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第17話 託された想い


「いいの? こんなことして。私、あなたたち無視して内側の国へ行くけど?」


「へえ? どうやって入るんだよ」


「まだ、国には結界があるわよ」



 魔王は遠くを見つめ、魔力を探る。



「……ほんとだね」



「イトが4国まとめて守ってんだよ」



 魔王はため息をつく。



「あなたたち、ほんとにふざけた魔力量だね。魔王でもないのに、どうしてそんなに強いの? 本当に人間?」


「人間だよ。おまえもそうだろ?」


「私は魔王だよ。人間じゃない」


「あなたこそ、あれだけ魔力吸収したのにまだいっぱいあるじゃない。ふざけるのもたいがいにしてほしいわ」



「私は魔王だからね。何よりも強く生まれてきたの。それにしてもきりがないなあ。黄色の子も治ってるよね。また最初からからあ〜」


「あら、違う展開をお望みなら、そうしてあげるわよ」




 ゼンタはシアンの前に出る。


「もう、あたしのこと、治さなくていいから。あと、お願いね」


「……ああ」



 ゼンタはそれだけ言うと、シアンはその意味を理解し、1人魔王へと近くゼンタの背中を見つめた。



「今度はあなたが戦うの?」


「ええ、我慢比べしましょ? あたしがあなたの魔力を吸い切るのと、あたしが死ぬの、どちらが早いか」



「……いいけど、それ、無理だってわかってるよね? あなたたち、確かに魔力は大幅に増えたみたいだけど、それでもまだ私のほうが魔力多いよ」


「どうかしら」



 魔王は首をかしげながら考えた。罠の可能性が高い。だがそれでもまだ、魔王は自分のほうが上だという自信があった。

 そして「いいよ。おもしろそう」とニヤッと不敵な笑みを浮かべた。


 ロウはまだ離れたところで様子を見ているようだったし、油断しなければ不意を突かれることもないと魔王は判断したようだ。



 ゼンタは魔王の魔力の吸収を始める。



 そしてそれはすぐに始まった。


 口から血を吐き、体のいたるところが血まみれになっていく。

 魔王の魔力がゼンタの体内で暴れまわり、内側から体を蝕んでいった。



「ねえ、死ぬの、怖くないの?」


「こっ……わい、わよ……」


 話すと口から大量の血が流れたが、ゼンタはまだ立っていた。ポニーテールがほどけ、髪が顔にかかる。



「だ、けど、ねえ……、ひとり、じゃ、ない、から」


「みんなも死ぬからいいってこと? よくわからないなあ」


「そ、で…しょーね……」


 ゼンタはもう目が見えていなかった。ふらふらと揺れる体でなんとか踏ん張り、最後の力で魔王の魔力を一気に吸い取る。



「!? なっ!」



 さすがに魔王にも焦りの色が見えた。

 急激に魔力が減っていく。このままでは残りの2人を相手にできなくなる。


 そう考えた魔王は、ゼンタが死ぬのを待たずして、ゼンタの胸を砲撃した。



「……くっ……!」



 その瞬間、シアンは魔王に魔法の弾を放った。このタイミングで攻撃してくると思わなかった魔王はシールドを張り遅れ、弾が右の太ももを貫通した。



「ぎゃっ!!」



 すぐに魔王はシアンに反撃するも、シールドで防がれた。



 ゼンタは胸に穴をあけられ、その衝撃で背中から倒れた。

 その目にはもう光はなく、死んでいた。




「はあ、ようやく、1人か……」


 魔王は毒を吐くように呟いた。



「ねえ、私の足、治してよ」



 魔王は足を引きずりながら、シアンに近く。

 額には汗が滲んでいる。さっきまでの戦いを楽しむ余裕はもう微塵もないようだ。



「はっ、バカが。するわけねえだろ」


 シアンは嘲笑った。


「じゃあ、死んじゃえ」


 魔王は右手をシアンに向け、砲撃を――。




「あなたが死んでください」




 ザッ!!




「……あっ……?」





 魔王の右腕が、宙を舞った。


 魔王がシアンに気を取られている間に、ロウは気配を消し近づいていた。

 そして魔王の腕を切り落としたのだ。



「うあああっ!!!」



 魔王は体制を崩し、倒れ込む。



「へっ。何回おんなじ手に引っかかんだよ。やっぱまだ甘いな。イトと同じで、いっぺんにいろんなことに注意を払うのが苦手なんだ」



 ロウは畳み掛けるように両手に持つ剣を魔王へと振り下ろしていく。


 魔王は逃げたくてもシアンに負わされた傷で足が思うように動かない。右腕の痛みも加わり魔力操作に集中できず、シールドを張るのが精一杯だった。



 徐々にシールドのヒビが広がっていく。

 魔王はなんとか精神を落ち着かせ、反撃にでた。

 だがロウはもうシールドを張って防ぐことはせず、全魔力を攻撃にあてていた。



 そう、シアンが治しているからだ。



「あいつがいるから……」


 魔王は怒りで震えた。



 何度体に穴があいても、ロウは顔色を変えず、目を閉じたままひたすら攻撃し続けた。

 必ずシアンが治してくれるから。


 だが、もうゼンタはいない。シアンの魔力も、まもなく尽きる。



 接近戦では埒が明かないと悟った魔王は、たまらず特大の砲撃をロウにぶつけた。


 反動でロウは100メートルほど先まで飛ばされ、左腕がぐしゃりと潰れた。


 魔王はシアンへ魔法の槍を飛ばし、それを首の皮1枚のところで静止させた。



「何のマネだ?」


「はあっ、はあっ……」



 魔王は右腕の切断面を魔法の膜で覆い、なんとか止血する。



「息あがってんなあ。おこちゃまにはまだ早かったか。命がけの戦いってのは」


「う、うるさい!! 死にたくなかったら、私を治せ!!」



 ロウが血を流しながら、それでも右手に剣を持ち走って来るのが見えた。



「それ以上近くと、こいつの首を突き刺す!!」


 血走った目で、魔王はロウに怒鳴った。

 だがそれでもロウは止まらなかった。



「な、なんで……。こいつ死んでもいいの!?」



 魔王の焦りに、シアンがヒャッヒャッと笑った。


「なに!?」


「いや、あまりにも必死なんでな」


「なにがっ!!」


「やっぱおまえも、まだ死にたくねえんだろ」



 魔王は目を見開く。



 ロウがすくそこまで来ていた。

 シアンは最後の力を使い、血だらけで走ってくるロウに手を向け、傷を治した。潰れた左腕ももとに戻っていく。



「あと、頼んだぞ」


「余計なことを!!」



 魔王はギリギリ止めていた槍を、シアンの首に刺した。


 シアンはカッと目を見開くと、そのままバタリと倒れ、息絶えた。




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