第142話 異戒神将
「いくつか確認してもいい?」とアマンダが言う。
「なに?」
「嘘をついてるわけじゃないんだよね?」
「嘘?」
「一人でダンジョンに潜りたいからって」
「いやいや、違う違う」
「私も疑いたくはないよ。でも凡人の身としては、手放しに信じられる話じゃないんだ」
アマンダが凡人なら俺はどうなるのだろう。
そもそもこっちとしては、そんなに驚かれることが意外なのだ。
「昔からずっとそうだったからなぁ……」
「昔からって?」
ダンジョンに潜るようになってから——いや、キャンプを始めてからか。
俺は何度も危ない目に遭ってきた。
それこそ死んでもおかしくないような。
でもその度に、俺は適応してきたのだ。
一人になりたくて山奥に踏み入り、変なキノコを食べて死にかけたあの日、あの夜に——俺が辿り着いた真理。
のんびりキャンプができるくらい強くなればいい。
その考えは今も変わらず、俺の根幹に居座っている。
「適応って……」
春奈ちゃんが苦笑いを漏らす。
「異戒神将ですか、あなたは……」
「あれかもね。強くなったっていうより、必要なだけの強さを引っ張り出したって感じなのかも」
「アマンダさんがいうところの、先天的に備わっていた力ってやつですね」
「軽い気持ちで口にしたんだけど……思いの外、核心をついていたのかもしれない」
「考えてみたらお兄さんって、キャンプを始めるまでは普通だったわけですし。逆にアンリは、小学生の頃から地元の中高生相手にバチバチ喧嘩してたっていう」
「それってダンジョンが出現する前の話だよね?」
「そうですね。名前のもじりで『加減を知らない』って二つ名で呼ばれてたらしいですよ」
「おそらく本人の性格や気質によるんだろうね」
「そ、それだとなんか、私がすごい乱暴者みたいな……」
アンリが不満そうに口を挟む。
俺以外の三人から白い目を向けられ、シュンとしていた。
「じゃあ本当に本当なんだね。私に変に気を遣ってるとかじゃなく」
「うん、そういうんじゃないよ」
「相手が複数いることもわかってる?」
「もちろん」
「その上で、一人で行きったいって思うんだね?」
「一人で行きたいっていうか、そっちの方がいい気がするなぁ、みたいな」
「……そう」
じゃあ最後に、とアマンダは声を一段低くする。
「生きて帰ってくるね?」
そんなことを聞かれても困る。
ダンジョンは何が起こるかわからない危険な場所だ。
安全なんて保証されているわけもない。
別世界のダンジョンともなれば、なおのことだ。
でも俺は、揺れる瞳をまっすぐに見つめ返し、深く頷いた。
「必ず」
アマンダは薄く微笑んだ。
「卑怯だね、君は」
視線を伏せて、それから春奈ちゃんたちの顔を順番に伺う。
一つため息をつき、アマンダは言った。
「わかった、私たちは君の判断を信じるよ」
そこからは話がとんとん拍子に進んだ。
オランダ政府と交渉するために、UD組が出かける。
話し合いは難航するんじゃないか、なんて言っていたけれど、ものの二時間ほどで戻ってくる。
移動にかかった時間を考えれば、交渉に三十分も要していないのではなかろうか。
「条件は色々と付けられたけどね。特殊ダンジョンで得たアイテムの所有権は、最終的にオランダに帰属する、とかね。ジローには申し訳ないけど」
「それは全然いいんだけど……でもそれだと武器を持ち帰っても意味ないんじゃない?」
「『最終的に』だよ。私たちが必要としている限りは、手元に置いてもいいってさ。場合によってはUDで買い上げてもいいし」
「なんかそれは申し訳ない気がするなぁ」
「細かい取り決めは全部こっちで調整するとして、あとは配信だね」
「配信?」
「『特殊ダンジョンの調査のため』とか言ってたけど、本音としてはアイテムを着服されたくないって感じだった。本当、利権が関わると、ろくでもないのばかりが集まる。それとも利権が人をダメにするのかな」
ともかく、とアマンダは話を戻す。
「私たちとしても、君のことが心配だから、配信で安否が確認できるのは助かる。構わないよね?」
「うん、まあ……でも特殊ダンジョン配信なんてやったら、結構な人が観そうだよね。下手したら千とか二千とか」
そう考えると緊張する。
「……まあ、あまり視聴者のことは気にしなくていいと思うよ。あくまで管理局の要望で配信するだけだし、気が散ると危ないから」
「まあ、そうだね」
やること自体は、いつもとそんなに変わらないのだ。
準備を整えて——俺は単身で別世界のダンジョンに向かう。




