第112話 普通で平凡で常識人
……ずるい。
私も本当はそういうのがやりたかった。
わかっている。
私だってわかっているのだ。
そういうちょっと抜けたところが、お兄さんの一番の魅力だってことくらい。
今だって沈み込んでいた空気が、一瞬で明るくなったのだ。
お兄さんの配信が人気なのは、何もその強さに依存したものではなかった。
切り抜き動画で再生数が回っているのは、意外と雑談シーンだったりするし。
知名度を得たきっかけは強さだったとしても、人気になったのはむしろ、お兄さんの人となりに起因する。
仮に常人離れした強さがなかったとしても、配信者として成功していたと私は思う。
(いや、そんな理屈をこねなくたって……)
私がお兄さんのどこに惚れたのか。
それが全てだ。
なのに……。
私はつい、ツッコミを優先してしまった。
(ああ、私に流れるこの血が……。関西人の血が憎い……)
おかしい。
今さっき二人の父親が創造主だと判明したばかりなのに……。
なぜ私が自分の血を呪っているんだろう?
普通で平凡で常識人な、何の面白味もない私のような存在すら狂わせてしまう。
これが創造主一族の魔力か……。
後日、ギンにその手の悩みを打ち明けてみたところ、
「安心しろ。お前は最初から十分おかしいから」
と言われてしまった。
さすが、最年少のSランク冒険者だ。
やっぱり感性が少しずれている。
「なんにしても、話が進展したことに変わりはない。業腹だけどね」
アマンダさんは周りから何かを言われる前に、自ら話を戻した。
きっと衝動的に口走ってしまっただけで、本意ではなかったのだろう。
アマンダさんの最終目標はハーレムを作ることだ。
私を含めた。
ここで火種を作るのは得策ではないと判断した——
なんて、アマンダさんの思惑を想像してみたんだけど。
「あの男の話を加味して、一から話し合わないと。対応がまるで変わってくる」
どこか言い訳がましく、早口だった。
汚れてもいないのに服をぱんぱんと払っているし。
心なしか、耳がほんのりと赤くなっていて——
……まさか、照れているのか?
普段はあれだけ飄々として、からかうように散々アプローチしているくせに。
思わず口をついて出た愛の言葉に、自ら照れているのか?
なんやそれ
ズルすぎるやろ
ふざけんな
関西人、心の一句だ。
とはいえ、そんなことで揉めていい状況ではない。
確かにアマンダさんの言う通り、話は進展した。
でも好転したわけではないのだ。
むしろ混迷さは増したとすら言える。
普通で平凡で常識人な私は、その辺りをちゃんと弁えているのだ。
【創作裏話】
この作品には長身の女性がたくさん出てきます。
そこにはちゃんとした理由がありまして。
作中でも触れたのですが、ダンジョンの影響で若い世代の身長が伸びていることが一つ。
それから、これが一番大きな理由なのですが、この世界には『レベル』や『スキル』といった概念が存在しないので、「でかいほど強い」という自然の摂理がある程度、適応されてしまうんですよね。
なのでUDのボスやSランク冒険者は、世界観的に長身設定にせざるを得ない、という事情があったりします。
逆になんでアンリが小柄かというと、そういう世界観や自然の摂理の埒外にいる存在だからです。




