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第106話 俺が考えた最強のダンジョン

 ヨダレが垂れそうになるまで、自分が口を開けていることにも気づかなかった。

 慌てて口を閉じる。

 口内が乾いて、棘が刺さったみたいに喉の奥が痛んだ。

 それくらい、お兄さんから聞かされた話は衝撃的だった。


 ダンジョンの壁が崩れ、大きな穴があいたこと。

 その向こうに果てのない空間が広がっていたこと。

 お兄さんの言葉を借りれば、ダンジョンの裏側。


 そこで人種も性別もわからない子供と出会ったこと。

 子供は、自分のことを「このダンジョンの管理者」だと——

 お兄さんはその管理者と、たまに会っては色々話をしていたらしい。


「し、信じられない……」


 私の言葉に、お兄さんは視線を伏せた。


「そうだよね。こんな荒唐無稽な話……」

「違います!」

「え?」

「そんな重大事件を、今の今まで黙ってるなんて……」

「いや、だってそれは」

「見てくださいよ」

「え?」


 私はアマンダさんとギンを手で示した。


「お兄さんのことが大好きなはずの、この二人の呆れた顔を。自分がしたこと、わかってます?」

「うぐ……。すみません……」

「まあまあ」


 アンリが宥めるように言う。


「そういうのはほら、お兄ちゃんだし仕方ないじゃん」


 全然フォローになっていなかった。

 むしろ追い討ちだ。


「……だって」

「なにがだってですか」

「し、信じてもらえないと思ったから……」

「そんなことありませんよ! 信じますって、二割くらいは!」

「ほら! 半信半疑にも届いてないじゃん! 五割引きの六十パーセントオフじゃん!」


 確かに、手放しに信じられる話ではない。

 特に当時は。

 状況が全然違う。


 特殊ダンジョンが別世界と繋がっているとわかった今——

 超自然的なものだと思っていたダンジョンに、明確な存在意義があるとわかった今——

 ダンジョンの管理者くらいはいてもおかしくないと、素直に信じられる。


 当時聞かされていたら、どうせ変なキノコでも拾い食いしたんだろうと思ったはずだ。

 でも逆に、頭ごなしに否定することもない。


 不可解なダンジョンエラーに巻き込まれたのだ。

 話をちゃんと聞き、検討と検証をし、四信六擬くらいにはなっていたはずだ。

 もしお兄さんに橋渡ししてもらって、管理者とコンタクトが取れていれば——


(いや、それでなにかが変わったわけじゃないだろうけど……)


 オランダはUDの権力が届かない。

 ユリスさんたちの悲劇は、その場合でもきっと起きていただろう。


(でも、だからって……)


 モヤモヤする気持ちはあったけれど、今更言っても詮無いことだ。

 私はため息をつき、頭を切り替えた。


「……そういうことだったんですね」

「そういうことって?」

「その管理者……。ラストさん? くん? から色々と聞いていたんですね。だから『特殊ダンジョンは別世界のダンジョンの出口』なんて吹っ飛んだ仮説が立てられたんだ。事前知識があったから……」

「いや、それは違う」

「え?」

「ラストからはなにも聞いてないよ。というか、なにも教えてくれないんだ。『ルール違反だから』って」

「なんですか、ルールって」

「さあ。俺も聞いてみたけど、答えてくれなかった。それもやっぱり、ルール違反だからって。だからラストから聞いたってわけじゃ……。あ、でもそっか。管理者の存在を知っていたから、別世界なんて発想ができたとも言えるのか。そういう意味なら……」

「ちょっと待ってください。でもさっき『たまに会って色々話をしてた』って言ってたじゃないですか」

「あー、うん。それはそうだけど……」

「じゃあ、一体どんな話をしてたんですか?」

「それは、その……」


 お兄さんは気まずそうな顔をした。


「……お」

「お?」

「『俺が考えた最強のダンジョン』って話題で盛り上がったり……」

「…………」


 ダンジョンの管理者を名乗る、人種も性別もわからない得体の知れない存在と、きゃっきゃとはしゃぐお兄さんの姿が目に浮かぶ。


 私はアンリも加わった三人の呆れ顔を手で示した。


「ほ、本当にすみませんでした……」


 これに関してはマジで反省してほしい。


(……ん?)


 私の中で、なにかが引っかかる。


「いやでも、アマンダにだけは責められたくないんだけど」

「どうして?」

「管理者に会ったこと、アマンダには話そうとしたからな」

「そうなんですか、ボス?」

「いや、私はなにも聞いていないよ。責任転嫁はよしてくれ」

「違うって。ほら、別荘で押し倒された時だよ。『興味がない』って切り捨てられたけど」

「ああ、あれか」

「ボス……」

「過去を責めるのはやめて、建設的な話をしよう。それで、ジローはどうするつもりなんだい?」

「こいつ、話を逸らしやがった……」


 お兄さんはため息をつく。


「ラストなら、別世界のことをなにか知ってるんじゃないかと思って」

「でもなにも答えてくれないんだろ?」

「これまでは、話したくないなら無理に聞き出すこともないって思ってたんだ。俺はのんびりキャンプができたら満足だから。でも、こんなことになったら、多少強引にでも……」

「ぜひその場には、私も同席させてもらいたいね」

「それは無理なんじゃないかな。俺の前に姿を現したのも、グレーゾーンだって言ってたし」


 そんな目の前のやりとりが、まるでテレビ越しで行われているように感じて……。


 ぐるぐる、ぐるぐる——


 頭がすごい早さで回っているのがわかる。

 どうしてだろう?

 目の前で、ダンジョンの管理者について話し合っているのだ。

 本来なら、それ以外のことなんて考える余裕はないはずなのに。


 そんなことよりも……。

 なにかが気になる。

 なにかが引っかかる。


 ぐるぐる、ぐるぐる——


 走馬灯のように、これまでのことが頭をよぎった。


「てかお兄ちゃん、その子に『ジロー様』なんて呼ばせてるの?」


 アンリの声。


「呼ばせてるわけじゃないって。俺もやめてって言ってんのに、やめてくんないの」

「えぇ〜?」

「なんだよ、その疑わしそうな目。てかそれで言ったらアンリもだからな」

「私もって?」

「『アンリ様』とか『妹様』とか呼ばれてるからな」

「なにそれ! 超嫌なんだけど!」

「だろ? 俺もそうだから」


 ギンが、


「ダンジョンの管理者って、人間より立場が下なんだ」


 と独り言のように言う。


「いや、そんなことはないと思う。アマンダのことは『雌豚』って呼んでるし」

「雌豚!? この私が!?」

「う、うん。それも、何度注意してもやめようとしなくて……」

「へぇ。俄然会いたくなってきた」

「目が怖い、目が怖い」

「ちなみにオレは……」

「ワンコロって」

「……すみませんっ」

「なぜ私に謝る? 雌豚よりはマシだからか? 豚が犬より劣ると、いつ誰が決めた」

「あぅ」

「落ち着けアマンダ」

「そりゃ知らない相手に雌豚呼ばわりされてたら怒るよね……」

「ごめん、伝えた俺が悪い」


 そんなやりとりも、どこかずっと遠くて。


 ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる——


「……あれ?」


 世界が引っくり返る。

書き溜めを全くしていませんが、毎日更新を頑張っております!

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