第105話 議論
「さて」とアマンダが言った。
管理局がホテルを手配してくれていたけれど、断って簡易拠点に戻ってきていた。
まだ早朝だ。
仮眠だけをとって、こうして円卓を囲んでいた。
「みんなお疲れだとは思うけど、どうしても話し合っておきたいことがあってね」
円卓に置かれた、別世界の住人の置き土産。
「管理局が落ち着いたら、回収されてしまうだろう。その前に、調べられることは調べてしまいたい」
「キャスパー博士は?」と春奈ちゃんが尋ねた。
「こちらに向かってるところだよ。すごく悔しがってた。『漏らしてでも付いて行くべきだった!』って」
「漏らすのは確定なんですね……」
「ジロー」
アマンダが俺を呼ぶ。
「なに?」
「君の仮説は正しかった。君の考えを、もっと聞かせてくれないかな」
「考えって言われても、ほとんど思いつきだったし」
「それで十分だよ。彼らの目的はなんだと思う?」
「目的、か……」
考えを頭の中でまとめる。
「やっぱり、侵略じゃないかな」
俺の言葉に、みんなが息を呑む。
「どうしてそう思うの?」
「配信でも話したことだけど、人間を強化し別世界に送り込むことがダンジョンの目的だとしたら、まさか交流のためとは思えない」
「……確かにね」
「決めつけるのは早いんじゃないですか?」
春奈ちゃんがそう言った。
「そうかな? 私はジローの仮説に、矛盾はない気はするけど」
「私もそう思います。実際、『特殊ダンジョンは別世界のダンジョンの出口』って仮説は正しかったし、筋も通っていると思います」
「だったら」
「でもダンジョンの目的と、別世界の住人の目的は、必ずしも一致してるわけじゃないでしょう? 例えばアマンダさんがダンジョンを突破したとして、辿り着いた別世界を侵略してやろうなんて考えますか?」
「考えないね」
「でしょう? ダンジョンがそうしむけたとして……。いや、ダンジョンに意思なんてあるのかわからないですけど……。とにかく、そういうものだったとして、人間がそれに従う道理なんてどこにもないじゃないですか」
「確かに、その通りだね」
「そもそも、侵略するメリットがあるとは思えない。だって地上よりダンジョンの方が資源が豊富なんですよ? それなのに、わざわざダンジョンを超えて、別世界を侵略するなんて——」
ギンは端末でやりとりを録音しつつ、ノートに議事録を取っていた。
生真面目な子だ。
アンリは眠り足らなかったようで、うつらうつらしている。
不真面目な子だ。
まあ俺も、人のことは言えないけれど。
議論には積極的に参加せず、心ここに在らずだった。
俺は考え事を……。
いや、考え事なんて上等なものではない。
悩み事と呼んでいいかすら怪しいものだ。
とっくの昔に答えは出ていて、でもこの後に及んで躊躇っているだけだ。
(黙ってるわけには、いかないよな……)
今回の件と、直接的に関わりがあるわけじゃないけれど……。
でも無関係とは決して言えない。
本当なら、とっくの昔にみんなに話しておくべきことだった。
でもタイミングを逸し、時間が経ってしまったせいで、余計に話しづらくなってしまった。
「どうしたんですか、お兄さん? そんな難しい顔をして」
春奈ちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。
「あ、いや、別に……」
「なにか思いついたんですか?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど……」
「聞きたいね、どんなことでもいいから。今はとにかく、検討材料が欲しい」とアマンダが言う。
「いや本当に、思いついたとかじゃないんだけど……」
この後に及んでまだ、まごついてしまう。
「正直俺も、なにがなんだかわからないよ。別世界の目的なんて、知る由もない。……でも」
「でも?」
二人の声が重なった。
「ダンジョンの秘密というか、なんというか……。大事な情報があって……」
俺は意を決する。
「ほら、みんなでラストヘイブンダンジョンに潜った時、ダンジョンエラーに巻き込まれたでしょ? 実は、その時に——」
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