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わりと良くある?女子高生の一日

千早サイドです。


結構長くなってしまいました。

しかも終わりません。ごめんなさい。


挿絵(By みてみん)


「はい。じゃあ今日の日直の人、クラス全員の課題を纏めて後で持ってきて下さい」


 "遠山センセー"が授業を終えて出ていった中休み。

 ザワついた教室の中、大竹が声をかけてきた。


「横槍! 今日も放課後遊ぶだろ?」

「オケ! んじゃね!」


 なんかまだ何か言いたそうだったけどアタシは日直のところに行く。

 今日の日直で真実とペアを組んでいる男子は、オタクの田中。

 オタクと言うから入学式直後に声をかけてみたんだけど、アタシとは全く話が合わなかった。しかしコイツのツボはなんとなく知っている。


「おい田中」

「ひっ……は、はい」

「何ビビってんだよ。良いからさっさと課題集めなよ。持ってってやるし。あと良いもん見せてやるから」

「やっ……でも、皆が協力してくれないし……」


 モゴモゴ言う。ホントにオタクっていっても千差万別だよねえ。

 遠山センセーとは全然違う。

 まあ、遠山センセーは「自分はオタクじゃなくてインドア系男子だ!」って言い張ってるけど。明確な違いがわかんない。

 オタクの何が悪いの?


 すう、と息を胸にいれ、大声を出す。

「ごめーん、課題まだの人出してくれるー!?」


 ちょっとハズかったけど、それまで未提出の人達が田中と真実の所に集まって出してくれた。

 皆ちょーイイ人~。小学中学ではヤな奴も居たけど流石に高校生になると大人になるのかな?


「ちはやちゃん、ありがとっ……」


 真実が手に課題の束を抱えて駆け寄ってくる。

 硝子玉のような薄い茶色の瞳が眼鏡越しでもキラキラしている。普段は恥ずかしがり屋の癖に、お礼の時は絶対にまっすぐにアタシの目を見て言うちょーイイコなの。あ~、もう可愛いッ!ラブ!


