美少女先輩登場
水曜日の昼休み、自販機の前で、恵太はイチゴミルクを買うか、コーヒー牛乳を買うかで迷っていた。
隙を見せると、いつも勝手にボタンを押してくる侑斗は、今日はいない。昼一番が体育で、着替える必要があるからだ。
…やっぱりコーヒー牛乳にしよう。
心を決めて、ボタンを押そうとした時、後ろから声をかけられた。
「川上恵太…くん?」
振り向くと、ちょっとそこらへんにはいないような綺麗な女子が立っていた。
切れ長の目、サラサラの黒髪、美しい頬に、果実のような唇。
一目見ただけで、恵太は、この人を美人と思わない人はいないだろうな、と思った。
「はい?」
返事を返すと、その人は恵太の足元を見て黙っている。
上履きの色は二年生。どうやら、一年先輩のようだ。
「あの…、川上…、恵太くんで間違いないよね?」
美少女先輩が小さな声で言う。
「はい。間違いないですよ」
美少女先輩は、まだ足元を見ている。
「何か用ですか?」
気を利かせて恵太が聞くと、美少女先輩が制服のスカートをきつく握りしめた。
「あの…」
美少女先輩は、それきり、また黙ってしまう。
恵太は根気よく、美少女先輩が話し出すのを待った。でも、すぐに予鈴が鳴った。
「予鈴、鳴りましたよ」
恵太が言うと、美少女先輩はやっと顔を上げ、恵太を見た。
「あの…、今日、一緒に帰ってくれる?できたら二人で。その…、真中くん抜きで」
侑斗の名前が出て、恵太はちゃんと理解した。
侑斗目当ての女子に声をかけられるのは、恵太にすればごくごく普通のことで、この美少女先輩も、おそらく、侑斗のことで何か話があるに違いない。
「あ、わかりました。いいですよ」
美少女先輩が嬉しそうに微笑む。
「まーやー、早く!間に合わないよ!」
そういって美少女先輩を呼ぶのは、どうやらお友達らしき二年の先輩。
「わかった。すぐ行く」
返事をすると、美少女先輩はもう一度恵太の方を振り返った。
「じゃぁ、今日、放課後に裏門で」
美少女先輩改め、まや先輩は、そう言うと、急いでお友達の方へ走り出した。
その姿は、どこかで見たことがあるような気がする。
…そうだ、弓道場で矢を射てた先輩だ。
既視感の原因がわかって恵太はちょっとだけスッキリした気がした。
自販機のボタンを押すと、出てきたのはイチゴミルクだった。