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Arseare ~創魔の術師が行なう魔術観光~  作者: 柿の種
第5章 記憶残る白霧の先にて

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Chapter5 - Episode 33

すいません、Apexの大会のコーチとかやってたら遅れました


魔術を使って加速する必要はない。

なんせ、少し踏み出せばダチョウの身体が私の視界一杯に広がるのだから。

だからこそ、私は姿勢を低くしつつ周囲に霧を濃く……通常ならば一寸先すらも見えないほどに濃い霧を展開し、


「さっきの御返しだよ」


動作行使で発動した【衝撃伝達】を乗せた蹴りを、ダチョウの胴体へと叩き込んだ。

ぐしゃり、という音と共に私の脚の形状に凹んだ部位を中心に、衝撃波が発生し。

結果として、


『――ッ!?!』

「おぉ、やっぱさっきの個体との違いは結構出てるねぇ」


その場で悶絶しつつ、やがて動かなくなり光となって消えていった。

目の前の障害は消えた。しかしながら、ここは敵陣の中央に近い位置だ。

つまりは、まだ周りには敵性モブが多く……その殆どが私に向かって敵意のある視線を向けていた。


……こういう戦闘多いよねぇ私。

対多戦闘が多い、というべきか。それとも普段はソロで活動しているから仕方ないというべきか。

いや、ソロで活動している時よりも誰かとパーティを組んでいる時の方が周囲を敵に囲まれる事が多い。

一番最初のミストイーグル然り、防衛戦然り、グリムやメウラ達と組んだ時然り。

そんな経験を繰り返していたからだろうか。


「それは喰らわないかなぁ」


背後から来ていたミストウルフの前足での切り裂きを、そちらを見ずに横に軽く身を逸らすだけで回避する。

空気の流れ、音、そしてここまでの経験。

それらが嚙み合わさり、結果として背後からの攻撃を予測し避けることが出来る。

……かっこいい事考えてるけど、まぁ同時に複数方向はきっついから本当に見かけだけなんだよねぇ。


「よし、試せるものは試そう」


だが、所謂『かっこつけ』でも相応に効果のあるものも存在する。

周囲に濃く展開している霧を、操作技術で複数に分け、そして成型していく。

その形はシンプルに、そして既に確立されている形に。


「よしよし、おいで【霧狐】」


周囲からの攻撃を適度に捌きつつ、私はその作業を続ける。

目の前にダチョウの鋭い蹴りが通ろうと。

頭上からイーグルが体当たりしてこようと。

私を囲むように複数体のウルフが飛び掛かってこようと。


それらを見て、避け、時に魔術や武器を使いその数を減らしながら、私は成型を続ける。

自分の経験値による見切りに近い戦闘技術と、【霧狐】や装備による探知が出来るからこその作業をしながらの対多戦闘。

そうして出来上がったのは、


「よし、出来たッ!やっぱり狐って言ったらこうだよねぇ」


複数体の濃霧で出来た意志の無い霧の狐達。

【霧狐】のように探知が出来るわけでも、【血狐】のように戦闘が出来るわけではない。

ただただ霧を狐の形に固めただけの実体のないまやかしでしかないそれらは、しかしながら今のような対多戦闘で役に立つと考えて前々から考えていた秘密兵器と言っても過言ではない。


私はインベントリ内から久々に煙管を取り出すと、それを口に咥え一息。

勿論、中に煙となるものが入っているわけではないし、一服するために取り出したわけでもない。

出てくるのは中に仕込んである魔術言語によって発生した霧だけの、おもちゃのような代物だ。

しかしながら、この場ではただの舞台装置として取り出した。


「ふふ、じゃあ行こうか」


私は普段ずらしている狐面をしっかりと顔に装着し、そして煙管を手に持ちタクトのように振るう。

すると、だ。

濃霧で出来た狐達は一斉に動き出し、周囲の敵性モブ達へと襲い掛かった。

無論、攻撃能力はない。ダメージすら皆無の、ただの狐の形をした霧だ。

敵性モブの中にはこのダンジョンに生息しているからこそ、霧を見通す能力を持っているモノもいるだろう。

現にミストウルフの1匹が突っ込んでくる濃霧の狐を真正面から蹴散らし、私の方へと襲い掛かろうとして、


『――ッ……』

「あーあ、霧だからって油断したねぇ」


その身体全体を、氷漬けにしてゆっくりと横へ倒れていった。

再三言うが、濃霧の狐に戦闘能力はない。

だが形自体になくとも、内部に霧で成型した魔術言語を仕込むことは可能だ。


「なんて名前つけるべきかなぁ……とりあえず『狐群奮闘』とかにしとく?」


茶化すように言いながらも、私の手は止まらない。

周囲の霧を使い、狐を成型しそして敵へと向かわせる。

下手に相対しようとすれば、内部に仕込んだ『触れた生物を』『面積分』『凍らせる』魔術言語によって狐の大きさ分だけ凍らされる。

上手くそれらを掻い潜って私の元へと辿り着けたとしても、


「ご褒美をあげよう。霧の刃だ」


私の周囲に浮かぶ、実体のある霧の刃が歓迎する。

……対モブよりかは対人向けだろうけど、まぁやっぱりある程度の効果はあるよねぇ。

踊るように、周囲に来た敵を蹴散らしながら濃霧の狐を操り敵の数を減らしていく。


結果として、私の周囲にはモブの氷像が立ち並び。

フィッシュやメウラ、グリムなどの動けるプレイヤー達がそれらを砕き終わると共にウェーブが終了した。


【Nine Wave Clear!】

【Next Wave :0:05:00】

【ウェーブ発生条件を満たしていません。防衛を終了します】


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