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最終話 そして循環(元通り)へ?

 目の前の金の海に俺の意識は溶けていた。

 無数の白い泡粒が生まれては常に天へ登り消えていく。

 同じように、今日の出来事が脳裏にふわりと浮かんでは消える。


「おい、大丈夫か。ビール温くなるぞ」


 親友、横槍 敦盛(よこやり あつもり)の声に、俺の意識は目の前のビールから現実に引き戻された。


「ああ、ごめん……」

「三年たつけど、やっぱり教師って忙しいんだろ?疲れてないか?」

「そうだな。毎日キツイわ。でもお前もだろ?皆同じだよ」


 つまみを食べ、ビールで流し込みながらお互いを労りあう。敦盛はちょっと遠い目をした。


「……本当に辛かったよ……。でもやっと帰ってこれた。もう勘弁だわ」


 敦盛は、入社2年目で遠方に転勤させられていた。二年間頑張って勤め上げ、今回無事異動願いを受理されて地元に戻ってきたのだ。

 今日はその祝いで2人で飲む約束をして、馴染みの居酒屋に来ていた。


「お前の彼女さんも偉いよなぁ。2年遠距離恋愛だったもんな」

「そうなんだよ。アイツに感謝しかない……もうさ、決めちゃおうかと思って」

「え!?」

「うちの会社、結婚してると転勤の確率すげー下がるの」

「……マジで!? おめでとう!!」

「まだ誰にも話してないんで内緒な。おめでとうはプロポーズ成功したら頼むわ」


 俺は敦盛の言葉にぐっと喜びを噛み締めた。

 このちょっとイケメンな幼馴染は、まだ俺の事を親友と思ってくれているらしい。

 暫くぶりに会ったがこういう大事なことを一番に話してくれる仲なのだ。


「……勿論だよ! お前ならプロポーズ成功するに決まってるし」

「はは、あんがと。そっちはどうなん?」

「え?」

「いや、だから陽斗(はると)の方は? あの時はさ、ちょうど俺の転勤が重なったから何のフォローも出来なくて悪かったなと思って」


 あの時……つまり一昨年、俺が大学生の時からつきあっていた彼女にフラれた事を言ってるんだろうな。


「気にすんなよ。それにあの時は結構皆が同情してくれて、キャバクラとかも奢ってくれたから割と早く回復したよ」

「お、キャバクラ、お前ハマりそう」

「ハマってないし! しょっちゅう営業メール来てウザいし。行く暇もねーよ」

「ほう。行く暇もないねえ……女子高生(JK)の彼女でも出来たか?」


 敦盛はニヤリとした。


「ははは。出来るわけねぇ~。俺がモテないの知ってるだろ」

「いやいや、わからんぞー。意外とお前みたいなのに思いを寄せる文学少女的な存在も居るかもしれん」

「ないない。ていうかそんな目で見られない。何だったら悪寒までするね」

「悪寒は言い過ぎだろ」