「ぜーんぜん? こんなの」


 真実の横の壁に手をついて囲う様にする。所謂壁ドンってヤツ。


「大好きな真実の為だし?」

「ちっ、ちはやちゃ……」


 真実はモジモジした。白い首に朱がのぼって綺麗。

 後ろで「ぐふっ……ありがとうございます」と田中が言うのが聞こえる。"良いもん見せてやる"って約束は果たしたぞ。

 アタシの方が真実より背が低いから絵になんないかと思うが、田中に言わせるとそれが逆に良いんだって。よくわかんない。


「横槍。塚見さん困ってるだろ」


 白馬の声が斜め後ろ上方から降ってくる。

 いつの間に距離を詰めたんだコイツ。ホントジャマなんだから~。


「困らせてないです~。アタシと真実はラブだから!」


 白馬に見せつけるようにワザとくっつく。真実がアタシの腕の中で更にモジモジする。

 かっわいいー。昔、敦兄(あつにい)達がやってたゲームに出てくるエルフの女の子にもちょっと似ててちょーラブい。


 小学生の時はこの可愛さに何故気づかなかったのかな~。

 あの頃からこうやって毎日くっついていれば、真実も今頃免疫がついて照れたりしなかったかもしれないのに。

 あ、そもそもあの時のアタシがレズるキャラじゃなかったわ。


「真実だーいすき♪」

「ちっちはやちゃんっ、私、これを出さなきゃ」

「いいよ、アタシ持ってくから」


 真実の肩口に顔を寄せる。マスカラを塗ったアタシの睫毛が真実の首筋の辺りに触れた。


「きゃっ」

「……ぐはっ、尊っ」


 焦る真実が小声を出すのと、後ろで田中がなんか言うのがほぼ同時だったが、その直後に白馬が他の人に聞こえないくらいの囁き声で言う。


「その『大好き』って素直さを他の人にも出したら?」

「!?」

「上目遣いで言えば普段とのギャップで意外と落ちたりして」

「!?!?……馬鹿! ヘンタイ!」

「変態はやめてくれないかな~。俺にそんなこというの横槍だけなんだが?」


 やめろと言う割に全然困ってない風に笑う白馬。

 ヤバい。変な事を言われて今度はアタシが赤くなってる気がする。顔が熱い。


 どうもコイツは苦手だ。……基本的にはイイ奴だよ? 昔から他の男子とは違ってて落ち着いてるし頭もいいし、紳士とか言われて女子にモテるけど、なんかヘンなんだ。

 いつの間にかアタシの『秘密』もバレてるし。


 あと真実に関してはマジ変態。

 真実本人の前ではそれこそ紳士的な態度だし「塚見さん」呼びで、男友達としての距離と節度を保ってる。

 だけど影でこっそり「真実」呼びするわ、真実に似てる絵を見てコーフンするわ(一度、その現場に遭遇してドン引きした)、他にも諸々ホントにヤッッッッバい奴なの!!


 アタシは真実と田中から課題を引ったくるようにして抱え、白馬を睨み付ける。


「アタシ、これ出してくるから。その間に真実に変な事しないでよ!?」

「変な事って何?」

「ちはやちゃん!」


 変な事が何かわかってて微笑――――他の人には微笑に見えるだろうけど、アタシにはニヤニヤ笑いにしか見えない――――を顔に貼り付けた白馬と、ちょっと赤くなってる真実を置いていくのは二人きりならキケンすぎる。

 だけど、皆が居る教室なら大丈夫だろう。アタシは準備室まで早足で向かう。


 "「その『大好き』って素直さを他の人にも出したら?」"

 "「上目遣いで言えば普段とのギャップで意外と落ちたりして」"


 さっきの白馬の囁きが頭の中でグルっグルしている。

 素直ってなんだっけ。アタシ、素直なほうだと思うんだけど。

 そんな事を思いながら準備室をノックして扉を開ける。


「失礼しま~す!」


 椅子に座ったままこちらを振り返った遠山センセーの眉間にシワが寄っている。


「……横槍さん? 君には頼んでいなかったが?」


 想像もしなかった絶対零度の冷たさに、ドキンと心臓が跳ねる。

 ……やべっ。センセー怒ってる?

 何か言わなきゃと思うが、軽口を叩ける雰囲気じゃない。センセーのデスクに近づくまでのわずかな距離、結果無言になってしまった。


 ……素直! 上目遣い!


 何故か優等生で通っている白馬の言葉が、この場は正しいような気がした。

 課題をドサリと置き、開いた手をデスクにつく。

 上目遣いって、センセー座ってるから無理じゃん!  えっと……。

 その場でしゃがんで見上げてみる。


「……(アタシが持って来ちゃ)だめ(なのセンセー)?」


 あっ、しまった。なんか言葉が足りなかったカモ?


 遠山センセー=陽兄(はるにい)ちゃんは、目を白黒させてオバケでも見たかのような表情をした後、ふっか~~く息を吐いて言う。


「……うーわ。凄い鳥肌たったんだけど。」


 と、トリハダ?


「えっなにそれ。キモいってこと?」


 あ、思わず素の言葉がポロって出ちゃった。


「キモいなんて言葉、決して他人に使わない主義なので」


 陽兄ちゃんはなんかカッコつけた感じで言ってるけど、別に全然カッコいいセリフじゃないし。あとフォローとしてはびみょ~。


「えー、それキモいって言ってるよね?」


 もうちょっとツッコんでみたら、陽兄ちゃんは更に『キリッ』って感じで言う。


「言ってませんが、あまり気持ちの良いものではないかな」


 なにそれ~、陽兄ちゃんてば面白カワイイ!


「キモいんじゃーん!!」


 ()は気持ち良く笑った。

 ……あれ? 面白いのは良いけど、素直に言ったら落ちるっていう白馬の話は?

