偽物コントロール
青年が目覚めた時、彼のスマホには『偽物コントロール』という見知らぬアプリがインストールされていた。
気味が悪くて削除を試みるも失敗し、恐る恐る起動する。パッと表示されたのは、検索ボックスのようなものだった。
『ニセモノを入力してください [実行]』
何のことやらわからなかったが、昨夜店が臨時休業していたせいで食べそびれたのを思い出し、『ラーメン』と入力する。実行ボタンを押すと、突如目の前にラーメンが現れた。
青年は驚きと喜びが混ざったような感情でそれを手にする。しかし、それが食品サンプルであることに気付き、落胆する。同時に、画面に新たな表記が増えていることに気が付いた。
『ラーメン [CONTROL]』
CONTROLと書かれたボタンを押してみると、上部に未だ表示されているものと同じボックスが現れた。しかし、そこに書かれている文字は少し違う。
『人物名を入力してください [実行]』
首を捻りながら、後輩の名前を入力する。が、何も起こらない。電話して確かめようかとも思ったが、どうせこの後会うのだからと、一先ず職場へ向かう。
後輩は、普段通りに仕事をしていた。おかしいなと思ったが、『ラーメン』がここにないからかもしれないと気付き、今度は『おにぎり』と入力する。そして、先ほどと同じように名前を入力し、『おにぎり』を後輩の机に置いておいた。
昼、後輩の様子を確認すると、彼は『おにぎり』をまるで本物かのように食べていた。周りの人々は、彼を不気味そうに見ている。慌ててアプリを起動すると、後輩の名前の横に[CANCEL]ボタンがあったので、それを押す。すると後輩は途端に咳き込み始め、不思議そうに『おにぎり』を見た。
それから一日、友達や後輩に偽札の束を渡したり、『偽物』をプレゼントしたりと、『偽物コントロール』で遊んで過ごした。夜、帰宅して風呂に入り、寝る前にスマホを見る。起動した覚えもないのに、『偽物コントロール』の画面が表示されていた。
ニセモノを入力してください
ニセモノを入力してください
ニセモノを入力してください
……
実行ボタンはどこにもない。タップしてみても反応しない。じっと見ていると、やがて一つの名前が入力された。それは、青年の名前だった。
恐怖で思わずスマホを取り落とす。震えながらそれを強制終了させ、画面が真っ暗になったことを確認してから、ようやく眠りにつく。
翌日、彼の存在はこの世から消え去っていた。
実行ボタンがない=『青年』は既にニセモノである。そして、『青年』はたった一人しかいない。
『本物』がない『偽物』は、果たしてどうなってしまうのか……。
本当はもうちょっと設定詰め込みたかったけど、文字数が足りませんでした…1000字ぴったり……。