古本屋店員時代の思い出【仕事編】
幕田は大学1年の夏から3年の夏にかけて、某古本チェーン店でバイトしていた。
社名は伏せるが、なんか黄色っぽい看板で、本を持ったテキトーな顔の奴がイメージキャラになってる会社だ。
週4回くらいで、平日は18時〜21時くらい、土日は13時〜21時くらいだった気がする。もうちょっと長かったかな? 記憶が曖昧だ。
主な仕事は、お客さんが売りに来た本を査定し、綺麗に磨き上げて棚に出す事。そして買いに来たお客さんのレジ打ちとか、色々。幕田は本を出すのが好きだったので、カートに本を詰めて売り場内をうろうろしていた記憶が色濃く残っている。
古本屋でバイトして良かったのは、作家の名前や、どんな出版社でどんな本を出しているのかが、いやがおうにも頭に入ってくることだ。
もう20年前の事なので今は本の品揃えもすっかり変わってしまったが、当時はその辺の情報が全部インプットされていて、古本屋巡りをする時に重宝した。
「あの作家の本は、このタイトルの本がこの出版社で出ているはず!」
本を探すのがめっちゃ早くなった。
それともう一つは、古本として出回ってる本の『レア度』がわかるようになった事だ。
当時もお金がなかった幕田は、小説もマンガも100円のものを買う、という縛りプレイを自らに課していた。
売りに出される事が多い流行作家の本なんかは、在庫が溜まりまくっているため100円に値下げされ、比較的容易に購入できる。
その反面、あまり出回っていない本は、あまり100円まで落ちてこない。
しかし、だ。
古本チェーン店の査定というのはシンプルなもので『年代が古い』『汚れている』ものは基本100円売りされている場合が多い。
そのためごく稀に、ほとんど出回っていない本なのに、少し汚れてるから100円で売られている事がある。
これが、幕田にとっての『レア本』なのだ。
このレア本を探す事に、幕田は喜びを見出していた。旅先で古本屋を見つければ必ず中を覗き、あまり出回ってない100円本を見つけて狂喜乱舞する。
宝探し的な喜びがそこにはあった。
それと、よくある話ではあるけれど、社員価格で店の本をちょっと安く買える。
そのため、幕田のバイト代は必要経費以外は漫画と小説に消えていった。アパートの壁沿いには漫画や小説が大量に積み上げられ、友人達の暇つぶしの場として機能するようになっていった。
でも流石に、エロいやつを職場で買うことは出来なかった……。
今しみじみと、あの頃を思い返す。
あの若かりしころ、バイトで仕入れて読み漁った漫画や小説達が、今の自分の糧になっていると幕田は確信している。
はたから見れば、本が散らかった部屋で過ごす陰気でどうしようもない青春だろうが、あの頃の自分がいなければ、今の自分は絶対に存在していないだろう。
仕事に疲れた夜に、昔を懐かしみながらこんな駄文を書き連ねる事で明日への活力を得るような、妙ちくりんな人間は生まれなかっただろう。
ああ、古本屋店員時代……
それは幕田にとってかけがえのない、青春の1ページなのだ。
次は【人間関係編】です!




