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泥土に咲く花  作者: りゅ氏
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プロローグ

初めて書きます。稚拙な文章ですが、良ければご覧になって下さい。

なるべく毎日更新していきたいです。

俺が産まれた時、この世を呪うように泣いていたと思う。

何故産んだのか、それは永久に分からない。産んで直ぐに両親に捨てられたからだ。

ご丁寧に名前と産まれた日付を添えてたらしい。意外と律儀と褒めるべきだろうか?

但し、名字は書かれていなかった。恐らく特定を免れる為だと思う。


そして施設へと預けられた俺は佐倉 琉弥(さくら りゅうや)と名付けられた。

佐倉というのは施設長である、静音(しずね)さんの名字から貰い受けたものだ。

産まれた時から両親が居ない為、別に憎んでも無いし恨んでもない。

ただ、実感が無いながらも、家族なんてものは

信じてはいけないという事だけは頭に浮かんでた。

この施設にはそういった訳ありな子供が沢山いる。

家族というものの信用を地に墜とすには十分だった。


でも静音さんは言う。家族は助け合うものだと…。

俺をここまで育ててくれた恩人でもあるし、それが仕事以上の感情が含まれている事も伝わっていた。

だからと言って元々両親もおらず、周りを見て育った俺はその言葉を信じる事が出来なかった。

面倒になったら直ぐに裏切るにきまってる。


そんな春のある日の事、静音さんに呼ばれて施設長室に行ってみると、俺よりも小さな女の子と一緒に静音さんが並んで立っていた。


「いらっしゃい、琉弥君、今日は紹介したい子がいるの」


静音さんが笑顔で出迎えてくれて女の子の方を見る。釣られて俺も女の子を見ると、直ぐに静音さんの後ろに隠れた。


「あらあら、恥ずかしがり屋さんね」


静音さんは大丈夫だからとその子に話しかけ、女の子が恐る恐る、前に出る。


「この子の名前は藤野 陽菜(ふじの ひな)ちゃん、仲良くしてあげてね」


紹介された陽菜は、おどおどしており、今にも泣きだしそうな表情で俯いていた。

俺はなるべく脅かさないようにゆっくりと話す。


「えっと、こんにわ、陽菜、、で良いかな?俺は佐倉 琉弥、よろしくね」


俺は握手をしようとして、手を差し出す。陽菜は一瞬ビクッとするがゆっくりと手を差し出し、握手をした。


「琉弥君にはね、この子の面倒を見てもらいたいの。施設暮らしも長いし、色々教えてあげてね」

「任せてよ、静音さん」


俺はこの時、軽い気持ちで受けてしまった事を後悔した。




静音さんに任され、二人きりになる。そして子供ながらにずけずけと質問していく。


「なぁ、お前も捨てられたのか?」


その言葉で突然泣き出す陽菜。俺はどうしていいか分からず、おろおろする。


「ひっく、ひっく…捨てられてないもん!ママは絶対迎えに来てくれるもん!」


突然ヒステリックの様に泣き叫ぶ陽菜にどうしていいか分からなかった。


「ごめん、もう言わないから泣き止んでくれ」

「ぐすん…」


余計な事は聞かない方が良いなと早々に理解した。なので話題を変えてみる。


「な、なぁ、好きな食べ物はなんだ?」

「ママの作ってくれたハンバーグ…」


そう言ってまた泣く態勢に入ろうとする陽菜を慌てて止める。


「ああ、ハンバーグなぁ!俺も好きだよ!美味しいよな、ケチャップで文字書いたりな」

「それはオムライスだよ、グスン」


すまん、ハンバーグにも顔文字みたいに描いてた。でも陽菜にそんな事を言っても仕方ないので。


「オムライス、美味しいよな!うんうん」

「ママがね、いっつもオムライスにヒナLOVEって書いてくれてたの」


め、面倒くさい…。どうしたらママから離れてくれるんだ…。

そう言ってポケットを探ってみる。するといちごミルクの飴が入っていた。


「そうだ、陽菜、泣き止んだら、良いものあげるよ」

「良いものって?」


キョトンとしてる陽菜に俺は得意げにポケットから取り出す。


「じゃじゃーん、いちごミルクキャンディー!」

「わあ…」


陽菜の表情が晴れやかになっていく。効果は抜群だったみたいだ。


「はい、これ舐めて元気だして、泣き止め!」

「ありがとう、お兄ちゃんっ」


そう言って無邪気に喜ぶ陽菜の表情に俺はドキッとしてしまった。

陽菜の奴、ちゃんと笑う事も出来るんだな。

ほんの少しだけど、陽菜に近づいた気がした。




それからも俺は陽菜の教育係として色々な物を教えてあげた。

でも泣き虫は治らず、それが何度も続いて俺もストレスを感じるようになってしまう。

夜は一緒の布団で寝てるのだけど、夜中に起きて泣き出すのを聞いて俺も目が覚めて眠れずにイライラしていた。

静音さんはなんで俺に任せたんだろう。正直言って投げだしたい。誰かに任せられないのか。

色んな考えが浮かんでは消えていく。そういう時は大体良くない方向に進んでいるのだ。


そして溜まっていたものが一気に流れ出すのにそう時間は掛からなかった。

例によって夜泣きを始める陽菜。俺はたまらず、叫ぶ


「いい加減にしろよ!泣いたってお前のママは来ないんだよ!お前は捨てられたんだ!」


後から冷静になって考えるととても酷い事を言ったと思う。でも冷静じゃなかった俺は、一度負の感情が流れ出すと止まらなかった。


「いっつも泣いてばっかりで、こっちの事も考えろ!お前はそんな泣き虫だから捨てられたんだろ!」

「ぅぅぅ・・・ご、ごめ・・ん・・なさい・・・」


言葉にならないような声で懸命に搾りだそうとして謝る陽菜。

ああ!もう…分かってるから。そんなに責めないでくれ…。

任されたものを途中で投げ出したら俺を捨てた両親と何一つ変わらないって事ぐらい。


いつ見回りの先生達が来るかもしれないこの状況で俺はついに行動に出た。

泣き止まない陽菜の身体をその手で力いっぱい抱きしめる。

すると、陽菜の泣き声が止まった。

「俺には、初めから両親なんて居ない。家族なんてものも分からない。だから途中で捨てられたお前の気持ちなんて分からない」

「お、にい、、ちゃん?」

「そんなに家族に会いたいなら…俺がなってやるよ、、お前の兄貴に」

「お兄ちゃんに…?」

「お前が泣きたい時、困った時、辛い時、俺が必ず傍にいて助けてやる。力いっぱい抱きしめてやる」

「…うん」


身体の力が抜けてた陽菜に力が戻り、俺をそのまま抱きしめる。


「だから、泣き止めなんてもう言わない、思いっきり泣け…。泣いて泣いて、スッキリするまで泣け。それまでずっとこうして抱きしめてやるから」

「お…おにいちゃーんっ!」


陽菜の方も力いっぱい俺を抱きしめる。俺は先生が駆けつけてくるまでそのままずっと泣いてる陽菜の頭を撫で続けた。でも、この泣き声は俺達の新しい関係を祝福しているようにも聞こえた。

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