 やっぱりアイツ信用なんないわ。


「……チッ、全然違うじゃん。死ねよあの変態紳士」


 私の呟きに、教師の顔を崩さないようにしていた筈の陽兄ちゃんが反応する。


「いや、なんだその"変態紳士"ってのは。あと死ねとかはよくな……」


 ちょうどイイ! 遠山のおじさんから某神漫画全巻を貰って4部を読んだときから、アイツの変態ぶりはまるで吉良●影だと思ってたの!

 白馬本人も認めてるから今話そっ!


「知りたい? 知りたいよね? あのね……」


 ~・~・~・~・~


 放課後、一応準備室を覗いたけど誰もいなかった。

 さっきの話がいまいち盛り上がらなかったので、帰るまでにもしセンセーに会えたらいいなと思って付箋にメモを残す。


 真実の部活がある時はいつも、アタシはどこか校内をブラブラして、一緒に帰るのが日課だ。

 今日は大竹と教室で遊ぶ約束をしていた。

 1年2組の教室に戻ろうとした時、黒髪をポニテに結んだTシャツジャージ姿の美少女がこちらにくる。


「チハちゃん~!」

那紗(なさ)っち、おつ~。ジャージでもカワイイね!」

「やだもう、チハちゃんたら~」


 口ではやだもうって言ってるが、全く動じてないのは生まれた頃から言われ慣れてる生粋の美少女だからか。うらやまっ☆

 隣のクラスの那紗っち――――小笠原 那紗はアタシの仲良しグループ5人組の一人。

 まぁ5人組っていうか、白馬ともう一人のダチ、進堂 翔太朗(しんどうしょうたろう)と那紗っちの3人組の幼馴染の所に、アタシと真実が強引に入れられたんだよね。主に変態紳士(はくば)のせいで。


「あれ? 進堂は?」


 いっつも那紗っちにくっついてる、ザ·用心棒的な進堂が居ないのでちょっと意外なカンジ。


「体育館で練習中! 私、水分忘れてたから抜けて買ってきたの」


 ペットボトルを手に、顔の汗をキラリとさせて微笑む那紗っち。真実とは全く違うタイプだけどマジ芸能人かと思うほど可愛い。

 あ、今、横を通りすぎた三年の先輩がデレデレして見てた。だよね~。わかる~。


「二人とも稽古の無い日も自主練とかマジ偉くない?」

「ううん、楽しいから! あ、今日一緒に帰れる?」

「おっけ! 真実も白馬も一緒の予定だから5人で帰ろ!」

「嬉しい♪ じゃあ終わったら教室に行くね!」


 那紗っちは手を振って走っていった。

 ……素直で可愛いっていうの、あーいうのなんだろーなぁ。

 まぁ那紗っちも昔は色々あってツンツンしてたけど。

 でもスッピンであの顔面レベルならどんな態度でもモテまくるもん。可愛いは正義! だね。


 ~・~・~・~・~


 1年2組の教室。

 アタシは大竹とカードゲームで対戦をしていた。


「攻撃力3800で攻撃! どれかでブロックする?」


 大竹がニヤッとして言う。こちらは攻撃、守備力ともに小粒のモンスターしかいない。

 アタシのライフも残りわずか。大竹は押しきれると考え、自分のモンスターを最大まで強化(バフ)をして突っ込ませてきた。

 でも甘いな。


「はーい。カードオープンします。」

「げっ、それハッタリじゃなかったのか!」


 ずっとギリギリまで伏せ続けていたカードを開き、大竹のモンスターを破壊する。

 こちらのターンになり、弱いモンスター達に強化をかけて数で押しきる。


「ぐわー、負けたー。そのカードずりー。」

「ふっふっふ。またいつでも来るがよい。」


 アタシは年期の入った愛着のあるカード達を片付ける。やっぱりめっっっっちゃ楽しい!!

