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第104話 祈り

 新たな魔物がやってくる前に、遺体を運び出してしまう。

 幸い、腐敗は進行していなかった。

 パズルのように積み上げられた死体の山を崩していく。


 遺体を運び終えると、次は遺品を。

 それから別世界の住人が残していった荷物も回収しておいた。

 別世界のことがなにかわかるかもしれない。


 まさかこんなに早く全ての遺体が回収されると思っていなかったみたいで、管理局はおおわらわだった。

 別世界のことを伝えたんだけど、


「そういうのは後回しで」


 って感じで流されてしまった。

 まさにお役所仕事って感じだ。

 ヘンドリックさんなら真剣に取り合ってくれるんじゃないかと思ったけれど……。


 ユリスたちの遺体は、近くの廃校に運び込まれた。

 病院の安置所を押さえていたらしいんだけど、マスコミ関係者にはられてしまって、急遽場所を変えたそうだ。


 煉瓦造りの古びた建物。

 日本の学校とはまるで(おもむき)が違った。

 元は小学校だったようで、窓の外の風景もあいまり、小人の住処に迷い込んでしまったような気持ちになる。


 教室に並べられた遺体。

 その傍に座り込んで身じろぎもしないヘンドリックさんを目にすると、声をかけられなかった。


 葬儀は大々的に行われた。

 会場は有名なオペラハウスだった。

 多くの人が参列し、献花台は花で埋もれた。


 騒ぎになるといけないからと、俺たちは参列できなかった。

 アマンダが無理なのはわかる。

 でもせめて俺だけでも、と申し出てみたけれど、管理局の職員に、


「なに言ってんだこいつ?」


 みたいな目で見られてしまった。

 俺の下手くそなアメリカ英語じゃ通じなかったみたいだ。

 アマンダに頼んで話を通してもらおうとしたが、


「まあ、向こうも大変なんだ。仕事を増やさないであげよう」


 と宥められてしまった。

 納得いかなかったけれど、アンリもギンも春奈ちゃんも俺を止めるので、仕方なく引き下がった。


 結局、俺が参列できたのは夜中だった。

 それでもかなり無理を通しているらしく、灯りも最低限しかついていない。


 誰もいない薄暗いオペラ会場で、俺は静かに手を合わせる。

 ユリスは仏教徒ではない。

 他の面々もそうだし、なんなら俺は無宗教だ。


 そもそも遺体はとっくの昔に運び出されて、すでに荼毘(だび)に付されていた。

 それでも……。

 俺はこれ以外に、祈り方を知らなかった。

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