、近づいて中を覗いてみた。

 広大な空間が広がっている。

 テーマパークとかにあるハリボテではないようだ。

 ショッピングモールの化石、という印象は間違っていないのかも知れない。


 恐怖と好奇心を天秤にかけ、余裕で好奇心が勝つ。

 天秤にかけるまでもなかった。


 俺は恐る恐る……いや、嘘だ。

 天秤にかけた結果、恐怖心は投石器みたいに飛んでいっちゃった。

 俺はワクワクしながらショッピングモールの化石に足を踏み入れた。


”おいおい、入んのかよ……”

”好奇心は猫をも殺すって言葉知らんのか”


 中は閑散としていた。

 ガラス片と同様に、細々とした物は時間に押し流されてしまったのだろう。

 棚やテーブルの残骸から、かろうじて何屋なのかが推察できる程度だ。

 案内板を見つけたけれど、掠れて読み取れなかった。


「ここって、実際にあるショッピングモールなのかな?」


 印象として、日本のものではない気がする。

 もしかしたらゲートのあるオランダに、ここと全く同じ形状のショッピングモールがあったりするのかも知れない。

 それか遠く離れたどこかの国に。


(……いや、どうかな)


 確証はない。

 正直、なんとなくとしか言えないんだけど……。

 実在する建物を、そのまま再現しているわけではない気がする。

 この表現が正しいのかはわからないけれど、最大公約数的なショッピングモールなのだ。

 モデルハウスならぬ、モデルショッピングモールというか……。


(こんな朽ち果てた廃墟がモデルハウスなんてのも変だけど)


 でもそういう印象を受けるのは事実だ。


「なんか変な感じ。これまで得体の知れないダンジョン文明とかたくさん見てきたのに、馴染み深い方が気味悪く感じるっていうね」


”気味が悪い程度で済んでるのがすごい”

”その辺のモキュメンタリーホラーより怖いぞ”

”恐怖のベクトルが変わってきてる……”


 気味の悪さの一番の原因は、そこに意図というか恣意性のようなものを感じるせいだろう。

 これまで見かけたものは用途不明で、まとまりもなかった。

 でもここで見かけるダンジョン文明には一貫性というか、明確な繋がりがあって——


(いや、そうじゃないのかな?)


 考えてみたらキリスト教の教会と阿弥陀如来像なんて、対極といってもいい存在だ。

 コンテナや電波塔、車なんかもそう。

 そこに繋がりを感じるのは、それがあるのが当然の世界で生まれ育ったからなのかも知れない。

 俺が勝手に、一貫性を見出しているだけだ。


(このショッピングモールもそうなのかも……)


 異物感がすごいと感じるのは、俺にとってショッピングモールが馴染み深いものだからだ。

 例えばピラミッド。

 今でこそ神秘やミステリーの代名詞みたいになっているけれど、当時の人からすると多分、そこにあって当然のものだったのだろう。


 ピラミッドに神秘性を感じるのは、距離が離れているからだ。

 物理的にも、時間的にも。

 別の世界の文明ともなれば、なおのこと。


 もし大型商業施設なんてものがない世界の住人が、この廃墟に足を踏み入れたなら——

 想像してみて、背筋がゾッとする。

 それこそ得体の知れない迷宮にでも迷い込んだような心地になるのではないか。


 マネキンの残骸が目に入る。

 俺はそれが、服をディスプレイするための物だと知っている。

 でも別世界の人が見れば、その目も鼻も口もない人間の模型は、宗教めいて見えるのではない。

 いやそれどころか、何かしらの呪物のようにさえ——


(そういう目で見ると、巨大な宗教施設のようにも感じるな……)


 ただの商業施設のはずなのに。

 さっき見かけたトヨタ車の残骸なんかもそうだろう。

 ほとんど骨組みだけしか残されていなかったけれど、俺にとっては見知ったものだから、すぐに朽ち果てた車だと分かった。

 でも車がない世界の住人にとっては、それこそ未知のアイテムだろう。


(いやでも、そんなことがあるのかな?)


 車のない世界なんて、存在するのだろうか。

 ショッピングモールも同じだ。

 ある程度文明が発展すれば、車や大型商業施設なんて、生み出されて当然のように思える。


(それがあるのが当たり前の世界で生まれ育ったから、そう感じるだけなのかな……?)


 もしかしたらダンジョン文明は、深層に行くほど現代の文明に近づくのかも知れない。

 俺がこれまで発見してきたものが、中世からせいぜい近代程度の文明レベルだったのは、最深部まで潜っていないからってだけなのかも。

 もしもっと攻略が進めば、それこそ車の残骸やショッピングモールの化石なんかが……。


 それか——

 もう一つ考えられる可能性としては、


(別の世界は、俺たちの世界ほど文明が発展していない?)


 いや、その場合はきっと逆だろう。

 ダンジョンはたくさんあって、そのそれぞれが別々の世界に繋がっているのだとしたら……。

 俺たちの世界は、別の世界よりもずっと発展している。

 そう表現する方が、きっと正しいのだろう。

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― 新着の感想 ―
負けた世界はこうやってダンジョンに残滓を残すのみなのかな
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