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第148話 ダンジョン文明

「さて、どうすっかねぇ」


 やばそうなのがいた通路は除くとしても、他にも道が複数あるのだ。

 どっちに進めばいいのだろう。

 どの道を選ぶのが正しいのだろう。


「……いや、そもそも正解なんてないか」


 大切なのは正解の道を選ぶことではなく、選んだ道を正解にすることだ。

 十代の頃に暇つぶしで読んだ自己啓発書に、そのようなことが書かれていた。

 使い古された言い回しなんだろうけど、当時の俺はまんまと啓発されて、今もなおその言葉は俺の心に深く刻まれている。


「そうと決まれば……」


 俺は複数ある道を一つ一つ指差しながら、


「ど、れ、に、し、よ、う、か、な、ダ、ン、ジョ、ン、の、か、み、さ、ま、の、言、う、と、お、り! よし! あっち!」


”正解はないかもしれんけど、その選び方が間違ってることだけは確かや”

”今時小学生でもやらんぞ……”

”ダンジョンの神様が言うんだから間違いない”

”異形の神は死んだやろ”


 俺は選んだ通路に足を踏み入れる。


「やば、ちょっとマジで緊張してきた。未知のダンジョンですからね。一体何が待ち受けてるのか……常に警戒心を持って、慎重に行動しないと——あ、なんかある」


”おい、よくわからんもんに近づくな!”

”二秒前に自分で言ったこと忘れたんか……”

”というか喋ってる途中やったやん……”

”三歩歩けばってレベルじゃねえぞ”


 俺が目に止めたのは、何かの瓦礫だ。

 ダンジョン文明。

 その辺の岩とは明らかに違い、表面がツルツルしている。

 砕けた断面からは鉄筋らしきものが見えていた。

 いや、それはらしきものではなく、明らかに——


「え? これ、鉄筋コンクリート?」


 これまで色んなダンジョン文明を見てきたけれど、鉄筋コンクリートなんて初めてだ。

 ダンジョン文明なんて呼ぶには、いささか現代的すぎる。

 それこそ、その辺のビルを解体して、その一部を持ち込んだような……。


(俺の前に誰かがここに? それとも別世界人が……いや、そんなわけないか)


 そんなことをする意味があるとは思えない。

 やはりこれはダンジョン文明なのだろう。


「……でもなぁ」


 俺がこれまで見てきたダンジョン文明は、中世からせいぜい近代——少なくとも産業革命以前くらいの文明レベルだった。

 それが急にこれだ。


(ここが別世界のダンジョンだから? それとも最深部だからかな?)


 とりあえず持ち帰ろうと思ったけれど、バックパックを持ってきていないことを思い出す。

 やむを得ず放置した。

 幸い、ここはゲートからほど近い場所だ。

 帰り際に持ち帰ればいい。


 そう考えて、俺は探索を再開した。

 モンスターとの遭遇をひたすら避け、迷わないように道順もちゃんと覚えておく。

 その道中で、ダンジョン文明を頻繁に目にした。


「……なんなんだ、これ」


 そんな独白が口をついて出る。

 得体の知れない文明の名残りに驚いて——というわけではない。

 むしろ真逆だ。

 見かけるダンジョン文明は、どれも馴染み深いものばかりだったのだ。


 ひしゃげたコンテナ、なんらかの電子機器の部品、飛行機の残骸、阿弥陀如来像の左半身、錆びついた標識、電波塔の一部。

 倒壊した建物を調べてみたらキリスト教、それもおそらくプロテスタント系の教会だった。

 そして極め付けは——


「トヨタ車っ!?」


 タイヤも屋根もエンジンもなく、骨組みしか残されていないけれど、半分欠けたエンブレムは間違いなく日本が世界に誇るトヨタのものだ。


「いやぁ、世界中を旅してた頃に『こんなとこにも日本車が』ってよく驚いてたけど、まさかダンジョンで見かけるとは……」


”何これ……”

”さっきからマジで不気味すぎん?”

”鳥肌が止まらん”

”世界がダンジョンに侵食されたみたいな……”


 こうなるともう、さすがに答えは一つだ。


「ダンジョン文明って、繋がってる別の世界の文明だったんだ」


 その世界を象徴するような——

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