幼馴染、真中侑斗
「帰ろうぜ、恵太」
女子のざわめきとともに、学校一のイケメンと名高い、恵太の幼馴染、真中侑斗が教室に入ってきた。
恵太の前の席に、後ろ向きにどかっと座って、侑斗が恵太の手元を覗き込む。
「日直かよ。そんなの適当に書いちゃえばいいのに」
侑斗の長い睫毛が整った顔に影を落とす。
何か話しかけたそうな女子たちが、遠回しに侑斗を見ている。
皆が遠巻きに見ているだけの中、いかにも自信ありげな女子が笑顔を作って近づいてくる。
「真中くん、今日、一緒に帰らない?」
声をかけてきたのは、クラス一の美少女、河野さんだ。
周りにいる男子たちから、不満そうな空気が漏れる。
「…」
侑斗は恵太の手元を覗き込んだまま、河野さんに答えもしない。
河野さんが、笑顔を崩すことなくもう一度言う。
「良ければ、何か食べて帰らない?」
侑斗は、河野さんを見もしない。
「俺、こいつと帰るから」
「じゃぁ、川上くんも一緒に。ね、いいよね? 川上くん? 私も、友達と一緒だし」
河野さんは負けじと食らいついてきた。
同じクラスといっても、入学してから早1ヶ月、河野さんと話したことは一度もない。
それなのに突然話を振られて、恵太は曖昧に笑って見せた。
「ね?川上くんもいいって言ってるんだし」
一言もいいなんて言ってないけど、河野さんは勝手に答えた。
高校で侑斗に再会してからというもの、こんなことが毎日起こる。侑斗がもてるのは仕方がないと思うけど、普通男子の恵太としては、正直毎回戸惑う。
「行かねーってんだろ」
イラつきを隠さずに侑斗が答えた。もちろん、河野さんを一瞥もせずに。
「日誌かけたか?」
河野さんを無視して、侑斗が恵太に話しかける。
河野さんの顔が引きつっているのが空気だけでわかる。
平和主義の恵太は、こんな雰囲気の中にいるだけで、じわりと汗をかいてしまう。急いで日誌を書き上げて席を立つ。
「いくぞ」
侑斗に急かされて、バタバタと教室を出ていく途中、河野さんに声をかけた。
「あ、じゃぁ、またね」
河野さんの目は、うるせーよ、気安く話しかけてんじゃねーよ、雑魚が!と恵太に語った。