第三話 ライバルが登場しました
新しい飼い主である、新田陸くんとの初めての出会いから十日後。
改めて迎えに来た新田ファミリーにあたいは無事引き取られた。弟犬たちも既に飼い主が決まっており、数日後には旅立つ予定だとか。みんな元気でねー。
「先日はありがとうございました。教えていただいた鮎のやなに家族で行ってみましたが、とっても良かったですよ。炭火で焼く鮎も美味しかった」
「そうですか。それは良かった」
新田(お父さん)がぶりーだーさんにお礼を言っている。新田(お母さん)もぶりーだーさんに手土産を渡してるね。
陸くんはあたいを大事そうに抱っこしてくれているんだけど……、陸くんの妹(結衣っていうらしい)はまだ弟犬(末っ子の赤毛)を名残惜しそうに眺めている。ごめんね、結衣ちゃん。あたいも振り向いてもらえるように頑張るよ!
ぶりーだーさん、父ちゃん犬、母ちゃん犬、弟犬たちに見送られながら、あたいはいよいよ新天地に旅立った。
そして今世では初めてのドライブ。ここであたいは車酔いというものを生まれて初めて経験した。
前世であたいは車に強く、後部座席でのんびり昼寝できるぐらいだったのに……。あー、左右に揺れるのが非常に気持ち悪い。あたいはうぷっとなる吐き気を我慢しながら、キャリーバッグの中でぐったりしていた。
そんなあたいを陸くんが心配そうに見守ってくれている。普段はぼっち(あたいの勝手な思いこみだけど)の陸くんもこんな時には本当に優しいよね。
◆◆◆
途中車は何回か休憩を取りながら、何とか無事新田家へ到着。ふーっ、結構時間がかかったね。
ちなみに新田家が住む場所は、”緑の丘”と呼ばれる街らしい。
車の中で新田家の家族の会話を人語理解スキルで聞いていたが、どうやらこの街には、”やさいばたけ”や”ぼくじょう”、それに”かじゅえん”が多いそうだ。
途中車窓から見えた風景を前世で暮らしていた街と較べたけど、やはり緑が多い街だと思う。これは散歩も楽しみだ。ちなみにあたいの優先順位は、散歩>食事>睡眠の順番だ。
でも前世で経験した”チックン”をしていないので、まだ散歩は出来ないみたい。うーん、残念。
新田家は”電車”と呼ばれる乗り物が走っているのが見える場所で、”まんしょん”と呼ばれる、そこそこ高い建物にあった。
ブーンと音がする箱に乗って、しばらくすると扉が開く。玄関前から下の方を眺めると、人がちっちゃく見えるね。
ひとまず新田家の玄関から、あたいも陸くんに抱かれてお邪魔しまーす。廊下を通り抜け、少し大きめの部屋に入る。ここはみんなが集まる場所のようだ。
陸くんはその隣の部屋にある、金属製の大きなお部屋にあたいを優しく入れてくれた。もちろん水、ひんやり板、カリカリなど必要なものは全て準備されていた。
どうやらあたいは室内で飼われるらしい。まだちっちゃいあたいにはかなり広めのお部屋だけど、大きくなったら丁度よいかもね。ぶりーだーさんの家でおしっこの練習(あたいは前世から得意だけど)したから、トイレも問題ない。
ところであたいがまず真っ先にやらなければいけないこと、それは新田家内での順位付けだ。これは群れで生活する、あたいら犬にとっては非常に大事なことなの。
結果、飼い主である陸くんは当然一番、次はご飯をくれるお母さん、その次はあたいが三番目で、妹の結衣ちゃんは四番目、最後はお父さんかな。うん、これで決定‼
まだまだ慣れない環境なので、今日は大好きなカリカリもほんの少ししか食べられなかったけど、早く大きくなって、神様と約束した善行を積まないとね……。
あたいは長距離移動の疲れからか、お腹を上にしてぐっすりすやすや寝てしまった。やぁん、へそ出しするなんて女の子として恥ずかしいよぉ~~。
翌日の夕方、あたいはまだ散歩に行けないので、今日は陸くんに抱っこされて近所を探検中。
どうやら今は”なつやすみ”と呼ばれる時期で子供たちはみんな家にいるらしいが、陸くんの妹の結衣ちゃんは友達の家に遊びに行ってしまったらしい。
「あれ、陸じゃない」
”まんしょん”の中庭を通り抜けたところで、一人の女の子が陸くんに小走りで近寄ってきた。年は陸くんとほぼ同じくらいか。
その時、あたいの危険察知スキルが初始動。この子を警戒しろと頭の中で警告してきた。やばい、やばい。早く逃げないと……。
「何これ⁉ もふもふして可愛い‼」
女の子はそう言うと、陸くんからあたいを奪って、ギュツと抱きしめた。
「クゥーン、クゥーン(ちょっと⁉ く、苦しいって!)」
あたいはイヤイヤしながら体をよじるが、身動き出来ない。やっぱりこの女はとっても危険だわ……。
「おい、陽菜。いきなりももに触るなよ。びっくりするだろ」
陸くんがぶっきらぼうに言う。
「えー、だって可愛いんだもん」
女の子は渋々あたいを陸くんに返した。
「ももはうちで飼うことになった柴犬なんだ」
「ふーん、柴犬ねえ。黒いからハスキー犬みたいだよ」
「柴犬は赤毛が有名だけど、黒や胡麻色もいるんだ」
「へーっ、そうなんだ」
陽菜はちょっと感心しつつ、あたいの頭をなでなでする。
「ももちゃん、こんにちは。あたしは陸の幼馴染の陽菜だよ、これからよろしくね」
あたいの生涯のライバルとなる大和田陽菜との初めての出会いだった。