「うーん、正直さ、最初教職に付くと決まった時は眼福(がんぷく)くらいはちょっと期待してたわけよ」

「ん? 眼福?」

「JK見放題じゃん。俺らが高校の時、スカート短い女子とか見てパンツ見えねえかなとか内心ワクワクしたじゃん?」

「おー、してたな。眼福ってそういう意味か」

「だけどさぁ。いざ俺が教師の立場になった時、瑞希が現役JKだったし」

「あぁ、興嗣のひとつ下だからそうか」

「俺の妹と同じなんだなとか思ったらさぁ、……スンッてなっちまってさぁ」

「……なるほど、わからんでもない」


 スンッの意味をわかってくれて良かった。流石は親友。


「でさぁ、その時に千早もJCだったんだよな。アイツもすぐにJKになるんだと思ったら……」

「思ったら?」

「なんか世のJKが皆、小学生の時の千早とカブって見えてきちゃって、パンチラとか脇チラとか、ワクワクどころか隠しなさい!!って言いたくなっちゃってさ……」

「ゴブフォッ」


 敦盛が飲んでいたビールを吹いた。


「おい、大丈夫か」

「大丈夫、大丈夫…………お前、マジでそれ、孫を見るおじいちゃん目線じゃねえか」

「おじいちゃんは勘弁して。せめて教師の(かがみ)と言ってくれ」


 俺は敦盛が吹いたビールをおしぼりで拭きながら反論するが、俺自身も否定はできない。

 まあ、おじいちゃん目線のおかげで教師としては絶対に道を誤らなくなったので、そう言う意味では千早に感謝すべきだろう。

 問題はその千早が何かと俺に絡もうとする事だけだ。


「千早と言えば……アイツも唯の女の子だったんだなぁ」

「ん? 何それ詳しく」


 本当なら職場で知った事をべらべら喋るのは守秘義務違反になるが、千早の実の兄で成人している敦盛なら保護者へ報告した扱いと同じだから、ギリギリセーフだろう。

 何より恋愛経験が少ない俺が、一人で抱えるにはちょっとキツイ。

 俺は放課後に見たものを敦盛に話した。


「うわ……またかよ……」


 顔を抑えて天を仰ぐ敦盛。


「え、またって」

「俺は地方に飛ばされてたから興嗣や母さん経由で聞いててさ、あんまりよく知らないんだけど、千早、一昨年ダイエットしたんだよ」

「うん、そうだったな」

「自分で言うのも恥ずかしいが……うちの妹、めちゃくちゃ可愛くなってない?」

「ブフッ」


 今度は俺が軽くビールを吹いた。このシスコンめ。


「……まあ。良い方に変わった事は否定はしないが」

「だろ~? で、なんかオタク仲間の男に次々告白されて、男が信用できないってなって、一時期荒れてたらしいんだよね」

「ふーん。俺だったらモテたら嬉しいけどな」

「まあそこは男と女とは違うだろ」


 敦盛の言葉に無言で頷く。確かにそうだ。男は不特定多数の女にモテて(それがよほど嫌悪感を抱くような女でなければ)嬉しいが、女性は自分の好みのタイプ以外にモテるのは嫌がると聞いた事がある。

