【ばからしき】妻よ、俺の小説を読め!
幕田は妻に自分の小説を読んでもらいたい。
そして、忌憚ない意見をもらって、次に繋げたい。
しかし妻は、頑なに幕田のお話を読もうとしない。
なんで読まないのか!?
幕田と妻は同い年だ。
妻は某地方都市の地域で一番頭がいい高校(バカっぽい表現)を卒業し、県外の大学に進学して幕田と出会った。ちなみに妻は受験失敗組、幕田はギリギリ合格組である。頭がいいだけあって、物事の本質を見抜くのが上手いし、発言もしっかりしている。
活字を読まないのかというと、別にそういうわけではない。ミステリーの、その中でもアガサ・クリスティーと東野圭吾しか読まない偏食家ではあるが、どちらも結構な数の作品が出回ってるし、東野圭吾に至っては現在も量産されまくっているので、月1冊程度家事の合間に読むくらいなら、全く問題ないようだ。
じゃあ、幕田がお話を書くことを疎ましく思ってるのかというと、そういうわけでもない、はず。幕田はやるべき事をしっかりやって(自称)、その空き時間で書いているのだ。何を疎ましく思う理由があろうか!!
じゃあ、ちょっとぐらい読んでくれてもいいのに、あれこれ理由をつけて読まない。いや、最近は理由すらつけてくれない。これ1000文字縛りで短いから、ちょっと読んでみてよー、と言っても、何も答えずに聞かなかった事にする。
ひどい……。
逆の立場だったら、幕田は妻の作品を読みまくって、色々感想を言いまくるだろうに……。
なんで読んでくれないのか、色々考えて、一つ仮説を立てた。
前提として、妻は幕田に対して正直であろうとしてくれる。幕田の発言や行動に対し、ダメな時はダメってはっきり言うし、それでいて言い争いにならないよう気を遣ってくれてる節もある。
読まない理由は、おそらくそこにある。
妻はきっと、幕田のお話を読み、言い争いになる事を避けようとしてくれているのだ。
仮に幕田の作品を読んだとして、妻は忖度しない感想を述べるだろう。幕田に対してはいつも正直でいる、それが妻のスタンスだからだ。きっと面白かったところよりも、気になったところが多く目につくだろう。それを言葉を選びながら、幕田に伝えようとしてくれるはずだ。それはかなりの労力を伴う。
そして、それを受けた幕田はどうだ? きっと受け入れるところは素直に受け入れる。でも、こと自分のお話の事になると、ついつい熱くなってしまうところだってあるはずだ。
ここはこういう意図があっての表現なの!とか。
この時の登場人物はこういう感情で動いてたの!とか。
第三者からの感想は素直に受け入れようと思う。けれど、容易に意見を言い合える気の置けない仲であれば、解釈違いに対して全く反論しない自信は幕田にはない。
妻は幕田が頑張って書いていることを知っている。
だから出来るだけ褒めてあげたい。
でも彼女が持つ正直さが、そうさせない……。
もう、そう言う事にしておこう。
でもまぁ、そんな妻だからこそ、幕田は宇宙で一番の信頼を寄せているのである。
どこまで精進すれば、幕田のお話は妻のお眼鏡に叶うのか。
そして幕田自身は、妻に何を言われても素直に受け入れられるほど、自分の作品に自信を持てるのか。
妻にお話を読んでもらう。
それを、幕田の創作人生の最終目標として掲げてもいいのかもしれない。
幕田が死んだあと、ふとPCのお気に入りを開いた妻が、ここに書き溜められた幕田のお話に気付き、新しいものから順に読み進めていく。
そんな未来を想像すると、それも案外悪くないんじゃないかな、と思ってしまった。




