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勇者奴マサヒコ様

「線香、線香、あっしの線香、ん~、良い香り~」


香炉に突き刺さった燃える線香の煙を楽しむイービルロード、場所は宿場町の大通りに面した古ぼけた雑貨屋の前だった。



両手に持った簡素な香炉から立ち昇る線香の香り──燻ぶる線香の煙を吸い込んで悦に浸るイービルロードのその姿は、どこか阿片中毒者に通ずるものがある。





とはいえ、イービルロードが楽しんでいる線香は、どこにでもある普通の線香だ。



何か麻薬のような成分を練りこんでるとか、そういう代物ではない。


なので、普通の人間が線香の煙を嗅いでも特に恍惚になったり、多幸感たこうかんが得られるというわけでもなかった。



だが、死者であるアンデットには、線香は一時的ではあるが、安らぎや幸福感をもたらしてくれる。



アンデットにとって線香は、人間でいうところの酒、タバコに近いものと思えばいいだろう。



もっとも、そのせいで線香に耽溺し、中毒になるアンデットもいるのだが。



イービルロードは、相変わらず両眼を潤ませて、ご満悦の様子だ。




はたから見れば、愛くるしい幼女が香炉を持ってニヤニヤしているという、少しシュールな光景だった。


と、その時、宿場町の警報が甲高く鳴り響いた。


「マサヒコ様だっ、マサヒコ様が来たぞォォっ」



宿場町の番屋の男たちが、大声で通行人に向かって警告を発した。



その言葉に人々はざわめいた。


怯えの色を顔に宿す娘、我が子を抱きかかえる母親、ただ、震える者、反応は様々だ。



露天商や行商人だけではなく、通りに連なった店の者たちまでもが、慌てて面に飛び出すと、商いを放り出して、地面に土下座をはじめた。




地べたの額を押し付け、ただ、宿場の人間達は、嵐が過ぎるのを待っているようだった。



すると、通りの向こう側から大勢の兵士を引き連れた一団が現れたではないか。



勇者奴ゆうしゃやっこであるマサヒコの率いる私兵の荒くれ集団だ。




勇者奴とは、強い力を持ち、国から特権を与えられ、その与えられた権力を笠に着て、弱者に対し横暴なふるまいをする者たちのことを言う。


平民相手にやりたい放題の勇者奴は、しかし、国のほうも見て見ぬふりをした。



なんせ、勇者を討つには、かなりの金がかかる。


それこそ、ちょっとした戦争レベルの出費を強いられる。


その癖、何も得る物はない。


領地や財宝、資源が手に入るでもない、ただ、浪費をするばかりの戦争だ。






それにヘソを曲げられて他国に引き抜かれる可能性だってある。


こうなると、国のパワーバランスが崩れ、、他国が侵略戦争を仕掛けてくる恐れがある。



もし、国が奪われれば、どうなるか。



秩序も何もなくなる。



それならば平民、領民、農奴を犠牲にして目をつむっていたほうが安上がりだ。


そう判断した王侯貴族は、結果、勇者奴の暴虐を黙認した。



力こそがすべての世界だ。



世はまさに末法せいきまつの時代を迎えつつあった。



なお、不思議な事にこの勇者奴は、別の世界からこの世界に何かしらの異能を与えられてやって来る異邦人が多い。


「マサヒコ様っ、この娘、中々の上玉ですぜっ」



十歳ほどの少女を母親から無理やり引きはがした兵隊が、マサヒコの元へと連れていく。



「ふうん、中々可愛いじゃないか。俺の孤児院しょうじょぼくじょうにいれてやろう」


「お許しをっ、どうかご慈悲をっ、マサヒコ様ァっっ!」



悲痛な叫び声をあげ、マサヒコの乗った馬車の前に娘の母親が追いすがる。


だが、次の瞬間、母親の首を兵士の剣が切り落としていた。



「へへ、マサヒコ様は貴様のようなババアはきれえなんだよ」


地面に転がった母親の生首を蹴りつけ、兵士が顔を歪ませて嗤った。




「うわああああァァっ、お母さんっ」


目の前で母親を殺されたショックのあまり、発狂する娘。



派手な装飾を纏わせた馬車のドアを開け放ち、マサヒコが降り立つ。



その傍らには、手足を切断され、人犬に堕とされた少女達の姿が見えた。



マサヒコの孤児院から脱走し、失敗してしまった少女達の哀れな末路。


孤児院から脱走した者達は、このように手足を切り落とされ、舌を抜かれ、見せしめとして人犬に落とされるのだ。




「ああ、なんという惨いことを・・・・・・」



宿場の者たちは、そんな無残な少女たちに涙をこぼした。


そして、彼らは天に向かって嘆いた。


神は我々を見放されたと。




「さあ、見るが良い。この俺の孤児院から逃げようとした愚か者たちの末路だ」



サディスティックな笑みを浮かべ、マサヒコが嘲るようにいう。




マサヒコの孤児院に一度入った少女達は、二度と日の出を拝むことはできない。


そして十二の年を迎えた少女は、年増として処分されるのだ。



兵士たちの慰み者にされた挙句、生きたまま切り刻まれるか、串刺しか。


そんな末路を迎えることとなる。



マサヒコは発狂した少女を見下ろすと、ゴミは焼却処分だとファイアーボールを浴びせた。



「マサヒコ様っ、かなりの上玉を見つけましたっ」



兵士の一人が香炉を持った娘をマサヒコの前に連れてくる。


先ほど燃やした少女など比べ物にならぬほどの美しい娘だ。



だが、少々、目の焦点が合っていない。


「なんだ、物狂いか?」


線香、線香と嬉しそうに呟き続ける童女を見下ろし、マサヒコはいぶかしんだ。



「おいっ、マサヒコ様に挨拶しねえかっ」




兵士のひとりが香炉を掴み、地面に放り投げた。


その衝撃に香炉が砕ける。


「・・・・・・あああっ、俺の香炉がああああああァァァッッ!」



突如として、悪鬼の如きを張り付かせた童女が、香炉を壊した兵士の腹を鎧ごと手刀で貫いた。


「は、はえ?」


間抜けな面を浮かべた兵士の腹から白い腸を引き抜き、マサヒコの顔面に叩きつける。



そのまま跳躍した娘──イービルロードは他の兵士達を無差別に引き裂いていった。



マサヒコたちは自らの手で、地獄の竈の蓋を開け放ったのだ。




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