幕開け
次の日から早速、計画は進められた。実行するのは一ヶ月後になった。
一ヶ月後にある議題のためにホールデン王国各地の領主が王都に召集されるらしい。そのため国の警備隊などの戦力が王都に集中するのを狙い目とみたらしい。
共成会は大々的には支援できない。その代わり武器と食糧の提供はあるが、人間の国まではやはり俺一人で、ノックスとフーシャ、その他二人の計四人の子供を護衛し送り届けることになるそうだ。
「こういうのって訓練とかが必要では……」
「大丈夫です。この武器は少し練習すれば、すぐに扱えるようになります」
そう手渡されたのは拳銃だった。あいにくそう言う趣味はもっていなかったので、種類までは分からない。こんな物騒なものを手にしているのに、なぜかワクワクしている自分に人間の恐ろしさを感じた。
「これは先の戦争の際に戦利品として押収された人間文明の武器です。アサヒさんもご存じでしょう」
「はい、ただ少し練習するだけで使い物になるとは思いませんが」
「そこはご心配なく、それには魔法が付与してあります。私どももこの武器の扱いには苦労しまして、魔法によって補助することで誰にでも扱える武器にしたのです」
「補助って言っても……」
「ではあそこに飛んでいるバカドリを撃ってみてください。今日の晩御飯にしましょう」
「えっ、バカドリって食べれるんですか!?」
「えぇ、美味です。ですから」
俺は素人だ。飛んでいる鳥を撃ち落とせるはずがないが……物は試しだ。やってみよう。
パンッ!
「え、普通にハズレましたけど」
「では次は『チェイス』と唱えながら撃ってみて下さい」
少し恥ずかしい気もしたがここは異世界だ、気にしない。
「チェイス!」 パンッ!
これは凄い。放った銃弾がバカドリを進路を変えつつ追っている。
ギャハッ!ケタケタ……
命中。死に際まで笑ってあがる。
「お見事です、アサヒさん。この他にもいくつかサポート機能のための魔法を付与していますのでご心配なさらずとも大丈夫です」
「たしかに、これなら何とかなりそうです」
計画への準備が進められて1週間が経った。子供たちにはまだ計画のことは伝えていない。余計なストレスをかけたくないのと、計画が外部に漏れるリスクを少しでも軽減しておきたかったのが理由だ。
「アサヒ〜、またそれ吸ってんのかよ」
「またってそんなに吸ってないだろ?」
「それクサいんだよ〜」
「まぁたしかに、そうだよな」
ノックスは人懐っこいやつだ。よく俺の隣に座っては、少し生意気に話しかけてくる。
「なぁノックス、おまえのお父さんとかお母さんってどんな人なんだ」
「そうだな〜、父ちゃんは強い。母ちゃんは優しい。兄ちゃんは賢い。って感じだな」
「お兄さんがいるのか。じゃあ、フーシャとノックスのお兄ちゃんの三人兄弟か」
「いや、フーシャは本当の妹じゃないよ。こっちに来てから知り合ったんだ」
これは初耳だった。すっかり本当の兄妹だと思っていた。
「フーシャはさぁ、多分俺より酷い目にあってるんだ。家族のことは俺にも全く喋らないし、よく夜泣きするんだ。もうあいつ10歳なのに」
「……そうか」
「だからさぁ、俺はできるならフーシャには家族の元に戻してあげたい。生きてるのかわからないけど」
俺はこいつ達をなんとしても家族の元へ届けたい。
「いつか、絶対家族の元へ帰ろう。お前もフーシャも他の皆んなも」
「うん、そうだな!」
次の日の朝、ミールさんが険しい顔をしてこう言った。
「アサヒさん、計画の実行を前倒しする必要が出てきました」
「ん?なぜですか」
「王都会議の議題に緊急性が出来たらしく、父も含め各地の領主への召集が早まったという事です」
「なにか少し胸騒ぎがしますね」
「えぇ、噂によるとホールデン王国と人間の国の間にある樹海で亜人の不審死が相次いでいるということです」
ホールデン王国と人間の国の間には樹海があり、この樹海が亜人族と魔族にとっての障壁となった。そして俺たちはこれからこの樹海を通って人間の国へと向かう計画を立てている。
計画しているルート上で物騒な事件が起こっているのは不穏だ。
「しかし計画の前倒しとなると、まずは子供たちにもそろそろ話しておかないといけませんね」
「えぇ、その事については私から話します」
「いや、俺に伝えさせてください。これから行動をともにするんだ、俺の口から伝えたい」
「わかりました、父からの情報では王都会議は三日後。明日には伝えてしまわねば」
三日後にはここを出発し人間の国へ向かう。子供たちもそうだが、俺自身も心の準備をしっかりしとかないと。
バカドリのおかげでこっちでは早寝早起き。今日もいたって健康的な時間に目が覚めた。
外に出てタバコに火をつける。
スーーッ
「ふぅ〜〜〜」
タバコを吸ってると十分があっという間だ。二本目に火をつける。
「おはよ〜、アサヒ」
「おはようございます、アサヒさん」
「おう、アサヒ、フーシャ。おはよう」
「ミールさんがそろそろ朝ご飯ができると言っていましたよ」
「そうか、じゃあ食べようか」
朝食の時間は一瞬に感じた。皆んなが食べ終わるのを待って、俺は話し始めた。
「みんな、少しいいかな」
「なんだよ〜」
「どうかしましたか?」
「皆んな人間の国へ帰ろう。家族の元へ帰ろう。皆んなでだ」
「帰るってどうやって?ミールさんも無理だって言ってたじゃん」
「事情が変わった。俺は人間だから上手くやればお前たちを家族の元へ返す事ができる」
「帰れるのは嬉しいけど、本当に大丈夫なのか?」
「アサヒさん、ノックスと私は大丈夫だけど、リンスもページもまだ小さいから……」
確かに小さい二人は不安要素だが、それも踏まえて計画はしている。
「あぁ、それも分かってる。だから言ってるだろ?"皆んなで"って」
「本当ですか?」
「うん、帰ろう」
しっかり子供たちに説明でき、肩の荷が降りた。リンスとページの幼い組は理解できていないかもしれない。でもノックスは嬉しそうにしていた。気がかりなのはフーシャだった。
「アサヒさん、ありがとうございます。これであとは明後日の出発を待つだけですね」
「はい、ミールさん。ただフーシャの表情が少しひっかかって」
「あの子は母親と一緒にいるところを攫われています。おそらく母親はもう生きてはいないでしょう」
「そんな……」
「ただ一度だけ話してくれたことから推察するに、向こうへ帰れば父親は健在なはずです」
「そうですか。せめて父親には再会させてあげたいです。必ず」
子供たちも各々荷物をまとめた。この頃にはすっかり銃の扱いにもなれて、魔法に頼らずとも止まっているものへの命中率は上がっていた。
そして俺たちは出発当日を迎える。
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