 大竹はオタクではなく普通の男子だけど、小学生時代にやっていたカードゲームを捨てずに取っていたという話を聞いて、最近何度か遊んでいる。


「なあ、アプリの方はやんねーの?」

「ん? まあ無課金でたまに~?」


 このゲームは数年前からアプリもあるけど、まともなデッキを組めるほどカードを揃えるには絶対課金!みたいなエグイところがある。

 だからパパやママと「無課金で遊ぶのが絶対条件! 例え120円でも課金したらスマホ解約!」という約束になった。

 なのでデッキが激弱すぎて知らない人とオンライン対戦とかは無理。


「俺も無課金! なぁ今度からアプリでやろうぜ」

「え、無理無理。流石に校内でアプリゲームしてたらマズイっしょ。最悪スマホ没収だよ?」


 まぁカードゲームもびみょ~なレベルだけどスマホアプリよりはマシだよね。


「いや、だからさ……放課後どっか行けばいいじゃん……2人で」


 大竹が目を逸らしながら言う。

 あ、これ、もしかしてヤバいんじゃ。


「えー? どっかって、そこまではナイかなー? アタシいつも真実と帰るし~!!」


 めいっぱい明るく笑顔を貼り付けて、大声で言う。

 どうしよう。これで引いてよ。ダメってわかってくれない?


「塚見は白馬がいるから問題ないだろ? それとも横槍は白馬が好きなのか?」

「は!? きもっ! ありえないし! なんであんな!」


 キモイキモイキモイ。思わず吐き捨てるように言うと、大竹はガッツリ目を合わせてきた。


「俺、横槍が好きだ。つきあってよ」


 ……やっぱり。どうしよう。どうすればいい?

 中学の時は、それまで仲良くしていたオタク仲間の男が何人もアタシを好きだっていったり触ってこようとしていた。

 派手なメイクでギャルっぽく振る舞えば、そいつらはビビって黙って逃げた。

 でもこの見た目や態度でも好きって言われたのは初めてだ。


「俺、高校から一緒だからまだ短いけどさ」


 そうだよ! 短いよ。アタシなんかずっと……


「横槍と一緒だと楽しいし、話も合うし、気も使わないし」


 そんなのアタシだって同じことをあの人に思ってるよ!


「……無理」

「何が無理? そりゃ俺は白馬に比べたら……」


 もう、無理だ。だって理由は絶対に誰にも話せない。曖昧なまま断っても納得しないだろう。

 大竹と遊ぶのは楽しかったけど、これで終わりだ。嫌われよう。

 そう覚悟を決めたら、なんかヘンなスイッチが入った。


「比べたら? 何いってんの?」

「えっ」


 アタシは出来るだけ悪役顔になる。頭に浮かんでいるのは忍者漫画の冷酷な敵。蛇の様に口の端を吊り上げて冷たい声を作る。


「アタシの周り、見てわかるでしょ? 白馬もそうだけど進堂も那紗っちも真実も! 皆バカみたいにモテるし成績も優秀なんだよ? カーストの一番上だよ? あんたなんかせいぜいど真ん中でしょ?」


 大竹の顔がひきつる。それを見て罪悪感を覚えるが顔には出さないで喋り続ける。


「話が合う? たまたまちょっと学校の中で遊んだだけじゃん!……そんなんでアタシとつきあえるとか? ヤッバ。超~~身の程知らずじゃん! キャハハ。自分がそんなにイケてるとか勘違い~?」


 息継ぎもせず一気に言う。

 その間に大竹の目の色が絶望から怒りに変わる。

 ――――しまった。言い過ぎた。

 大竹が身を乗り出す。2人の間の机が倒れ、中身がバサバサっとこぼれた。


「……ふざけやがって!!」


 大竹が手首を掴む。痛い。……怖い!

 思わずひっと息を呑む。

 やだ!! たすけて!――――――陽兄ちゃん!!


