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中古品

作者: 雉白書屋

 やった、やったぞ、ついに買った! セックスアンドロイドを! これでおれも人生の勝者側に立ったんだ! フォオオオオオウ!

 ありがたいありがたい。この時代に生まれたことに感謝。……いや、これは当然の流れかもしれない。未婚率上昇中の現代において婚活市場から取り残された生涯独身者という市場を、商売人たちが見逃すはずないのだ。むろん、介護や建設業界などで活躍したアンドロイド事業の下地があってこその今の状況だが、まあそれはいい。

 生涯独身者の必需品と言っていい、このセックスアンドロイド。長年、欲しくてたまらなかったのだが、安月給のおれには手が出せなかった。しかし、セールを見逃さない嗅覚よ。

 さあさあ、充電は終わったかな? ああ、待ちきれない。ご対面だ……。


「や、やあ……」


『おはようございます。ご主人様』


 お、おぉ、なんて可愛い声なんだ……。感動で胸が震える。セール品だったから声の他に見た目や性格などカスタマイズできなかったから完全に好みとは言えないが、すでに情は湧いている。そうとも湧きまくりだ。ああ、今すぐ――

 

『まず、あなたのお名前を聞かせてくれる?』


「え、ああ、ああ。ユウキで」


『ユウキさんね。じゃあ、前の名前は上書きするわね……はい、登録できたわ。それじゃ、次にあたしの名前を決めてくれる? 可愛い名前がいいなぁ』


「あ、ああ、えっと、ミイネちゃんで、ん?」


『わかったわ。はい、上書き完了したわ。じゃあ、何をしましょうか?』


「え、ん?」


『え?』


「いや、前の名前って?」


『前の所有者の名前よ』


「前、前の、まえのぉ?」


 慌ててアンドロイドが入っていた箱を見直すと、綺麗ではあるが、へこみや妙な手触り、汚れがある。まさかと思い、おれはアンドロイドを販売していたサイトをチェックした。


「なん、な、中古……?」


 クリーニング済みと書かれていたが、驚くべきことに、この女は中古品だったのだ。


『どうしたの?』


「あ、さ、触るな」


『なによ……ひどい』


「あ、あ、ごめん……動揺して。で、でも君は、他の男のものだったんだよな?」


『ええ、でもその記憶は消えてるわ』


「で、でも、さっき名前がどうとか……」


『残っていたのはそれだけ。今はあなただけよ。ユウキさん』


 とろけるような声で名前を呼ばれるとつい、ぐにゃっと顔が弛緩してしまう。しかし、このアンドロイドは中古。中古中古中古。その事実がおれの胸に深く刺さってしまっている。


「せ、セール品だけど、ま、まさか中古とは……」


『何をブツブツ言っているの? ねえ、するんでしょ?』


 と、彼女が上目遣いでおれの脛から膝、太ももへと手を這わせるが、しかし、このアンドロイドを覆っている人の肌と寸分違わない人工皮も誰かの手で触れたものに違いないのだ。

 そして、この声も仕草もすべて他の男に向けたことがあるということ、さらに、他の男にそう仕込まれたのだとしたらと思うとおれは飛び退かずにはいられなかった。


『ねえ、いったいどうしたのよ。しましょうよ』


「その積極的な感じがもう、もぉう……」


『本当にどうしたの? 急に元気なくしちゃって……ふふっ、私が元気に――』


「だから、その感じがちょっと駄目なんだ……」


『じゃあ、どうしたらいいの? 教えて? あなたの好みに合わせるから』


「おおぅ……まあ、アンドロイドとはそういうものなのだろうけど、全部そういう風に感じてしまうな……。これまでも男の好みに合わせてきた女、と」


 肝心接合部分は付け替え式で、新品も買ってあるから実質、処女と言えるが、いかんせん中古というその響きが、おれの硬くなったモノを柔らかくさせてしまう。

 しかし、返品は不可と、さっきサイトをチェックしたとき書いてあった。では、買い取り業者に頼むか。しかし、安く買い叩かれることは間違いない。ああ、なんともったいない……。ひとまず、家政婦と思ったらどうだろうか。最新のセックスアンドロイドは客のニーズに合わせ、また企業競争により大きく進歩している。本来の用途であるセックスだけではなく、汎用性が高められ、もはや疑似夫婦と言っていい。家事などもそつなくこなすが果たしてこの中古品にそういった能力はあるのだろうか。バージョンはいくつなんだ。


『ねえ、ねえ、パソコンはもういいでしょ? 一緒にお風呂入ろうよぉ』


 と、それも工程のひとつか。手慣れたものだなと皮肉を言ってやろうとしたのだが……なぜだ? 妙なことに服を脱いだ彼女を前にしたおれは服を脱ぎ捨て、そして、おれのモノと一緒に黙って頷いたのだった。


『どう? ふふふ、気持ちいいでしょう』


「あ、ああ……」


 スポンジで背中を洗ってくれる彼女。確かに上手だが、それゆえにやはり中古品と頭を過らずにはいられない。

 と、言うのも最新式は最初は不慣れで失敗もし、所有者との会話やスキンシップなどで徐々に好みなどを覚えていくらしいのだ。むろん、肝心のアッチも所有者の好みに合わせるように。初々しさを重視している。それが今の需要。そう、だからこうしておれが中古品に嫌悪感を抱くことなどおかしくないのだ。

 しかしもう、おれの「初めて」はこのアンドロイドを購入したことで消えたのだし、次に新品を買ってもそれは人生で二番目のアンドロイド。箱を開けて対面した時のあの感動はもう味わえない。こいつが初めての女。ここは妥協してもいいんじゃないだろうか。そう、可愛げもあるように思えてきたし……もう……


「……いや、それにしても君、体洗うのがうまいね」


『ふふふっ、そうでしょう。元介護用なの』


「へー……へぇ!? 介護用!?」


『そう、リサイクル品よ。ああ、ガワは違うけどね。さ、湯船につかりましょうね』


「あ、ちょ、ちょっと、老人じゃないんだから、だっこしなくても」


『いいからいいから。心配しないで。その前は工事現場用だったの。素体は強いわ』


「工事現場用!? え、中古ってそういうこと!? じゃあ、あの、君って、その、他の男に抱かれたりとかは」


『ないわ。あなたが初めての人よ』


「お、おぉぉ! やった、よおおおぉぉぉし!」


『あはは、あん、ふふふっ、ここで、す……る……の……?』


「ああ当然! う、あれ、どうしたの? ははは、き、君ってお、重いんだね。なんて、失礼かな、ははは……元工事現場用だからかな……重い……潰れちゃうって……あ、そうか、充電……あ、あ、あ……」

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