 さっきの千早の言葉を考えれば迷惑以外の何物でもないんだろう。


「千早も難儀だな。好きな男がアイツじゃなけりゃ良かったのに」


 つまみを食いながらそんな事を言ったら、敦盛はぎょっとした顔を見せる。


「えっ。お前、今何て言った」

「いや、だからさ……」


 あ、これは流石にマズイか。千早の長年の片想い相手が白馬だと、勝手にその兄に伝えるのはどうなんだ。


「……誰が千早の好きな男か話の流れでわかってくれよ」


 精一杯伝わるように遠回しに言うと、敦盛は不思議そうにこう言う。


「いや、前に千早から聞いて知ってるけど」

「知ってるのかよ! じゃあ俺の言う事わかるだろ」

「すまんが全然わからん」


 俺は敦盛と顔を見合わせた。

 なんか物凄く変な空気が流れている。


「陽斗……飲み直すか」

「うん、そうだな。俺ちょっとトイレ行ってくるわ」


 俺は目の前のジョッキを空け、席を立った。

 俺が消えた後に敦盛がテーブルに突っ伏して


「陽斗の奴、どんだけ鈍感なんだよ……!!」


 と、愚痴っていたのは知る由もない。


 ~・~・~・~・~


 翌日。

 俺は二日酔いの痛みと闘っていた。

 あの後メチャクチャ敦盛に飲まされて、なんか「二年半我慢しろ、そうすれば可愛い彼女ができるから!」みたいな事を力説されていたのだ。

 なんだそれ。二年半待てば俺にもモテモテの異能の力でも目覚めるとか? 馬鹿馬鹿しい。


「セーンセ! デュエルしよーよ!」


 千早が勢いよく準備室のドアを開けた。ドアのガラガラ、ピシャーン!という音が頭に響いて最悪だ。死ぬ。

 しかもデュエルって、お前そんな「磯●~野球やろーぜー」みたいなノリで学校内で言うな。


「……いや、しませんし……なんでデュエルですか……」

「ほら、遊●王ってアプリもあるじゃん? センセーとフレンドになれば、一緒にいなくても対戦できるって気がついてさ!」

「そんなのとっくの昔に引退しましたし……」


 ていうか一緒に居るとか対戦するのを前提に話すなよ。頭痛い。


「昔のカードもいっぱいあるから、引退組もアプリで戻ってきてるんだよ~。アタシも無課金だから同じぐらいの強さだと思うし。ちょーどいいっしょ?」


 いいっしょ? じゃねえ!

 なんだよ、まるで昨日の修羅場が無かったように会話するのは何なんだ。

 いや、俺はたまたま出くわした部外者だから、昨日の事を引きずられても困るけどさ。

 こんな何にも無かったような……ぐるぐる回る世界の輪のひとつに戻された!第6部完!みたいなのは流石に違和感を覚えるぞ。


 しかし千早はすぐ近くまで来て、しゃがみこんで俺を見上げる。


「………だめ?」


 あれ、俺やっぱりぐるぐるとタイムリープでもしてる?

 昨日同じ事があったよな。

 また悪寒がゾワゾワッと……

 ……。

 …………。

 ………………。


 しない……だ……と?

 いやいやいや、おかしいだろ。相手は千早だぞ!

 猫のような、小学生男子のような千早!

 昨日は唯の15歳の女の子の部分を見ちゃったけども!!

 今見たら猫のような瞳がキラキラしてて綺麗だけども!!!

 あと、ホントはその人造人間●●号みたいな髪型も俺の好みど真ん中だけども!!!!


「アハハッ、センセーお酒臭い!顔真っ赤だし」


 千早がクシャリと顔を崩す。


「……きっ、昨日は敦盛に飲まされてだな。もうあんな飲み方はやめとけって言っとけ」

「うんわかった! あ、センセー」


 千早が立ち上がって言う。


「なんだ」

「アタシ、もうちょっと勉強頑張るね。他の教科も。センセーに認められたいし」

「おう、それは良いな」

「今まで頑張ったから、あと二年ちょっとくらい頑張れるし。諦めたくないから」

「……? おう、頑張れよ。応援するぞ」


 なにを諦めないのかよくわからんが、進路かな。勉強を頑張るなら良いことだ。よし。

 そう思って応援すると言ったが、千早は目をぱちくりとさせた。


「応援……?……ふふっ。やっぱり白馬の言った通り(バレてないん)だ」


 ずきり。

 ……ん? なんだ今の。


「いいから。もう授業始まるぞ」

「はーい。また後で来るね♪」

「いや、今日はもう来なくていいから!」


 立ち去る千早に慌てて声をかける。聞こえただろうか。

 今日はもう本当に来て欲しくない。

 だって二日酔いが酷いんだ。


 さっき千早が笑顔で白馬の名前を出した時、ずきりとしたのも二日酔いのせいに違いない。


「……保健室に薬あるかな」


 俺は立ち上がり、準備室から一歩踏み出した。



これにて完結です。

最後までお付き合い下さった方々全てにお礼申し上げます。ありがとうございました。


実はこの話は5人組グループの話の番外編のような位置付けでして、そのうちまた真実が主役で千早も出てくる話を投稿するつもりです。

その時は宜しくお願い致します。

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[良い点] >ワクワクどころか隠しなさい うんうん、こういう理性をきちんと持っている男は、余計にその理性を崩したくなりますよね♡ わかる♡ グズグズで、口ばっかりいい子ちゃんな男より、心底『めっ!』…
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