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第98話 八つ当たり

 ドク、ドク、ドク——


 三体いるのに、聞こえてくる心音は一つだけだった。

 その音が少しずつ、大きさと速度を増していく。

 亀裂から漏れる赤黒い(あか)りも、激しく明滅し始めて……。


(……逃げてくれないかな)


 ドドドッ——


 まるで太鼓を打ち鳴らすような音。

 臨界点を迎えたように、左右の獣が大声で吠えた。

 動物の鳴き声というよりも、金属を擦り合わせるような、硬質な不協和音。


「うるさい」


 俺は左側の獣を蹴り飛ばした。

 刀で斬り付けなかったのにも、左の獣を狙ったのにも、大した理由はなかった。

 ただ衝動に任せて動いただけだ。


 利き足が右だから。

 四足歩行の魔物で、斬るよりも蹴りやすかったから。

 せいぜいその程度の理由だ。


 原付バイクくらいのサイズなのに、重機を蹴ったような感触があった。

 別の世界まで吹き飛ばすつもりで蹴ったのに、五メートルほどしか飛ばなかった。


 人型の魔物が上段蹴りを繰り出してくる。

 骨がないのか、足が鞭のようにしなり迫ってくる。


 俺は顔を傾けた。

 列車が通過したみたいに、一拍遅れて風がごうと唸った。


 空振りして体勢を崩した人型をフォローするように、もう一匹の獣が襲いかかってくる。

 無視して人型を蹴り飛ばした。

 見た目よりもずっと重いとわかっていれば、蹴り方も変わってくる。

 人型は吹き飛んで、壁に激突した。


 蹴りの衝撃で、飛び上がり空中にいた獣がバランスを崩す。

 刀を振るい、横腹を斬りつけた。

 いや、斬ったというより殴ったというほうが正しいかもしれない。


 刃は通らず、鈍器で殴ったような感触だった。

 切り裂かれなかった獣は、衝撃を全て受け止め、蹴られた他の二体と同じように飛んでいった。


「あ」


 その先には、アマンダがいた。

 彼女は咄嗟に身構えたが……。


 俺はパッと駆け出し、吹き飛ぶ獣の尻尾を掴んだ。

 やはり見た目よりもずっと重い。

 それこそ重機と腕相撲をしているような。


 自分で吹き飛ばしておきながら、勢いに体を持っていかれそうになった。

 ぐっと踏ん張り、慣性を殺す。

 前腕に、蜘蛛の巣のような太い血管が浮かび上がる。


 酷く汚れた乱杭歯。

 頂点捕食者として、これまで多くの魔物を食い殺してきたのだろう。

 最初に蹴り飛ばした方の獣が、弾丸のような速度で、俺の喉元目掛けて迫ってくる。


 でもそれより早く、振り返ると同時に、掴んだ獣を叩きつけた。

 重い衝撃音と甲高い悲鳴。

 地面で折り重なる二匹を、まとめて蹴り飛ばす。

 壁際で立ち上がったばかりの人型に、二匹の獣が続けてぶつかり、人型はまた地面に倒れ伏した。


 逃げるならさっさと逃げて欲しい。

 そのために、わざわざ出口の近くに追いやったのだ。


 俺は別に、博愛主義者ではない。

 食べるために動物を狩ることだってあるし、襲われたら返り討ちにもする。

 でも……。


 こんな気分で戦いたくはない。

 俺に、自己防衛の大義名分を与えないでほしい。


 人型が立ち上がる。

 顔が、凶悪に歪んでいく。

 鼻と耳はなく、目と口は身体中に走る亀裂と同じで、小さな裂け目から赤黒い灯りが漏れている。


 人型が大口を開け、絶叫した。

 獣と違い、腹に響くような低音だった。

 獣のように牙はない。

 喉のずっと奥の方で、赤黒い炎が揺らめいている。


 奇妙だった。

 人型の頭には、それほどの奥行きはないはずなのに。

 まるで錯視みたいな人型の口が、地獄に続く穴のように感じた。


 どうやら、逃げる気はないらしい。


(ああ、嫌だ……)


 それを、心のどこかで喜んでしまっている自分がいる。

 25万字以上書いてきて、初めてジローの戦闘シーンをまともに書いた気がします。

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― 新着の感想 ―
ジローは観察洞察考察で相手を丸裸にしてから最後に無造作にトドメさしていきそうな印象
確かに、ジローの戦闘描写は初めてですね! 楽しみです♪
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