 ガラリと教室の後ろのドアを開けて、誰かが入ってきた。

 大竹がビクッとしてそちらを見る。アタシも手首を掴まれたまま、振り返ってそこに信じられないものを見た。


「おいおい、大竹~。外までお前の声が聞こえたよ。乱暴な男はモテないぞ」


 ――――――うそ。ほんもの?


 大竹はパッと離れた。


「遠山先生にモテないとか言われんのかよ……」


 アタシ……()……さっきの酷い言葉、聞かれた?

 思わず俯く。足元に散らばる荷物の中に、真実とお揃いで買った三毛猫の付箋があった。


 お店で一目惚れしたけど、こんな女の子らしくてカワイイの、アタシのキャラじゃないよね? って言ったら、真実は「ちはやちゃんは可愛い。すごく似合うよ」ってニッコリと言ってくれて買う勇気が出たんだった。


「横槍、平気か」


 陽兄ちゃんが私の傍まで来て、足元にしゃがんで荷物を拾い始めている。


「あーあー、もうこんなにして……。暴力は御法度だが、横槍も怒らせるような事を言ったのか~? それなら謝った方が良いぞ」


 さっきの、聞かれて……ない?


「……ごめん……なさい」

「俺に言うのは違うだろ」


 声が事務的で冷たい。

 それはその通りだ。正論だけど、そんな言い方しなくてもいいじゃん!

 涙が眼の奥から溢れてくるのがわかる。我慢したら変な声が出た。


「……ぬ……っ」


 誰のせいで、こんな我慢してると思ってるの!!

 陽兄ちゃん……違う、自分のせいだ。

 私のキャラじゃないって逃げて、告る勇気が出ないから。

 もし告って断られたら、もう自分の居心地の良い場所が無くなるから。

 ……大竹はその勇気を出したのに。


 大竹に向き直り、力の限りペコリと身体を折る。


「ごめんなさい!! 私、好きな人がいるの!!」

「えっ」「えっ」


 ―――――陽兄ちゃん。


「ずっとずっと何年も前から好きなの……。だけど、その人は私の事なんか女の子として見てくれなくて、他の女の人が好きで……」


 陽兄ちゃんが大学の時に彼女ができたって聞いて、私、その時初めて好きだってわかったの。


「……だけど諦められなかったから、つらくて……。」


 陽兄ちゃん、だいすき。

 他の男の子なんて誰も好きになれない。

 でも、私が好きって言ったら陽兄ちゃんはきっと困る。


「さっき、変に期待を持たせる答えをしたらこんな辛い気持ちを大竹も味わうかもって変に考えちゃって……だから酷いことをワザと言って大竹に嫌われれば良いかと思ったの……」

「……」

「……」


 大竹が呆然としている。私の気持ち、ちゃんと伝わった……?

 陽兄ちゃんもこっちを見てるけど、怖くてそっちは向けない。


「……話、終わった?」


 入り口からひょこりと白馬が姿を見せた。

 ……コイツ、今の全部聞いてたの?! いつから? どこから???

 ダチの癖に静観してたわけ?! 最ッ低ッー!!!!


「~~~~ッ。白馬の……馬鹿ぁ!!」


 もう殆ど出かかってた涙が、白馬に悪態をついたのをきっかけにボロボロとこぼれて止まらない。

 あったまにきた! ドカドカと足音を立てて白馬に近づく。


「なんっで……助け……ないのっ!」

「遠山先生が助けに入ったのが見えたから。俺より適任でしょ」


 適任どころか世界一最悪だよ! つい告るみたいな事言っちゃったじゃん!!

 陽兄ちゃんに私の『秘密』(気持ち)、バレてるかもしれない。ううん、絶対バレてる。


「馬鹿!! 余計な……事まで言った……じゃん!!」

「そう? 余計じゃないよ。いつも言ってるじゃん。女の子は素直な方が可愛いよって。ね?」


 私の肩にポンポンと手を置きながら、ね? と大竹に同意を求める白馬。

 なんで同意求めてんの?! 大竹は私に告ってフラれてんのに可愛いとか聞くのおかしくない?! やっぱりコイツヘンだ。変態だ!

