第11話 質問箱
「朝ご飯にしよっか」
「あ、今日の当番は私だよね」
「いいよ、誕生日なんだから」
立ちあがろうとするアンリを手で制す。
「ゆっくりしてて。簡単なのでいいよね?」
「うん、ありがとう」
時計を見る。
今日はアンリと一緒に、誕生日プレゼントを買いに行く予定なのだ。
(正直、お兄さんのテディベアを超えられるとは思えないけど……)
三人分の朝食を作る。
卵焼きとシャケの切り身と味噌汁。
それからサラダとお漬物も。
(簡単なので、とか自分で言いつつ、ちゃんとしたものを作ってしまった)
いただきますの挨拶をしてから、私たちは食べ始める。
「あ、そうだ、アンリ。ひとつ相談があるんだけど」
「なに?」
「最近、お兄さんの配信がちょっと荒れててさ」
「そうなの?」
「うん。ほら、お兄さんって一方的に配信するだけで、コメント見ないでしょ? その一方通行な感じがいいって人もいるんだけどね。お兄さんが好き勝手やってるのを眺めてるのが面白いって。でも一部からは、やっぱり不満が上がっててさ」
「ふうん。それで、誰を?」
「誰をって?」
「だから、誰を消せばいいの?」
「いや、そんな物騒な話じゃなくて……」
「春奈ならパパッと個人情報特定できるでしょ。前みたいにさ」
「そりゃできるけど……」
本当に、お兄さんが絡むと見境がない。
「そういうのは今回はなし。だからさ、質問箱みたいなの設置したらどうかなと思ってて」
「質問箱?」
「お兄さんには、他の配信者みたいに質疑応答配信とかできないでしょ? だから事前に質問を集めておくの。それにお兄さんに答えてもらえば、不満も減るんじゃないかなって」
「いいと思うけど……でも質問の管理とか大変そうじゃない? 多分世界中から殺到するだろうし」
「そこはAIを活用しようと思ってる。届いた質問を片っ端から読み込ませて、より多くの視聴者を満足させる質問をアウトプットさせたらいいんじゃないかって。そしたら言語も関係ないし、効率もいいかなって」
「AIってそんなこともできるんだ。画像生成しかできないと思ってた」
「いや、そんなことないよ……むしろこっちの方が本来の使い方だし」
「まあ、好きにすれば?」
「こいつ……」
さっき叱られたばかりなのに、もう自分でネタにしやがった。
アンリが悪戯っぽく笑う。
こういうウィットを好むのが、本来のアンリなのだ。
「じゃあとりあえず、質問箱を設置するってことでいいのね?」
私は無意識のうちに端末に手を伸ばしていた。
アンリがそれを視線だけで咎めてくる。
私はそっと端末を置いて、食事に戻った。
(本当、お兄さんが絡まないと、しっかりしてるんだよなぁ……)
私とアンリの関係性は、基本的にアンリにイニシアティブがある。
上下関係があるわけではないんだけど、お互いの性格や、やっぱり出会いが先輩後輩だったことが大きい。
それがポンコツタイム中だけ逆転するのだ。
(ああ、ポンコツアンリが恋しい……)
味噌汁を啜りながらしみじみと思う。
もちろん普段のアンリも好きだけど、あのポンコツっぷりがあったからこそ、先輩後輩を超えて仲良くなれたのだ。
(そういう意味じゃ、全部お兄さんのおかげなんだよなぁ……)
ご馳走様をすると、アンリが私の分の食器までシンクに運ぼうとする。
「あ、洗い物も私が」
「いいよ。それよりやっちゃいな」
私がむずむずしてるのを察して、気を遣ってくれたみたいだ。
「ありがとう」
お言葉に甘えて、端末を開いた。
頭の中ではすでに完成している。
そもそもそんなに複雑な仕組みでもない。
質問箱の設置と、届いた質問をAIに自動で読み込ませるプログラムを作る。
それらを解析してまとめて、最適な質問を出力するようにプロンプトを書く。
それだけだ。
アンリが洗い物を終えるまでには完成してしまう。
「相変わらず、すごいねー」
アンリは毎回、素直に感心してくれる。
出会った当初から変わらない。
「私にはこれくらいしか取り柄がないから」
アンリがムッとしたような顔になった。
「そういうとこ、やっと治ったと思ったのに」
「あ、違うの。今のは……ごめん……」
「謝ることはないけどさ」
昔のことを思い出してしまったせいだ。
アンリのおかげで、少しだけ自分を好きになれた。
自信も持てるようになったし、自分を卑下する癖も治ってきた。
「本当に、ありがとね」
アンリは首を傾げて、
「どういたしまして?」
と定型的に返す。
こういう無自覚なところも、お兄さんそっくりだ。
「さ、出かける準備しよ」
気恥ずかしさを誤魔化すために、私は話題を逸らして立ち上がった。
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