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第137話 お説教タイム

 心地のいい微睡みに身を任せながら、俺は寝返りを打つ。

 柔らかい枕の感触。

 なんだかとてもいい匂いがする。

 日光から逃れるように、俺は枕に顔を(うず)めた。


「うひぃっ」


 可愛らしい声が降ってきて、俺は薄目を開けた。

 目の前には枕が二つ……いや違う。

 これは枕じゃない、人の足だ。

 厳密には太ももだ。


「お、おはようございます。お兄さん」


 顔をあげると、頬を赤く染めた春奈ちゃんと目があった。


「あ、おはよう」


 とりあえず朝のご挨拶を。

 それから飛び起きる。


「えっ!? ご、ごめん! 俺……」

「い、いえ、ありがとうございます」

「ありがとうございます?」

「間違いました。お気になさらず」


 どういう間違いなんだ。


「いやでも、膝枕なんて……」

「私もお兄さんを座布団にしたので、お互い様ということで」

「あ、そう? ならいいんだけど」


 ……ん?

 適当に相槌を打っちゃったけど、俺を座布団にしたってどういう意味だろう?

 そもそも、なんで春奈ちゃんに膝枕なんてしてもらっていたのか。


 戸惑いながら周囲を見ると、すぐ近くでアンリとギンが寝ていた。

 いや寝ているというより、気絶しているような……。


「……どういう状況?」

「何も覚えてないんですか?」

「う〜ん……」


 問われて思い出そうとしてみたけれど。


「なんか変な夢を見てたことしか……」

「どんな夢だったんですか?」

「金髪の少女にブチギレられて椅子にされたかと思ったら、アンリとギンにぶっ飛ばされるっていう。……夢にしても支離滅裂すぎるな」

「あはは、確かにめちゃくちゃですねー」

「あ、金髪の少女っていうか、キャスパー博士だったかも」


 あの見た目で俺と同年代だというのだから、未だに脳がバグる。

 そんなことを考えていたら、仮眠室の扉が開き、当の金髪少女——キャスパー博士が現れた。


「飯の準備ができたぞ。そこのアホ二人も叩き起こして連れてこい、バカ二人」


 相変わらず口と目つきが悪い。

 というか、彼女がここにいるってことは……。


「……あれ? もしかして夢じゃない?」


 なんか記憶がぼやけているのは、夢だからではなく寝起きだったからとか?


「とりあえず二人を起こしましょう、お兄さん」

「あ、うん。そうだね」


 言われるがまま、アンリとギンを起こして談話室に向かう。

 円卓の上に五人分の食事が用意されていた。

 人数分には一つ足りない。


 こういう時、俺は咄嗟に「自分の分がないのでは?」と考えてしまう。

 ネガティブだからってのもあるんだろうけど、それだけが理由じゃない。

 事前に最悪を想定することで、実際にそうだった時のダメージを少しでも減らそうとしているのだ。

 これまでの人生で自然と身についた、心の防衛機能である。


「一人分足りなくないですか?」

「私は機内で食った」


 春奈ちゃんの質問にキャスパー博士が答える。

 用意された食事はサラダにパンとスープという簡素なものだ。

 この簡易拠点にはキッチンがないから、凝ったものは作れない。


 管理局の人に頼めば用意してくれそうだけど、今は色々と忙しいだろうから、手を煩わせるのも気が引けたのだろう。

 立場的に、オランダ政府に極力借りを作りたくない、みたいな事情もあるかもしれないが。


 キャスパー博士以外の五人が円卓に着き、みんなでいただきますをする。

 アマンダもギンも日本の文化に精通しているから、その姿はとても様になっていた。


「それでだ、ジロー君よ」


 キャスパー博士が肩を組んできた。

 彼女はアンリよりもさらに小柄だから、こちらが座っていても視線の高さはあまり変わらない。


「食べながらでいいから、話を聞かせてもらえるかな? ダンジョンの管理者とやらの」

「えっと、それより今は別世界の話をした方が……」

「それはもう聞いた。アマンダの報告に瑕疵があるとは思えん」


 すごい信頼だ。


「そんなことより、君だよ君。わけがわからんことだらけだ。もしかして私の日本語力が低いせいかな? いや、低いのは理解力だったりしてね。はっは、だとしたら申し訳ない。愚鈍な私のために、説明し直してもらえると助かるよ。一から、全部を、詳細に」

「あ、はい。もちろん……」


 ニコニコしているのが、めちゃくちゃ怖かった。


「そもそもどうして黙ってたんだい? 口止めでもされてたのかな?」

「ま、まあ、その、あまり話さないでほしいとは……」

「はっ、悲しいね。私たちとの信頼関係よりも、そんな理外の存在からの頼みを優先するなんて。ああ、すまない、さすがに他責思考すぎるか。そもそも君に報告の義務なんてないものね。君とって、私たちはその程度の相手だった。それだけの話か。悲しいけど、その事実を受け入れなきゃ」

「そ、そんなことは……」

「じゃあなんで黙ってた?」


 急に真顔になるキャスパー博士。


「そ、その、タイミングが、なかなか……」

「タイミング? タイミングってなんだ? 別世界のことがなきゃ、ずっと黙ってたってことか? 墓場まで持ってくつもりだったのかよ、お前。おい、こっちは質問してんだよ、答えろよ。またダンマリか? お前に教えることなんか何もねえってか? アァ?」


 前言撤回。

 やっぱこっちのが怖い。


(目つきが悪すぎるんだよな、この人……)


 助けを求めるように周囲を見たけれど、四人とも黙々と食事をしていた。

 一回ちゃんと怒られとけ、みたいな空気感がある。

 四人は俺にやたらと甘いところがあるから、キャスパー博士はあえて憎まれ役というか、説教役を買ってでたのかもしれない。


 ……いや、違うな。

 目に殺意が宿っている。

 これはガチギレだ。


「誰か自白剤持ってねえか?」


 なんて言ってるし。

 さすがにアマンダが、


「持ってるけど使っちゃダメだよ」


 と(たしな)めていた。

 ……持ってはいるんだ。

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