 なんだかヘンな白馬のせいで、ちょっと涙が落ち着いてきた。


「うん、うん!……ごめんな! 横槍。今日の事は忘れてくれる?」


 意外な事に大竹は白馬に同意して話を引っ込めた。

 今は白馬の方を向いてるので大竹の顔も見えないし、よくわかんないけどとりあえず頷く。鼻水が出そうでハズい。


「じゃ、俺帰るわ! ホントにごめんな!」


 大竹は走って教室を出ていった。後に残ったのは私と、白馬と、陽兄ちゃん。陽兄ちゃんは無言で私の荷物を拾ってくれてるみたいだけど、絶対にそっちは見れない。

 なのに白馬が言う。


「先生。横槍がこんな状態なので送ってやって貰えませんか?」

「!!」

「!!」


 ビックリして上を向いた途端、もう止まったと思ってたのに最後の涙の一粒がポロリとこぼれた。


「無理!」「無理!」


 無理だよ! だって涙でメイクがぐちゃぐちゃだし、何よりも、さっきの告白をどう思われてるのか知るのが、怖い。

 陽兄ちゃんも無理っていってるじゃん!

 なんで白馬はそんな事いうわけ?!


「……あ、俺、今日予定があるんだよ。悪いな」

「なんだ。せっかく先生が横槍を送ってくれれば俺が真実と二人きりで帰れるチャンスだと思ったのにな」


 ……やっぱりコイツおかしい!! ヘン!! 絶対に真実を恋人にしちゃだめだ!!

 ()()()は白馬をどつく。


「~~~っ! こんな時までそんな事言うとか! 変態紳士通り越してサイコパスだろ!!」

「ごめん。冗談だから。真実を待って三人で帰ろう」

「だーかーらー、勝手に真実呼びすんな!!」

「本人には許可を取ってから呼ぶつもりなんだからいいじゃん」

「キモイキモイキモイー!」


「……あっ、じゃあ俺帰るから……気を付けてな」

「先生、さようなら」


 白馬に怒ることに集中してるふりをして、陽兄ちゃんを無視する。

 白馬は陽兄ちゃんに別れの挨拶をしてるけど、ニヤニヤしてる。コイツホントに最低!!

 暫くキモイを連呼し続ける。白馬が「もういいよ」って言うまで。

 やめた途端、腰が抜けてへなへなと床に座る。


「どうしよう。バレた……」

「うーん、どうだろ? バレてないと思うよ。先生その辺疎そうだし。相手は別の男だと思ってそう」

「……ほんと?」

「俺は先生の事をよく知らないけど、もしバレたならあんな平常心でいられる人?」


 アタシは首を横に振った。ホ~~ッと細く長い安堵の溜め息をつく。

 白馬は笑って、アタシの横にしゃがみこむ。


「横槍、バッカだなぁ。最初から好きな人がいるからつきあえません、って大竹に言えば良かったのに」

「だって……それでも諦められないって言われたら?」

「あのさあ、それでも諦められないなんて、そんな人少ないんだよ。俺やお前じゃあるまいし」

「……そうなの?」

「そうだよ。本当に何年もずっとずっと一人の人に片想いできるなんて、もうある意味才能だから」

「……言ってるのがアンタみたいな変態じゃなきゃ、めっちゃ感動的なセリフなのになぁ」

「うわ、ひっで」


 白馬が珍しくアハハハっと笑った。アタシも笑う。

 涙はもう乾いていた。




お読みくださりありがとうございました。

感想をお気軽に一言頂けましたら幸甚です。


次回で完結します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アタシと私。 千早ちゃん、割と口調無理(?)してるんだな、というところ、ちょっとだけ上滑りしてる感じが、意識して『武装してる』のが、すごく伝わってきました。 あー千早ちゃん、不器用なん…
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