芽生えた気持ち
わたしが初めてお兄ちゃんを見た時の印象はとても怖そうな人…。
ぶっきらぼうでわたしとそんなに歳が変わらない癖に何処か達観していて。
でも温かそうだった。そんなお兄ちゃんに甘えていっぱい困らせた。
家族になってやるって言われた時の事を今でも覚えてる。
わたしの世界にはママしかいなくて、ママがわたしの全てだと思ってた。
でもこの人がわたしの家族になったらって思ったらとても安心できた。
実際お兄ちゃんと過ごしていく度に、お兄ちゃんへの愛情が溢れていく。
その時からわたしの中でお兄ちゃんが全てになった。
お兄ちゃんが卒業した時、とても怖かった、お兄ちゃんが居なくなったような気がして。
でも学校から帰ってもお兄ちゃんは直ぐにわたしの傍に居てくれる。
それが当たり前になって、わたしにはいつでもお兄ちゃんがいるって思ったら段々一人でも大丈夫になった。
最近お兄ちゃんが勉強してる理由が、寮のある学園に行く為だったと知った時もショックだったけど、わたしも一緒に居るために努力しなきゃと思って学校に早く行って自習したりもしてる。お兄ちゃんにかっこ悪いとこは見せたくないし。
お兄ちゃんとした約束は今でも覚えてる。わたしがちゃんと頼れるようになったら結婚してくれるって。
結婚したらずっと一緒に居られるもんね。楽しみだな。
お兄ちゃんと本物の家族になれる。それはとても嬉しい事。
でも約束忘れられちゃったらどうしよう…。そんな事ないよね、例え忘れててもわたしが拗ねたら直ぐに言う事を聞いてくれる。そんな事を考えてるわたしは、本当に駄目妹だなぁって思った。
今日も早くに教室へ向かい、一人で自習をする。勉強に集中してる時は何も考えなくて良いから楽だ。
「陽菜ちゃん、おはよ、今日も早いね」
「うん、おはよ、美樹ちゃん、ふふん、最近勉強頑張ってるからね!」
得意気に話すわたしだけど、美樹ちゃんの方が成績は良い…。悲しい事に。
「陽菜ちゃんはお兄ちゃんの為に頑張ってるからねー」
そう言ってわたしをからかうように話す。
「も、もう、やめてぇ、恥ずかしいから」
「お、最初は必死で誤魔化してたのに今は否定する事もしないのかぁ」
「もうあきらめてるからねっ」
美樹ちゃんにからかわれるのはこれが初めてじゃない。
わたしがお兄ちゃんと同じところに行きたい!って言ってしまった為に。
「じゃあ、今日の放課後一緒に本屋でも行く?参考書とか見たいし、ついでに街ブラでもしよー」
「あ、良いね、わたしも気分転換になるし」
勉強ばっかりしてると頭パンクしちゃうからね。お兄ちゃんも最近帰り遅い時あるし。
拗ねてばっかりで勉強おろそかにしてたら、本当に離れ離れになっちゃう。
わたしは放課後になるまで、ずっと勉強の事を考えていた。
放課後になり、美樹ちゃんと学校を出る。
「んー、すっかり冬になりそうだね、少し冷えるなあ」
「もうすぐ卒業だしね、美樹ちゃんは良い所に行くんでしょ?」
「そうだねぇ、陽菜ちゃんも同じところが良いと思ったけどお兄ちゃんのところに行くもんね」
「うん、少しでも良いから一緒が良い」
そう言うと美樹ちゃんはわたしの顔をニヤニヤと見つめる。
「陽菜ちゃん、すっかり恋する乙女だね」
「え、恋…?違うよ、お兄ちゃんと一緒に居たいだけだよ」
「えー、そうなの?家族として?」
「そうだよ?それに恋なんて良く分かんないし、わたしは家族としてお兄ちゃんが大好きなの!」
「そうなんだぁ、てっきり恋してるのかと思ったよ」
「もう違うからねっ」
わたしはお兄ちゃんの傍に居られたら良い。家族としてずっと…。
その思いはずっと変わらない。きっとこれからも。
「私も恋してみたいなぁ」
「美樹ちゃんなら直ぐ出来るんじゃない?」
「えー無理無理、タメの子は子供っぽく見えちゃって、恋するなら年上が良いなぁ」
「年上かぁ…良いんじゃない?」
年上と聞かれてお兄ちゃんを直ぐに想像してしまった。お兄ちゃんが恋人なら…?全然実感が沸かない。
「陽菜ちゃんが恋してないなら陽菜ちゃんのお兄さんとかどうかなぁ」
「え、お兄ちゃん?駄目だよダメダメ」
「陽菜ちゃんはお兄さんに恋人が出来るのは嫌なの?」
「うーん、どうだろ、でもわたしに構ってくれなくなるかもじゃん!」
なんだかムキになってしまう。それにムカムカしちゃう。なんでだろ。
でもお兄ちゃんはわたしと結婚してくれるって言ったもんね…。
あれ、でも結婚って好きな人同士でするんじゃ…。いやいやわたしたちは好き同士で。
頭の中がぐるぐるする。すると、美樹ちゃんが突然足を止めてわたしの方へ向いた。
「ねぇ、あれ噂のお兄さんじゃない?」
「え、あれ本当だ…」
「女の人と居るね、凄い美人さんだ」
「う、うん…」
なんだかむず痒い…。スッキリしない。なんでだろ…。お兄ちゃんに恋人…?
それは喜ばしい事だよね。でもわたしに構ってくれなくなったら、ううん、お兄ちゃんはそんな事しない。
「ねぇ、後着けてみようよ」
「え…」
「もう陽菜ちゃん凄く気になるって顔してるもん、バレないように早く行こ?」
「わわ、待って、引っ張らないで、美樹ちゃんっ」
考える間もなくわたしは美樹ちゃんに引っ張られて、お兄ちゃん達の後を追った。
後をつけて少し経ったくらいだけど、店を見て回ったりしてるだけ。
美樹ちゃんも何も無い変化に既に心を落ち着かせてた。
「面白い事起きそうにないねぇ」
「そうだね、なんかお兄ちゃんに悪いからもうやめない?」
「これ以上はお兄さんに悪いかもだしねぇ」
でも、わたしがそう提案したのはきっとお兄ちゃんに悪いって思いじゃなく、これ以上見たくないだけ…。
でも美樹ちゃんが指を指して興奮気味に声を出す
「あ、見て、手を繋いだよ…」
わたしは目を見開いた。なんだろう…。胸が苦しくて…、心臓の音がうるさい位に響いてくる。
身体中が熱を帯びてるみたいに重たい。それでもお兄ちゃんから目を離すことが出来ない。
それから足を止めてお互いに向かい合う。何か叫んでるみたいだった。
街の喧騒に掻き消されて何も聞こえない。
でも、少しして、お兄ちゃんが真剣な表情になり、女の人の肩に手を掛けた…。
「美樹ちゃん、行こ!」
「え、待ってよ、これからなのに」
わたしは美樹ちゃんを引っ張って、何処に向かう訳でも無く、適当に走る。
とにかく、この場から離れたかった。それに…。分かってしまった。
これ以上見たくない。わたしは…嫉妬してる…。わたし以外の女の人がお兄ちゃんの隣にいる事に。
負の感情が身体中を支配しようとする。このままじゃ駄目になっちゃいそう…。
わたしはこの時、、、お兄ちゃんに恋をしてると、はっきりと自覚した…。